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大久保 光が拓くMotoE~第4戦オランダ~

電動バイクレースMotoEの第4戦オランダを8位で終えた大久保光。決勝では好スタートを切って、一時は4番手を走行する速さを発揮した。MotoEへの参戦を開始して以来、改善について取り組み続けてきた、ライディングスタイルの変更が進んだことを確信できるレースだった。けれど、大久保はアッセンでさらなる課題を見出していた。

FIM Enel MotoE World CupRd4.オランダ

大久保 光(おおくぼ ひかり)                                                 1993年8月11日生まれ。ミニバイクレースを経て、2010年に全日本ロードレース選手権J-GP3でチャンピオンを獲得。2012年にはアジア・ドリームカップで初代チャンピオンに輝いた。2016年から2020年までスーパースポーツ世界選手権に参戦。2019年にはランキング5を獲得した。2021年はMotoEにAvant Ajo MotoEからエントリー。日本人初のMotoEライダーとして、世界チャンピオンを目指す。第4戦終了時点でランキング10番手

克服すべき課題が見えた次戦へとつながるレース

モトEの第4戦の舞台はオランダのTT・サーキット・アッセン。同地でのモトEの開催は初。切り返しが多く、コーナー間を短いストレートでつなぐテクニカルなコースである。
大久保光は、そんなアッセンでのモトEのレースをどう感じたのだろう。大久保は、スーパースポーツ世界選手権(WSS)参戦時代に同地でのレースを経験している。
「楽しかったですね。フラットなのでスピードが乗って、(電動バイクで争う)モトEに合っているコースだと思いました。WSSの方がもう少しスピードが出るのですが、切り返しは楽で、モトEの方が(車両重量が重いので)切り返しが重いですね。特にバイクが振られてしまうと、止まらないんです」
アッセンでのモトE決勝レースを、大久保は4列目10番グリッドから迎えた。スタート後にはアウト側にポジションをとり、1コーナーに3番手付近で飛び込んだ。
「モトEでの過去3戦を見ても、僕はスタートがいいんです。モトEは電動バイクでワンメイクマシンですからスタート時点でのアドバンテージはないのですが、僕は1コーナーを曲がってからの位置取りを考えています。
またスタート後、直線が少しでも長いなら、なるべく誰かの後ろにつくようにはしていますね。それでスピードが変わりますから。これはモトEになってから意識するようになりました。それに、僕の体重が軽いことも(メリットが)大きいと思います」
7周のレース序盤は4番手を走っていた大久保。しかし、5周目あたりからペースを落とす。タイヤを使いすぎたこと、ブレーキトラブルが発生したこと、そして6周目でハイサイドを起こして転倒しかけたことが原因だった。
「2周目で初日から出したことがないラップタイムを記録したんです。絶対に最後までもたないだろうけれど、ここでペースを抑えて5、6位をねらうのなら攻めるだけ攻めよう、と思いました。
そういう状況だったので、転倒もある程度覚悟していましたね。ですから、ある意味では予想通りの結果なんです。もちろん、悔しいですけれどね。
ブレーキトラブルは、残り2周でフロントブレーキがスポンジ状態になって利かなくなってしまったんです。スリップにつくことが多かったので、冷えずにオーバーヒートしたのかもしれません。ただ、第3戦カタルーニャでも同じような問題が何度かありました。モトEマシン自体の問題という可能性もありますね」
大久保はこれまで、フロントタイヤを酷使する乗り方について、改善を試みていた。その変更について「大きな成長」と自分の前進を認める。しかし、今回はリアタイヤを摩耗させてしまったという。
「ライディングスタイルの変更はだいぶ進んできたと思いますが、まだ荷重のかけ方のバランスがうまくいっていないですね。元々の僕のライディングスタイルは古めで、タイヤに荷重をかけすぎていました。
以前のタイヤはグリップが低かったので、そういう乗り方でなければ厳しかったんです。ただ、現在のタイヤはグリップが高いので、グリップを逃すのも大事なのだと思います。そういう意味では、次第にモトEに、そして現在のタイヤに合った乗り方になってきたのではないかと思います」
WSSでは、供給されるピレリタイヤのコンパウンドを選択できた。しかし、モトEのミシュランタイヤは、フロント、リアともに1種類のコンパウンドのみ。タイヤで合わせることはできないため、その分、大久保自身が適応しなければならない。
「走りの改善については、人の走りを見て研究していますね。リアブレーキをしっかり使うので、けっこうモトGPライダーの乗り方を見ていますよ。アッセンでは、1コーナーを曲がるときにホンダのライダーだけ足を出していないんです。それだけリアブレーキを使っているか、リアに荷重をかけているのかもしれない。そういう面ではモトGPはモトEに近いのかな、と思います」
結果として8位ではあったが、課題がしっかりとつかめた大事なレースとなった。
「レース後、(チームマネージャーの)アキ(・アジョ)さんと長いミーティングをして、
『スタートはいいけれど、タイヤのグリップが減ってからのマシンコントロールがまだ甘いよね。それができれば、優勝や表彰台獲得の常連になれる速さはすでに持っているよ』
と言われました。実は予選方式が少し難しくて、変えてほしいくらいなんです(苦笑)。けれど、アキさんに
『グリッドが後ろでも決勝でポジションを上げられるのだから、(予選を)もっとリラックスして楽しめば』
とも言われました。今は、レースでタイヤが摩耗し始めてからの走り方に重きを置いて、改善していくことが一番大事だと思っています」
約ひと月のサマーブレイクでは、全日本ロードレース選手権鈴鹿大会JSB1000クラスにスポット参戦し、ミニバイクサイズの電動バイクを使ったトレーニングも予定する。
大久保は第5戦オーストリアでの表彰台を目指して、アッセンでつかんだ課題を乗り越えていく。

