信頼の絆を深めて、より強固なチームに NCXX RACING with RIDERS CLUB
サーキットならではの緊張感と、笑顔がこぼれる和やかさと──。 ピットには真剣に、そしてレースを楽しもうという姿勢があふれていた。 鈴鹿8耐に向けてのテストが行われたこの日、ネクスレーシング・ウィズ・ライダースクラブはまた1歩、 大きく前進した。濃密な時間を共有しながら、絆が深まっていく。そしてチームは強くなっていく。
不定期連載 NCXX RACING with RIDERS CLUB
観客の姿がない鈴鹿サーキットのS字コーナーに、原田哲也さんがいた。走りすぎるライダーたちの姿を、じっと見つめている。世界の頂点を知る眼差しが、ネクスレーシング・ウィズ・ライダースクラブのライダーたちに向けられている。
その視線は、鋭く、厳しい。だが、柔らかくもある。 6月2〜3日、鈴鹿サーキットでは8時間耐久ロードレースに向けてのテストが行われていた。同チームの監督を務める原田さんは観客席の上部に座り、駆け抜けて行くライダーの走りをチェックしている。
特にチーム員の様子は念入りに確認する。 彼らの走りについてとやかく言おうとしているのではない。原田さんが確認しているのは、「彼らが走りやすいマシンになっているか」だ。
「今、チームが取り組むべきなのは、ライダー3人が気持ちよく走れるマシンを作ること。ライダーの気持ちが乗ってくれば、自然と攻めてくれるからね。今はタイムを取り沙汰する段階じゃない」 ひとしきり走りを見つめ終わると、ピットに戻る。そして走行を終えたライダーたちに声をかける。
「どうだった?」 世界チャンピオンの原田さんを前にしても、若きライダーたちに緊張の様子は見られない。 もちろん「偉大な先輩」への敬意は最大限に払いながらも、4人の間に漂うのは伸びやかな空気だ。監督とライダーが集まっての座談は、終始和やかな雰囲気だった。
原田 今回は2度目のテスト。ライダー3人が揃ったのは初めてだよね。いよいよ鈴鹿8耐に向けて意気込んできたんじゃない?
健吾 僕はこのチームで3回8耐に出させてもらっていますが、いつも「自分が引っ張っていかなければ」という思いがありました。今回は伊藤勇樹くんが加入してくれて、あとは弟の健史というラインナップ。みんな年も近いので、今まで以上に「仲間とともに闘うぞ」という意識でいます。
健史 僕は結構意気込んでいます(笑)。鈴鹿8耐は僕にとって憧れのレース。この舞台に立てるだけでも光栄ですし、優勝したいと強く思っています。原田監督に走りを見ていただいて、いろいろアドバイスをいただけるのも自分にとってはとても大きいんです。マシンへの理解が深まりますしね。
伊藤 僕はアジアロードレース選手権をメインに戦っていますが、去年このチームから8耐参戦のオファーをいただいた時は、素直にうれしかったです。コロナの影響で中止になってしまったのは残念でしたが……。でも、去年のテストの時点でも自信はあったんです。その印象は今年も変わらない。強力な仲間がいて、チームをまとめてくださる原田監督がいる。クラス優勝できない要素はどこにもないと思っています。
原田 おっ、それはめちゃくちゃ頼もしいね(笑)。「仲間」という言葉が出てきたけど、ライダー3人、みんな仲がいいよね。
健史 はい、客観的に見てても、仲がいいなと(笑)。
原田 もちろん舞台は真剣なレースだから、ただの「仲良し3人組」じゃない。テストを見ていると、お互いにチームメイトとしてリスペクトし合いながら、うまく回っているように感じるね。長丁場の耐久レースでは、タイヤがタレてきたり雨が降ったりといろんなことが起こる。
その時にチームの結束が強いと、うまく乗り切れるはずなんだ。僕自身がライダーだったこともあって、チームの方針としても「ライダーファースト」を心がけているんだけど、そのあたりは感じてもらえてるかな?
