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靴磨きは「幸せを生み出す仕事」|シューシャイナー/モデル 伊藤由里絵【モーターサイクルライフ】

警察官時代に靴磨きの大切を教えられ、現在はモデルをしながら、「いとの靴磨き屋さん」としてフリーのシューシャイナーとして活動中。「日本中に足元からハッピーを届ける」をモットーに2022年6月から愛車のボルトとともに靴磨き日本1周の旅に出る予定。

靴磨きとの出会いは警察官時代に

長身でスタイル抜群。スラリと伸びた長い手足でバイクに跨がる姿が様になっている、“いとちゃん”こと伊藤由里絵さん。自然なポージングと柔らかな笑顔は「さすがモデルさん!」と思わず言ってしまうほど納得の写真だ。ところが、じつは彼女、「いとの靴磨き屋さん」という名前で百貨店やオフィス、バイク関係では二輪用品店やライダースカフェなどで靴磨き職人として活動を続けるシューシャイナーでもある。

経歴を遡ると、元は警察官。「白バイに乗りたい!」という想いで警察官を目指し、高校在学中に二輪免許を取得。高校卒業後は警察学校に入学し、警察官になって先ずは町の交番へと配属され、憧れの白バイに乗るための基礎実務経験を積み、最短ルートで白バイの訓練と検定をクリアする。だが、白バイやほかの業務も経験していく中で、ふと幼い頃からの夢だった「モデルになりたい」という想いが胸をよぎった。

以前は両親からの反対もあり諦めかけていたことに、今なら挑戦出来ると思ったいとちゃんは、上司にその熱い想いを打ち明け、皆に後押ししてもらいながら4年間従事した警察官を辞め、モデルの道へと進むこととなった。

では、はたしてどこで「靴磨き」と出会うのだろう。「靴磨きは警察学校にいる頃からやっていました。当時は“やらされてる感”が強かったんですが、警察官を辞めてモデルの仕事をするようになってから、初めて友人の靴を磨いてあげたんです。そしたらものすごく喜んでくれて。その姿を見ていたら、靴磨きで喜んでくれる人はもっといるんじゃないか。仕事にしたら面白そう、と思ったのがきっかけでした」

こうして靴磨きを始めたのが2年前。当初は独学で靴を磨いていたいとちゃんだが、活動をインスタグラムで発信していたところ、靴磨きの世界大会でも優勝した経験のあるシューシャイナー長谷川裕也さんに声を掛けられ、同じチームで活動することに。

「最初はただ光らせることばかり考えていましたが、師匠にまず革について知ることが大事と言われ、革がどんな工程で作られているのか姫路のタンナー(革の鞣し工場)さんへ工場見学に行ったり、靴クリームの成分について勉強したりしました」

バイク乗りであればブーツはもちろん、革ジャン、グローブなどレザー製品を愛用する人も多いはず。ツーリング途中に急に雨に降られ、革ジャンやブーツが濡れてしまってその後のメンテナンスをどうしていいか分からない人も多い。最近ではお客さんが自身の靴を自分で磨くワークショップも開催しているそうなので、興味のある方は参加してみるといいだろう。

靴磨きイベントではお客さんと対面し、その靴にまつわる思い出やエピソードなどを聞きながら磨くそう。いとちゃんとの会話で「靴が綺麗になって嬉しいのはもちろん、気持ちまで前向きになった」と元気づけられる人も多いそう。

女性や子供たちにも靴磨きの大切さを伝えたい

そんないとちゃんだが、昨年夏「靴磨きで日本一周! 日本中の皆様を足元から輝かせたい!」というクラウドファンディングを実施した。

「靴が綺麗になって喜んでいるお客さんを見るとこっちまで幸せな気持ちになります。靴磨きは『幸せを生み出す仕事』だと思います。もっと多くの人に靴磨きの素晴らしさを知って欲しい、幸せを届けたいという想いで立ち上げました」

クラウドファンディングはすでに目標金額を達成し終了しているが、コロナ禍により延期になっていた日本1周の旅が6月からスタートした。

「最初は公共交通機関を利用する予定でしたが、“あ、私バイク持ってる”なと(笑)。それに、バイクで行けば旅先で出会う人の靴も磨いてあげることができます。靴は消耗品と思っている方も多いんですが、ちゃんとお手入れをすれば長く履けます。磨いた後に『これならまだ履けるね!』と言ってもらえるのが嬉しくて。一足でも多くの靴を救ってあげられたらと思います」

そのため今は愛車のボルトに、ロングツーリングに適したカスタムを施しているところだ。腕が疲れないようハンドルと体の位置を適切なポジションするためシートを少し前に出したり、ちょっと硬めのクラッチレバーを軽くする仕様にしたり、靴磨きの道具を積むためのバッグ探しも進んでいる。

「バイクに乗る多くの女性に、女性ライダー目線でこうしたら疲れずに乗りやすくなるよ、ということも伝えていけたらいいなと思います」とも話す。

現在はいとちゃんオリジナルの靴クリームも製作中で、これは日本一周靴磨きの旅でも販売する予定なんだそう。

こうしてひとつずつ夢を叶えている彼女に今後の予定を聞いてみると、女性や若い人にも靴磨きの大切さを伝えたいと言う。

「ビジネスシューズを履く大人は靴磨きの必要性は分かっていると思いますが、大学生や就活生、そして中学生や小学生にもそれを伝えていけたらなと思っています。たとえば小学生の野球チームに、シューズやモノを大事にしなさいと大人がいくら言っても聞かない。でもワークショップで、みんなで靴磨きをしたらきっと楽しいはず。モノを綺麗にすることで気持ちや心が前向きになれて、仕事や勉強のパフォーマンスも上がるんです。そんな靴磨き文化の普及をもっとやっていきたいです」

綺麗に磨かれた靴を前にしたいとちゃんの表情は、清々しくとてもクリアだった。

クリームは、ウエスなどは使わず指で塗る。体温でクリームが柔らかくなり、革への浸透も良くなるとのこと。
色移り防止や革に合わせて、靴ブラシは複数用意。靴磨きを始めてからご両親にブラシをプレゼントしたり、実家に帰った際は家族の靴を磨いたりもしているそう。
愛車のカギには、前職の仲間から贈られた、レザーで作られたバイクのキーホルダーが付けられている。みんなが「頑張れ!」と応援してくれていると言う。
靴磨きのワークショップも開催しているいとちゃん。人間の皮膚と同じで革にも水分や油分を入れてあげる保湿が必要なんだとか。ちなみに、濡れてしまったブーツは風通しが良く直射日光の当たらない場所で、つま先を上にして壁に立てかけて乾かすのがいいそう。これでソールもしっかり乾く。
フリーのシューシャイナーとして首都圏の百貨店でのイベントやオフィスへ出向いて福利厚生の靴磨きなどを行うことも多い。バイク関連では、二輪用品店やライダースカフェ、最近ではサーキット走行会に行ったりもする。4/30(土)には、バイク乗りにお馴染みの「バイカーズパラダイス南箱根」で靴磨きイベントを開催。今後のスケジュールについてはいとちゃんのSNSを参照。
「いとの靴磨き屋さん」オフィシャルサイトでは、栃木レザーを使った靴べら、Tシャツやトレーナーなどのオリジナルウエアを販売中。今後はこれに加えて、現在製作中のオリジナル靴クリームが加わる予定
「ヘルメットを持って」と言われると、姿勢良く、持ち方もつい白バイ時代のようになってしまうのだとか(笑)。この春にはバイクアパレルブランドのモデルを務めたりと、ますます活躍の場が広がっている。

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