序盤はペースを上げて2周目までに5番手、4周目までは4番手を走行するが、その後ポジションを落とした。結果は8位。要因はいくつかあったが、タイヤへの荷重のかけ方のバランス、マネジメントに課題が残った。MotoEは少ない周回数で争われる超スプリントレースで、だからこそ戦略の立て方も難しい
初戦スペイン以降、ライディングスタイルの変更の必要性を感じ、取り組み続けてきた大久保。これまでフロント荷重で走るスタイルだったが、第3戦あたりから「自分でも写真を見ると乗り方が変わってきたと思う」と語る。適応に力を注いでいるのだ
第4戦オランダで優勝したエリック・グラナド(中央)、ジョルディ・トーレス(左)、アレッサンドロ・ザッコーネ(右)。トーレスとザッコーネは最終ラップで軽く接触するほどの接戦を展開した

FIM Enel MotoE World Cupとは?

2019年より始まった、電動バイクによるチャンピオンシップ。ライダーが走らせるワンメイクマシンは、イタリアの電動バイクメーカー、エネルジカ・モーターカンパニーの『エゴ・コルサ』。タイヤサプライヤーはミシュランである。予選方式は、ドライコンディションの場合、一人1周のアタック。ウエットでは全18名のライダーによる30分間のタイム計測である。決勝レースは超スプリントレースで、第4戦は7周で行われた。日本ではMotoGP.comの有料ビデオパス購入で予選、決勝レースが視聴可能である。

TOPICS MotoEマシンのリアブレーキ

MotoEを戦うワンメイクマシン、『エネルジカ・エゴ・コルサ』にはクラッチレバーは存在しない。左手のレバーはリアブレーキになっている。なお、リアブレーキは左手のレバー、またはフットペダルを選ぶことができる仕様で、両方を使うこともできる。フットペダルは使用しない場合、取り外すライダーもいるという。

主にフットペダルでリアブレーキを操作するという大久保だが、サーキットのレイアウトなどによって、時々左手のレバーでも操作すること
もあるのだとか
「左手のレバーでしか操作しないライダーの中には、フットペダルを取っている人もいます」と大久保。大久保は主にフットペダルでの操作
だという

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