鈴鹿8耐に向けて活動開始! 「原田イズム」とは? NCXX RACING with RIDERS CLUB
何のために鈴鹿8耐に参戦するのか──。原田哲也監督が求めるのは、ただひとつの勝利ではない。本当の意味で強いチームを作り上げることだ。世界グランプリのファクトリーライダーを務めた男は、レースに真摯に向き合う。世界の頂点を知る「原田イズム」が、初回のキックオフテストから炸裂した。ライダースクラブは熱き戦いの軌跡に内側から迫り、詳しくレポートしていく。
晩秋の鈴鹿8耐に向けて早くも始動! NCXX RACING with RIDERS CLUB
最近はバイクでのいろんな遊び方を提案している僕、原田哲也ですが、久しぶりにリアルレーシングの現場に戻ってきました。昨年発表しましたが、ネクスレーシングの鈴鹿8耐参戦にあたり、チーム監督という役目を仰せつかっています。
昨年はコロナ禍の影響で鈴鹿8耐は中止。チームはほぼ活動できませんでした。今年も現時点では11月7日の鈴鹿8耐開催がアナウンスされてはいますが、どうなるか予断は許さない状況です。 そんな中でも「チームとしてやるべきことはやっておこう」と、5月9〜10日の2日間にわたり、鈴鹿サーキットでテストを行いました。
参加したライダーは、伊藤勇樹選手と長尾健史選手。健史くんの兄、健吾選手もライダーにラインナップされていますが、全日本ロードのテスト日程と重なってしまい、残念ながら欠席です。
テストの主目的は、8耐仕様のヤマハYZF-R1で走り込んでもらい、マシンに慣れてもらうこと。セットアップも少し進めましたが、タイムアタックはしませんでした。
勇樹くんはふだんアジアロードレースでR1に乗っていますが、タイヤはダンロップ。我がチームが使うのはブリヂストンタイヤなので、タイヤメーカーが変わる難しさと直面しています。
健史くんは全日本ロードST600クラスに参戦しており、1000㏄マシンに乗る機会はそう多くありません。 ふたりともコロナ禍の影響で、それぞれのカテゴリーでも、テスト走行の機会も少ないのが現状です。モトクロスやミニバイクでトレーニングを重ねていますが、目や体を慣らすにはやはり本番バイクでの走り込みが必要でしょう。
僕は主にS字コーナーで走りをチェックしました。健史くんは外からで分かるほどチャター(微振動)が出ていましたし、勇樹くんは怖々。ふたりとも乗りづらそうでした。 キックオフしたばかりの今の段階では、まずライダーが安心して走れるマシンセッティングを出してあげることが最優先。チームにはそうお願いしました。 ここはいろいろな考え方があるポイントです。
ライダーが走り込むことでマシンに慣れろ、と言うこともできるでしょう。でも僕は、まずライダーを優先したい。乗りづらいマシンで無理をして、転んで痛い思いをするのはライダーですからね。 それよりも、チームが安心して走れるマシンを提供すれば、ライダーは気持ちよく攻めてくれます。結果を求めるのはその先でしょう。
もちろん、僕の目から見ると、ライダーそれぞれに課題はあります。でも走り方をうんぬんするより前に、ちゃんと走れるマシンを用意してあげることを最優先しました。 僕が監督になり、チームは緊張感が増したようです。
世界グランプリのファクトリーチームを経験した僕からすると、チームにも課題があります。今の段階ではチーム側にやるべきことが多いので、かなり意識を変えてもらう必要がありました。
一方ライダーにアドバイスさせてもらったのは、できるだけ多くの情報をエンジニアに与えることです。 「チャターが出る」という現象ひとつ取ってみても、何をどうした時に出るのかをエンジニアに伝えて欲しい。また、どういう時には出ないのかも大事です。
荷重が多くかかっている時はどうか、かかっていない時はどうか、リアブレーキを使うとどうなるか、使わないとどうか……など、ライダーが確かめるべきことはたくさんあるんです。そうやって多くのフィードバックが得られれば、セットアップもスムーズに進められるでしょう。
グランプリは基本的に年1回だけのサーキットを舞台に、短時間でマシンをよりよい状態に持っていかなければなりません。物事を推し進めるスピードがとにかく重要です。だからライダーもエンジニアも、五手も六手も先まで考え抜いています。 そういう環境でレースをしてきた僕の経験は、鈴鹿8耐でも役立つと思います。
スプリントと耐久でカテゴリーは違いますが、バイクを使ってレースをするのは同じですからね。 僕が求めているのは、トップチームになってもらうこと、そしてトップライダーになってもらうこと。
目標はクラス優勝ですが、今年の勝利ばかりに囚われていては見失うものもあります。じっくり時間をかけ、本当の意味で強いチームを作りたいと思っています。(原田哲也)