伊藤 はい! ライダーを立てていただけるのがありがたいです。原田監督は「ああしなさい、こうしなさい」と言う押しつけはしない。そうじゃなくて「どうしたい?」と問いかけてくれる。だから自分で頭を使って考えられるんです。
健吾 僕は25歳なんですが、この年になるとライディングを教えてくれる人もいないんですよ(笑)。でも原田監督はしっかりと走りを見たうえでアドバイスをしてくれる。もちろん自分でもいろいろ考えますが、客観的な意見をもらえるのは本当にありがたい。間違いなく向上の近道だと感じています。
原田 はっきり言って、ライダーがセッティングの方向性を間違えることもある。でも僕は全然構わないと思ってるんだ。チームには「間違っていてもいいからやらせてあげて」と伝えている。何しろ気持ちよく走ってもらうのが1番大事だから。その方が結果もよかったりするものなんだよね。
僕が戦ってきた世界GPもそうだった。データを見て「この方向性じゃないよな」というセッティングも、ライダーが希望するならやってみる。走ってみてのフィーリングってライダーにしか分からないからね。うまく行けばそれでいいし、うまく行かなければやり直せばいいだけのこと(笑)。だからチームとライダーがぶつかり合うことに、あまり意味はないんだよね。
それよりも、「走りのことはおまえに任せる」と信頼してくれた方が、ライダーって頑張るでしょ? 単純な生き物だから(笑)。レース終盤になると誰だって体力的にキツくなってくるけど、その時に踏ん張れるかどうかって、精神力に尽きる。
そういうツラい局面でも、チームスタッフのことを思うと最後の力を出せるものなんだよ。「チームのために頑張らなくちゃ」って。僕は現役時代に「クールデビル」なんて呼ばれてたけど、チームは当時のGPでも1番仲がよかったと思う。「ハラダのピットはいつも楽しそうだな」って評判だったよ。
伊藤 確かに、ウチのチームも原田監督の存在で変にプレッシャーがかかることはありません。……こんなこと言って大丈夫かな(笑)。プレッシャーよりも、前向きな向上心が沸き上がってくるんですよね。テストでもどんどんアベレージタイムが上がっていくし、本当に気持ちよくやらせてもらっています。この雰囲気を本番まで維持していきたいですね。
健吾 セッティングを突き詰めてしまうと、それでしか乗らなくなってしまうんですよね。バランスができあがってしまって、逆に前に進めなくなる。でも原田監督は試行錯誤を勧めてくれるので、今までできなかったセッティングにもトライできる。あえてバランスを崩して物事を動かすっていう方法もあるんだな、と。こういうやり方だと、自分の走りの引き出しがどんどん増えていく気がします。
伊藤 何事もやってみないと分からないですよね。先入観で決めつけないことって大事なんだな、と改めて思っています。
健史 僕も原田監督がいることでプレッシャーは感じてないけど、走りがバレちゃうなって(笑)。でも、「まだためらってるね。もっとスパッと倒し込めるようなマシンにしていこう」と言ってもらえるので、確信が持てるんです。「セッティングが決まれば、自分はもっと攻められる」って。
伊藤 チームの雰囲気はホントにいいですよね。日本のレーシングチームってちょっとお堅い印象があるけど、ウチのチームはアジア選手権みたいな陽気さがあります。僕はそういう方が肌に合ってるし、結果もついてくるんじゃないかと思う。
原田 みんなどうしちゃったの? いいことばっかり言っちゃって。これはメシでもおごれってこと?(笑)でもね、僕は少し時間がかかってでもいいから、強いチームを作りたいと思ってるんだ。目先のタイムや勝利より、チームワークを重視している。
健吾、健史、そして勇樹の3人がそれぞれに高いパフォーマンスを持っていることは間違いない。あとはスタッフとの信頼関係をもっともっと強いものに築き上げていければ、素晴らしいチームになると思う。そういう環境で得たことは、きっとみんなの今後のライダー生活にも活かせる。
コロナ禍でテストもなかなかできないし、今年の8耐もどうなるのか正直まだ分からない。でも、こうやってみんなで真剣に、でも楽しく取り組んだことっていうのは、必ず残るものだからね。何も無駄にはならないよ。ところで今回のテストはどうだった? 充実したものになったかな。
健吾 3人とも接近したアベレージタイムで走れたのがすごくよかったですね。ライダーとしては1発タイムも魅力だけど、みんなが安定して同じぐらいのタイムで走れると、レース戦略も立てやすくなります。個人的には、どうしても自分の感覚に合わずに気持ちよく走れなかった部分が解消しつつあるので、手応えあり、という感じです。
健史 自己ベストタイムが出せて、1000㏄マシンにも慣れてきたかな、と思います。次のテストまでの間にトレーニングを積んで、自分のイメージと実際のタイムがもっと近付くように頑張りたいと思っています。
伊藤 テストって、そうそううまく行くものじゃないんですが、今回は毎セッションともいい内容という、すごく珍しいものでした。ようやくいい車体ができて、レース本番が今から楽しみです。
原田 ベースができたっていう手応えはあるよね。あとは1歩、2歩先の手を考えながら、さらに上をめざしていこう!
長尾健吾
あえてバランスを崩して前に進む
伊藤勇樹
このチームは、向上心が沸き上がる
長尾健史
「自分はまだ攻められる」と確信を持って