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ついに来た新次元の制御を徹底解説!ボッシュの最新レーダーセンサー

2018年にボッシュが開発をアナウンスした レーダーベースのアシスタンスシステムを2021年のニューモデルが登載する。これを機に、新次元の電子制御を徹底解説したい。

未来が来た! 前後を 「見る」 バイクが 新次元の制御で ライダーをアシスト

バイクの電子制御システムと言えば、この20年でFI(電子制御式燃料噴射装置)やABS(アンチロックブレーキシステム)が、ほぼすべての新型車に搭載されるまでに普及が進んでいる。また、この10年では後輪の空転を防止するトラクションコントロールがスポーツバイクに搭載され、IMU(慣性計測 装置)を併用することにより、バンク角などに応じた緻密な制御を実現。環境性能や安全性を向上させるために、電子制御の導入・進化が果たした役割はかなり大きい。

これが、2021年には新たなステップを踏むことになる、というのが今回のテーマ。バイクに初めてレーダーセンサーが登載され、バイク自体も周囲を「見る」ことができるようになったのだ。バイクが視覚にまつわる感覚器官を得る事によって実現できること は更なる安全性の向上にあり、ボッシュが盛 り込んだ機能は3つ。アダプティブクルーズコントール、衝突予知警報、死角検知をレーダーの「目」によって実現し、ボッシュは7件に1件の事故を防止可能と表明しているのだ。

この自動運転に関連した技術は未来の話ではなく、2021年の新型車が導入する。

これが前方を見る中距離レーダーセンサー

これが後方を見る 中距離レーダーセンサー

BOSCH ADVANCED RIDER ASSISTANCE SYSTEM

基本スペックで前方160mの検知範囲を持つ中距離レーダーセンサーがセンシングし、コンピューターがエンジンとブレーキを操作することでACCが作動。衝突予知警報はメーター表示などでライダーに危険を警告する。後方は検知範囲80mのレーダーが左右の死角をセンシングし、発光装置などでライダーに危険を警告する

ボッシュがアドバンストライダーアシスタンスシステム(ARAS)を開発した目的は交通事故のない未来のモビリティの実現。2019年には日本の高速道路でも開発車両でテストを実施している。ボッシュによると日本ではバイクの死亡事故リスクが自動車に比べ13倍に上る。

また、レーダーの検知に影響を及ぼすガードレールや遮音壁の設置個所が 多い日本特有の道路環境も、国内でテストを実施した理由となる。そのARASの機能で目玉となるアダプティブクルーズコントロール(ACC)は、前方を走る車との車間距離を一定に保ってくれる。

これによりライダーの負担を軽減し事故 防止に繋げる狙いがある。通常のク ルーズコントロールは、速度を一定に保つだけで前車との距離はライダ ーが調整していたが、ACCはバイクがエンジンやブレーキを操作。ライダーは前方に注意を払うだけなので、長距離になるほど高速道路での移動がかなり楽になるだろう。

作動する速度は30㎞/h~160 ㎞/hで、残念ながら渋滞中にACCを作動させることはできない。 それでも、ライダーの代わりにバイクが自ら見て状況を判断し、速度を調整するという機能はこれまでなかったもので、電子制御が新たな次元に踏み出した第一歩と言えるものだ。

将来的に、バイクにおける極低速のバランス維持技術が確立されることがあれば、さらに作動速度を落とすことができる訳で、未来に向けた進化を期待せずにはいられない。

日本の公道でも開発車両がテストを実施

開発車両は東京、神奈川、埼玉、栃木の高速道路を走行。バイクの安全運転支援システムのテストで正式に届け出された ものでは日本初
前方にレーダーをセット
後方にレーダーをセット
ハンドル左側にACCのスイッチがある

アダプティブクルーズコントロールの車間設定は調整できるように開発 

前車との車間は、システム上は距離ではなく時間で調整している。車間時間が長いと割り込みされることもあり、開発車両では車間を5段階に調整できるようにした。作動速度域は30km/h~160km/hで、アクセルやブレーキの操作をECUやMSCが行ってくれる。ライダーはハンドルを握っているだけでよく、ライディングにより集中できるのだ。カーブでもACCは作動を続けるので、高速に入ってしまえば、あとはバイク任せに近い感覚になりそう

ADAPTIVE CRUISE CONTROL(ACC)

危ない! その時に……

FORWARD COLLISON WARNING(衝突予知警報)

衝突の危険性がある状況でシステムがライダーに警告を発する。このイラストでは前車がブレーキをかけている状況でメーターパネルに警告が表示されている。しかし、ライダーはよそ見をしているが……

ARASの機 能として次紹介するのは衝突予知警報。これも前方に設置されたレーダーを活用した機能のひとつで、他の車両が危険なほど接近しライダーがその状況に何も対処しない時に、メーターパネルに警告を表示する。わき見運転などをしているであろうライダーにこれだけで足りるの? という疑問は当然ある訳で、視覚的な警告だけでなく「警告ブレーキパルス」を用いた警告も可能とのこと。

