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ベネズエラの太陽【カルロス・カルダス】|熱狂バイククロニクル

TEXT&ILLUSTRATION/M.MATSUYA

今回は約30年前に、現ホンダのメインスポンサーであるレプソルカラーをまとったカルロス・カルダスさんの事を取り上げます。 

彼はホンダのRS250からNSR250に乗り換え、トップライダーへと飛躍したライダーの一人でした。スパニッシュで、熱い血を持つタイプの方でしたから、カルダスさんの熱い走りは強く印象に残っています! コーナー突っ込みの激しさは凄かったですから! 

小柄ながらも負けん気が強いライダーに見えました。ただ日本ではカルダスさんが話題になったり、それほど人気があったわけではなかったので、人柄については詳しくは知りません。少し調べましたらカルダスさんは、僕よりも歳上で、ちょうど八代俊二さんや辻本聡さんと同じ歳になるようです。ですから世界GPの中でもかなりのベテラン選手だったと思っておりました。 

しかし以外なことに、世界GPに参戦したシーズンは’83年(フレディ・スペンサーさんがケニー・ロバーツさんとシーズンを通して競り合い、スペンサーさんが19歳にして世界チャンピオンになった伝説のシーズン)からでした。’70年代から走っていた大ベテランライダーなのかと思っていましたが、意外とキャリア的には長くはない選手なのです。’83年からフル参戦し、’93年までで世界GPからは退いています。 

カルダスさんと言えば、皆さん共通したあのシーンを思い出すのではないでしょうか? そうです、’90年の最終戦オーストラリアGPで起きたあのシーンです。 

この最終戦は、カルダスさんを中心としたシリーズチャンピオン争いに終止符が打たれるレースとなっていました。最終戦までカルダスさんは、ランキング2位のジョン・コシンスキーさんに5ポイントの差を付けトップとなっていました。ですからこの最終戦で仮にコシンスキーさんが優勝しても、カルダスさんが2位に入ればシリーズチャンピオンはカルダスさんの物になる、非常に有利な展開となっていました。 

そんな状況下でやってきた最終戦オーストラリアGPですが、カルダスさんの予選順位は7位とあまり冴えませんでした。

そしていざレースが始まると、少し出遅れたカルダスさんでありましたが、順調に順位を上げていきます! その時トップを走っていて逃げに掛かったコシンスキーさんは、ドイツ人のブラドルさんとのシビアな争いをしていました。 

対してカルダスさんはレース終盤までセカンドグループで3位争いを行っていました。このレースは全26ラップでしたが、なんと25ラップ目に3位争いをしていたカルダスさんがいきなりのペースダウンをしたのです!  

見ていた誰もが、何が起こったのか分からない状況の中、最終ラップに向かうはずのカルダスさんは、そのままピットインしてしまうのです。怒りのあまり、リアをスライドしながら戻って来たのでした。カルダスさんは、肝心な場面でトラブルを起こしたマシンをメカニックに投げ付ける様に渡しました。カルダスさんの’90年シーズンの張りつめた糸が、いきなり「プツン!」と切れてしまったように終わったのです。 

シリーズチャンピオンがかかった’90 年の最終戦オーストラリアGP。王座にあと一歩まで迫ったが、最終ラップでまさかのマシントラブルによりピットイン。不運なライダーでした
シリーズチャンピオンがかかった’90年の最終戦オーストラリアGP。王座にあと一歩まで迫ったが、最終ラップでまさかのマシントラブルによりピットイン。不運なライダーでした

シリーズチャンピオンが掛かっていましたから、さぞかし悔しかったであろうと思います。そのマシントラブルの原因は、チェンジペダルの故障ということでした。マシンを整備したメカニックも意外な部位のトラブルで驚いた事でしょう。こんな衝撃的なレースでのシースン終了で、見ている世界中のレースファンも驚きました。カルダスさんの悲運な人生を見てしまった様な気分になりました……。 

ここからはカルダスさんのライディングについての考察とします。カルダスさんは実にオーソドックスな乗り方でした。腰のオフセット量は小さいので、まるでリーンウィズにも見えます。前乗りのため、外足のヒザが外側に張り出すのかと思えば、意外と綺麗にマシンに沿っています。頭の位置はいつもマシンセンターに置いています。 

そしてカルダスさんの特徴的なところは、腰のオフセット量が少ない事も手伝ってか、頭の位置が非常に高いのです。背筋も伸び気味でウェイン・レイニーさんのようなフォームに思えました。小柄なのに、背の高いライダーに見えるのです。

そしてハンドルの開きが少ないので、コーナリング中でもヒジの張り出しがほとんどないため、ライディングフォームが縦長に見えます。肩幅が狭く見えると言うか、腰の位置が高いと言うか、とにかく遠くからでも頭の位置が高く見えますから、すぐにカルダスさんだと分かります。

小柄なライダーでしたが、背筋が伸びていて、腰のオフセット量も少なかったので、頭の位置が高く、大きく見えました
小柄なライダーでしたが、背筋が伸びていて、腰のオフセット量も少なかったので、頭の位置が高く、大きく見えました

頭の位置を高くして、高い位置からマシンをコントロールしているイメージです! ライディングの特徴もヨーロピアンライダーの定番スタイルで、速さをコーナー進入の突っ込みで稼ぐタイプ。そのブレーキングの激しさは特筆すべき凄さを持っているライダーでした。 

プロレーサーの方々はチャンピオンを獲れるかどうかが、その後の人生を大きく左右しますから、’90年に世界チャンピオンを獲り逃した件は、カルダスさんにとって影響が大きかったでしょうね……。

その後も、引退するまでに世界チャンピオンの称号はカルダスさんの元には訪れませんでした。 そんな色々な選手の人生を見ながら、己と重ね合わせて考えるのも、人生の役に立つと思えます。レースは素晴らしい!

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