モーターサイクルライフ|松原 徹さん【コーヒーとバイクを通して人想いが繋がる素敵な空間をプロデュース】
PHOTO/A.SEKINO TEXT/K.YOKOTA
東京・世田谷にあるUNITEDcafeは、環七沿いという好立地にありながら、バイクが気軽に停められるライダースカフェだ。そのオーナーである松原さんは昨年、ライダーの聖地とも言える神奈川・宮ヶ瀬に2号店をオープン。しかしそこは単なるカフェではなく、松原さんのもうひとつの夢、総合レジャースペースでもあった。
バイク仲間とのつながりが楽しくて話しているとアイディアが浮かんでくる
「宮ヶ瀬店もやっと営業できる状態にまでこぎつけました」と笑う松原徹さん。東京の大動脈のひとつ環状七号線沿いというベストな場所にある、ユナイテッドカフェのオーナーだ。
バイク乗りが集まることで有名だが、松原さん自身もバイクが大好き。現在はBMW・R nineTやEBR・1190RX、ヤマハ・YZFR1、ホンダ・GB250、カワサキ・KLX125など数多くのバイクを所有し仲間と楽しんでいる。
そう聞くと「バイク好きのカフェのオーナーが、宮ヶ瀬に2号店をオープンした」という話で終わりそうなのだが、松原さんの場合そんなに単純な話ではない。というのも宮ヶ瀬にオープンしたのは単なるカフェではなく、大人数でのバーベキューや宿泊、また広いスペースを活用してバイクのイベントやミーティングなども開ける施設。「宮ヶ瀬ヴィレッジ」と命名されていて、松原さんの長年の夢だった“大人の秘密基地”的な場所でもあるからだ。
そんなカフェの域を超えた場所を作った経緯をうかがう前に、まず松原さんとバイクの関係を振り返ってみよう。
’74年に神奈川県で生まれた松原さんは、16歳からバイクに乗り始めた。しかし20歳前半で仕事が忙しくなり、スクーターを足に使う程度になってしまった。’02年にイベント関連の事業を行うユナイテッド・アーツを創業。忙しさの合間に大型二輪免許を取得するも、肝心のバイクを入手するまでには至らなかった。
そして’12年に飲食事業に進出し、世田谷区にユナイテッドカフェを立ち上げる。オシャレな内外装や美味しいコーヒー&料理が評判となり、地元のみならず遠方からの来客もあって賑わっている。
多くの人が集まる理由のひとつは、店頭にバイクを置けるスペースがあることだが、もうひとつは店内で定期的にさまざまな分野のアーティストが展示会を行っていること。美しい写真やポップなイラストといったアート作品を眺めながら、ゆったりできる場としても人気があるのだ。
東京都世田谷区野沢4-4-8-1F
TEL03-5430-3477
営業時間11:30~23:00
火曜日定休
また環境が良いので、バイクやアパレルのメーカーがプロモーションに使うこともある。イベント関係の仕事で培った多くの経験が、ユナイテッドカフェをさらに魅力的な空間にしているのだ。
カフェをオープンした数年後、松原さんの友人が突然KTM・RC8Rで登場した。「僕にバイクを見せびらかしに来たんですよ」と笑うが、インパクトはかなり強かったようだ。なにせ松原さんのバイクに対する想いが再燃し、ドゥカティ・ハイパーモタードを購入したのだから。
その後EBR・1190RXに乗り換え、増車するなどして現在に至っている。バイクにリターンしたため、バイク乗りとのつながりがさらに増えていった。
順調に営業している世田谷店に次いで宮ヶ瀬に店を構えるキッカケとなったのは、松原さんの理想を叶えるのに手頃なスペースが見つかったことが大きかった。
といっても元は住宅地の中にある細長い空き地と雑木林。その頃の写真を見るとジャングルのようで、とてもカフェが建てられるような場所には見えなかった。そこを何と、松原さんが主力となって開墾したというからスゴイ。
「オークションでユンボを買って、地元の業者さんと相談しながら土地を作っていったんです」
作業開始は’21年8月のこと。切り開き整地した場所にコンテナが置かれ、舗装され、’22年9月にはガレージ棟が建てられた。その後も土地を切り開いては展示やワークショップに使えるスペースや、宿泊可能な部屋などを続々と建築。そしてこだわりのカフェ棟が、’23年7月に完成しグランドオープンとなった。
「コンセプトは山あいのドライブイン。カフェのほかにバーベキューを楽しめるスペースもあります。今後は宿泊ができるよう設備を整えていくほか、奥の方を開拓してフリーマーケットを開催。キャンプができるようにもしたいですね」
「まだ完成にはほど遠いですね」と笑う松原さん。その頭の中にある「宮ヶ瀬ヴィレッジ・構想ノート」の記述は日々アップデートされているのだろう。将来を語る松原さんの表情は子どものように無邪気になるのだ。
「食事もバイクのカテゴリーも方向性を決めたくないんです。多くの人に来てもらいたいと考えているので」と松原さん。そんなフラットなスタンスは客層にしっかりと現れていると感じた。
いま宮ヶ瀬店でバイク乗り向けのイチオシ企画を聞いてみると「手ぶらでバーベキュー」という返答。前日までに予約すれば材料から調味料まで用意、火起こしや後片付けもしてくれるそうだ。そんなアウトドア的な楽しみもある宮ヶ瀬ヴィレッジが、今後どう変貌していくのか。松原さんの柔軟な発想に注目したい。