この警告ブレーキパルスとは、ABSを包括するMSCユニットを使って人工的なパルスを発生させるもので、バイクのパルス=振動がライダーに衝突の危険が迫っていることを切実に伝える警告手段だ。ブレーキパルスは車体の安定性を損なわない範囲のブレーキ制御で発生させるとされており、これもこれまでの次元を超えたバイクの「目」による電子制御と言えるだろう。

ARASの3つ目の機能である死角検知は、後方のレーダーセンサーを使用する。レーダーは前後で異なっており、後方用レーダーは左右方向に2つの送受信装置がセットされている。基本スペックは80mの検知範囲で、ライダーの死角に迫ってきた車両がある際に警告を発するものだ。ボッシュの開発車両では、便宜的にスクリーンのステー部分に設置されたLEDが赤く発光するようになっていたが、量産車ではミラー部分に発光装置が用意されている。

衝突予知警報
死角検知

警告ブレーキパルスが働く!

アナウンスされたばかりなので、警告ブレーキパルスがどのように体感できるかの説明はないが、バイクが挙動でライダ ーに何かを知らせるというのは斬新で新しい

BLIND SPOT DETECTION(死角検知)

以前は超音波で実用化されたこともあったバイクの死角検知だが、より照射範囲の広いレーダーを活用することにより性能が向上した。写真で赤く光っているLEDが警告灯だ

人間の手足よりも繊細なタッチを実現するMSC

ACCでは一般的なライダーの手足の操作に勝るきめ細かい操作によって車体に不必要な挙動を起こさずブレーキ制御を実施。警告ブレーキパルスでは人間の手足では実現できないほどの素早いブレーキ制御で車体を不安定にすることなくライダーへ危険を知らせるのだ

ARAS登載2021年モデル

ACC 死角検知 DUCATI MULTISTRADA V4S

V4エンジンを登載した新型ムルティストラーダV4のSタイプがレーダーを登載し、ACCと死角検知の機能を採用した

ACC BMW R1250RT

新型のR1250RTは オプションでACC を搭載可能。BMWでの名称はアクティブクルーズコントロールになる

バイクレーダーセンサーQ&A

Q レーダーの仕組みを教えて下さい
A ミリ波を発信し反射を受信します

ミリ波(波長がmm単位の電波)を照射し対象物からの反射を受信 することで検出を行う。ミリ波は透過しづらく、対象物の大きさ、形、 距離や角度といった位置情報、相対速度などを高精度で検知しやすいなどの特徴がある

Q バイクにレーダーを搭載した理由は?
A 交通事故のない未来を目指すためです

ボッシュが事故のない未来を目指すために開発するアシスタンスシステムの第2ステップ がレーダーを使用したサラウンドセンシング技術。第3ステップはネットワーク化で、通 信を使用して見えない位置の危険を知らせる

Q レーダーはカウル内に設置可能?
A カウルの材質によりますが可能です

フェイスデザインに影響するだけに気になるところ。レーダーはカバーなどの内側にも設置可能だが材質によるという。適した材質であれば性能に影響しない。自動車ではバンパーの内側にレーダーを設置している例もある

Q カメラではなくレーダーを選んだ理由は?
A 防水性などバイクでの搭載を考慮しました

スバルのアイサイトなど自動車が採用するカメラは車内に設置されるが、機器が外に露出するバイクでの搭載は不向き。一方、ミリ波レーダーは雨や霧などの悪天候による環境変化に強くコンパクトなのもバイク向きだ

Q ACC作動時の事故や転倒の責任はライダーにありますか?
A ACCはライダーをアシストする機能です
運転の責任者はライダー。ACCは、安全性や快適性を高めるためにライダーをアシストする機能であり、ライダーが前方や周囲に注意を払い操作を行う必要があるのは変わらない

Q 前車が減速→停止した際はACCはどう作動しますか?
A 30km/h以下はライダーのブレーキングに引き継ぎます
ACCの作動下限30km/h以下の減速はライダーの役割。ACCは30km/hを境にいきなりブレーキをリリースすることはなく操作は段階的。メーター表示でもライダーの操作を促す

Q ACCの操作はクルーズコントロールと同じ?
A アクセルを開けると加速ブレーキで作動停止します
基本的に同じ。ACC作動中は手元のアクセルは全閉のままでもバイクが前車との距離を調整してくれる。アクセルを開けると操作に応じて加速し、ブレーキをかけると解除される

ARASの開発拠点は日本国内

ARASの開発を担当したのはボッシュのモーターサイクル&パワースポーツ事業部門の日本にある開発拠点。これまで日本では二輪用ABSなどの開発を行ってきており2007年に二輪向けアシスタンスシステムの開発本部が発足、2015年からグローバル本部に位置づけられた。ARASの開発は2013年から開始されており、2020年にシステムの量産化を実現した。

ボッシュ横浜オフィス

世界に5つの開発拠点がある二輪部門のグローバル本部となっている横浜オフィス。日本にバイク4メーカーがあることもあり本部となった


モーターサイクル& パワースポーツ 技術本部 佐藤彰さん(右)藤本充香さん(左)

佐藤さんは趣味で草レースにも参戦するライダー。「ACCは一度体験すると快適さが実感できると思います」と語る。藤本さんはレーダーの開発を担当、今度大型二輪免許に挑戦するという

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