モーターサイクルライフ/うしガーレ【好きなバイクを諦めない! 小柄女子の助けになりたい】
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サーキットを走り、YouTubeで情報発信。世界中に飛び出してMotoGPを観戦。令和最新型バイク女子の生き様は、側からは破天荒にも見える。けれど、わがままでも無謀でもない。自分で出来ることを、やっているだけだ。やりたいことにストレート。勇気をもらえる前向きでパワフルなバイクライフ。
PHOTO/E.ISHIMURA(PHOTOSPACE RS)
TEXT/K.ASAKURA
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“とりあえず、なんでもやってみろ”精神で突き進む
愛車はドゥカティ・パニガーレ959、ツーリングはもちろん、サーキットも軽快に駆け抜ける〝うしガーレさん〞。自らのYouTubeチャンネルを持ち、バイク情報も発信している今時のバイク女子だ。と、ここまで読んで「最近流行りの」と思った方はちょっと待ってほしい。
うしガーレさんは、ありがちな承認欲求モンスターではない。むしろ、その反対側に立つ人だ。彼女のYouTubeは、自分をアピールするためのものではない。ただただ、他のライダーのため、もしくはバイクに憧れつつも諦めている人のためにある。その理由は、うしガーレさんのこれまでのバイク人生、そして愛してやまないドゥカティにある。まずは、ライダーとなったルーツの出来事から辿っていこう。
「バイク以外の趣味が、中学生の頃から続けているバスケットボールなんです。高校時代にはクラブチームでプレイしていたんですが、ある日の練習でバイクに乗ってきたメンバーがいたんです……。それがもうカッコよくて、ひと目ぼれです!」

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そのバイクが、ドゥカティ1098。’00年代後半のドゥカティ・スーパーバイクのフラグシップだ。ドゥカティのアイコンたる真紅のボディと、シャープかつ流麗なデザインは、それまでバイクのことなど何も知らなかったうしガーレさんを魅了。以来、大のドゥカティファンを貫いている。ちなみに、憧れたのはバイクのみ。1098オーナーとのロマンチックな出来事は? と下衆な勘ぐりには。
「それは別に?」
と、一刀両断。合掌……。世のバイク男子諸君、カッコイイのは己ではなく、愛車であると肝に銘じよ。
さて、高校時代にバイクと運命的な出会いを果たしたうしガーレさん。
大学に進学すると、ホンダのリトルカブを手に入れ、日常の足やツーリングに出かけたりとバイクライフを楽しむようになった。〝いつかはドゥカティ〞との想いが消えることはなかったが、なにせプレミアムバイク、気軽に手に入れられるマシンではない。何より、車格への不安があった。
うしガーレさんの身長は150cmほど。大柄な欧州人の体格を基準にし、運動性を重視して着座位置の高いドゥカティはもちろん、普通二輪クラスのマシンでも取り回しが簡単ではない。正直なところ、半分は諦めかけていたという。

「私にとっては普通二輪も、大きなバイクという感覚だったんです。ですが、250ccに乗る、すごく小柄な方と知り合うことが出来て……。その方から〝ローダウンすればいい〞と教えてもらいました。そんな手があるのか! って、飛びつきました」
うしガーレさんの座右の銘は〝とりあえず、なんでもやってみろ〞。行動力は凄まじい。念願のライダーへの道、可能性があるなら即チャレンジ。
20代前半に、カワサキのニンジャ250を入手。早速ローダウンすると、なるほどどうにか足も着く。乗り慣れてくると、スタンダードの車高でも、取り回しもこなせるようになってきた。小柄であっても、バイクに乗ることはできる、ライダーになれるのだ! そう気付いた彼女はYouTubeでの情報発信を思い立つ。
「私みたいに小柄な人は、バイクに乗ってみたくても、体格の関係で諦めてしまうことが多いと思うんです。幸いなことに、私は良い出会いがあって、バイクに乗ることができた、でも、それまでに10年近くの時間がかかってしまいました」
なぜか? 人と人の出会いは、偶然の部分が大きい。うしガーレさんが、ローダウンを教えてくれた小柄ライダーの先輩と出会うことができたのは、運が良かったからと言っても間違いではない。

