2年目の電動バイクレース『MotoE』/その進化に迫る
2年目を迎えた電動バイクによるチャンピオンシップ、FIMエネルMotoEワールドカップ 電動バイクレースの草創期は決して平たんな道のりではない それでも少しずつ、MotoEは新しいレースとして歩みを続けている 2年目、そしてこの先のMotoEについて、ニコラ・グベールさんに話を聞いた。
エグゼクティブディレクターに聞く2020年電動バイクレース『MotoE』のいま
7月19日、スペインのヘレス・サーキットで、17名のモトEライダーがグリッドに並んだ。シグナル消灯とともにキィーン、という高いモーター音を発しながら、ライダーたちが1コーナーに飛び込んでいく。エキゾーストノートを奏でないという点を除けば、モトGPクラスなどと変わらない、激しいレースだ。
モトEは、2年目のシーズンの開幕戦をヘレスで迎えた。今季はワンメイクマシンのエネルジカ・エゴ・コルセやミシュランタイヤのアップデートのほかにも、レースとして新しい試みが予定されている。第3戦からは昨年の最終戦バレンシアGPで導入されていた、レース中のタイヤ温度を公開予定。
そしてもう一つ、新たに検討されているのが『レース中のバッテリー残量の公開』だ。 「バッテリー残量をお見せすることで、これが電動バイクレースだと示したいのです」と、モトEエグゼクティブディレクターのニコラ・グベールさんは言う。
モトEは、すべてのライダーが全開で攻めて走り切れるようレース周回数が設定されている。それは、バッテリー残量を考慮しない、激しく魅力的なレースを生んだ。 「しかし、バイクには内燃機関のそれと外見的な違いが少ないので、ノイズがないことに気付かなかったり、コメンテーターの話を聞いていなかったら、きっとそれが電動バイクレースであるとわからないでしょう」
グベールさんは、バッテリー残量を公開する理由をそう説明した。とは言え、モトEがタイヤの温度、バッテリー残量などのこれまでにない情報とともに楽しめるレースになるのではないか、という可能性としても感じられるのだ。
モトEの今後の課題についてはどうだろう。テクノロジーの進化にともない、今は5〜7周で行われているレース周回数を増やしていくことが目標になるのだろうか。しかし、グベールさんの返答は、意外にも「イエスでもあり、ノーでもあります」だった。なぜか。その回答は、非常に興味深い。
「イエス」の回答の理由は、今季、グリッド上で充電が可能になったことで、1周、各レースで周回数が増えるという意味。そして「ノー」の回答の理由は二つあった。一つは、モトGP併催の週末に、これ以上モトEの時間を増やすのが難しいということ。そして、もう一つの理由が、現代の若者の傾向だった。
「若者は興味の移り変わりが速いです。若い人は同じプログラムに長く滞在しません。チャンネルからチャンネルへ、違ったSNSへと転々とすることを好みます。私たちは15分のレースであれば、モトEに、若者をより惹きつけられるかもしれない、ということを見たいのです。ですから、将来的にバイクが軽量化し、テクノロジーが向上しても、約15分間のレースを続けたいと考えています」
また、グベールさんは超スプリントレースのもう一つの利点を語った。モトEは15分間に、レースの興奮を凝縮しようとしている。
「短いレースであれば、とても激しいレースになり、毎周何かが起こります。15分のレースでは、温存もなく毎周全力で攻めなければなりません。だからこそ、おもしろいレースになるのだと思いますよ」
モトEは確実に、電動バイクレースという新しいカテゴリーとして歩みを進めている。レースの一つのありようとして、この先も道を拓いていくに違いない。
MotoEワンメイクマシン 2020年型エネルジカ・エゴ・コルセはどう変わった?
MotoEのマシンはイタリアの電動バイクメーカー、エネルジカ・モーターカンパニーが供給するエネルジカ・エゴ・コルセのワンメイク。2020年型マシンは、いくつかのポイントがアップデートされた。この2年の難しい状況もあり、260kgの車両重量や、シャシーについては変更されていない。
エネルジカ・エゴ・コルセ SPECIFICATIONS
フロントフォーク
今季のフロントフォークは、よりゆっくりと沈みこむように変更された。260kgという重い車重でハードブレーキングをするときのフロントフォークの動きについて、昨年からのライダーの要望を受けたものだ。ライダーからは沈みこみが速いとフィードバックがあったという。当初は3 ~ 4つのパターンが用意されていたが、3月にヘレスで行われたテストで全ライダーが同一のものを好んだために一つのセッティングが採用された。
トルク&クーリングシステム
2020年のエネルジカ・エゴ・コルセは、トルクが低回転域で約10%向上。2019年型の200Nm(0~5000rpm)に対し、エネルジカが公表しているスペック表によれば、2020年型は215Nm(0~5000rpm)に向上している。また、バッテリーの冷却システムが新しくなった。バッテリー容量は変わらないが、ポータブルチャージャーをグリッド上で使用でき、第3戦以降はレース周回数が昨年より1周増える見込み。
ミシュランタイヤ
フロントタイヤは新しいコンパウンドに変わった。一方、リヤタイヤについては大きな変更が加えられた。コンパウンドはもちろん、構造についても改善。センターが狭くなり、より高さのあるMotoGPに近いサイズのタイヤとなった。また、リヤタイヤはリサイクル可能なサステナブルな素材が用いられている。いわゆる環境面に配慮したテクノロジーが投入されており、『電動バイクのチャンピオンシップ』に通ずるコンセプトだ。