「小柄な人がバイクに乗る方法はないのかな? と、私なりに調べたこともあったんです。ですが、全然見つけることができませんでした」
例えば、ライダーであれば取り回し性改善の手段に、ローダウンという手法はすぐに思いつく。だが、それはあくまで、バイク乗りコミュニティの内側にいるからである。これからバイクに乗る人、バイクの知識がない人は〝ローダウン〞や〝取り回し〞といった単語を知る機会すらないのだから。
「ユーチューブを始めたいちばんの理由は、小柄な人でもバイクに乗れる方法を、同じ悩みを持つ人に伝えたいと考えたからです」
だから、彼女のユーチューブチャンネル名は〝小柄女子ライダー「うしガーレ」〞。自分をアピールする前に、まず〝小柄〞であることを強調しているのだ。うしガーレさんの動画は話題となり、チャンネル開設からわずか半年あまりで、3万5000人を超える登録者数を獲得。ただし、すべての視聴者に彼女の想いが届いているわけではない。
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「バズった動画は、7割方否定的な反応がつきました。ハッキリ言って、最初は炎上的な盛り上がり方をしたことは事実です。ですが、応援してくれる人もたくさんいます。私がきっかけになって、諦めていたパニガーレに乗る決断ができたと言われたこともあります。何よりも嬉しかったですね。小柄な女性でも、大型バイクを諦めなくていい。同じ悩みを持つ人の助けになれたのなら、私はそれでいいんです」
体格に合ったバイクを選ぶべきという意見は、ある意味で正論。ローダウンは本来の車体姿勢を崩し、マシン本来の運動性をスポイルするという認識も間違いではない。うしガーレさんは、そんなことは百も承知だ。だが、自分が乗りたいバイクに乗って何が悪いのか? バイクは趣味の乗り物で、なかでもビッグバイクの実用性は極めて低い。そんな趣味性に振り切ったバイクに、合理性を求めることに意味などあるのだろうか? いろいろな意見があることは当然として、ここではうしガーレさんのあり方を肯定したい。
そんなうしガーレさん、ライダーになるきっかけとなった、ドゥカティ、そして愛車パニガーレ959への愛情は常軌を逸している。〝パニガーレの美しさを形容するに、言葉はあまりにも無力〞との名言を発し。
「可能なら毎日パニガーレで走りたい。本当は、勤め先にもパニガーレで出勤したいんです。一緒のベッドで寝たいくらいカワイイ!」
と、言ってはばからない。その溺愛するパニガーレ959は、やはりローダウン仕様。フロントフォークを突き出し、リアサスペンションのリンクロッドで車高調整。スプリングプリロードは最弱まで下げ、シートはアンコ抜き加工。さらに乗車時には、なるべく厚底ブーツを履く。
「そこまでしても、片足をつけるのがやっとなんですけど(笑)」
走ってさえいれば、華麗に乗りこなしているのだが、ライディングポジションと車格の大きさは辛いものがある、と正直に口にする。
「でも、パニガーレで走る喜びの方が、ずっと大きいんです!」
ちなみに〝うしガーレ〞というハンドルネームだが、〝ガーレ〞はパニガーレからとったもの。〝うし〞はバスケットボールのコートネーム〝うっしー〞にちなんだもの。コートネームとは、プレイ中チーム内だけで呼び交わされる選手の愛称。最近は仲間のライダーからも、〝うっしー〞と呼ばれることが多くなった。バイク乗りの〝うっしー〞も、ユーチューバーの〝うしガーレ〞も、それぞれ魅力的。そして、どちらも嘘偽りのない彼女自身なのだ。