2stでも4stでも強かった、ヴァレンティーノ・ロッシのフォームの変化|スポーツライテクの趨勢
2ストローク車と4ストローク車のライディングの違いについて、ロッシさんを例にして、僕なりの考察を書いてみたいと思います。
TEXT & ILLUSTRATIONS/L.MATSUYA
イラストレーター松屋ランドが考察!
2ストローク車と4ストローク車の違いとは、他のスポーツで例えると野球とソフトボールほどの差があると思います。似ているようで、まったく違うのです。その転換期に最強を誇ったのがロッシさんでした。
まずは簡単に彼の戦歴を書き出してみます。ロッシさんの世界GP初参戦は’96年のGP125。アプリリアからのフル参戦でした。’98〜’99年はGP250を同じくアプリリアで走り、2000年からは、当時の最高峰クラスであるGP500へのフル参戦を果たします。彼が凄いのは、各クラス参戦2年目に必ずチャンピオンを獲っているというところです。
’02年からMotoGPクラスの新設により、エンジンは4ストロークが優勢となり、’04年には2ストロークは姿を消しました。劇的な改変でありながらも、ノリにノッていたロッシさんは、難なくMotoGPクラスの初代王者となり、そのまま’05年まで4連覇しました。ヤマハに移籍した’08〜’09年も引き続き連覇。
本当に凄まじいまでのこの戦歴は驚きです! 凄過ぎる! その後はドゥカティを経てヤマハに戻るなどし、世界の舞台で26シーズンを、トップライダーとして闘ったのです。もうこのレースキャリアには脱帽するしかありません!
さて、ここからはロッシさんのライディングを考察していきます。イラストと一緒にお読みください。
ロッシさんはGP125、GP250と2ストローク小排気量車からステップアップしていきました。これは欧州ライダーの標準的なキャリアです。彼らの特徴は、ブレーキングで頑張ってコーナリングスピードを高くキープする走り方に表れていました。
ロッシさんも厳しいブレーキングから速いコーナリングスピードを保つ走り方でした。加えて彼は小排気量車乗りならではの特徴も併せ持っていました。それは長身の身体を、無理矢理折り畳んで小さくするフォームです。
実はこの特徴、GP500になっても大きくは変わっておりません。身体を大きく使うイメージではなく、長身をコンパクトに使うイメージでした。
イラストにも描きましたが、腰の位置がリーンウィズに見えるほど、オフセット量が少なかったのです。頭の位置もマシンのセンターから少しインに入り、アゴを引くので頭は少し傾く感じで、やはり“大人しいフォーム”という印象でした。
‘02年から、バイクが4ストロークのMotoGPマシンにチェンジしました。2ストロークのGP500マシンに比べて車重が非常に重くなり、大排気量ならではの強烈なトルクとパワーを発揮するようになりました。しかし、大幅にマシン特性が変わっても、フォーム的にはGP500時代と大きくは変わらない印象でした。
ただ、細かく考察すると頭の位置が低くなった印象で、GP500時代より深く伏せるフォームになったように見えました。エンジンパワーが上がり、加速時にリフトするフロントを抑えるためだったのではないかと思われます。
そして’04年からヤマハ・YZR-M1に乗り換えるのですが、ちょうどこの頃にロッシさんのフォームが大きく変わる車体の変更がありました。それは’08年から、タイヤがミシュランからブリヂストンに変わったのです。ホンダの玉田誠さんがブリヂストンを履いて好成績を残し始めた頃でした。
レースを観ていても「ブリヂストンじゃないと勝つのは難しいな!」と思うほどでした。その現実に気付いたロッシさんは、ブリヂストンに乗り換えたのでした。
翌’09年からはブリヂストンのワンメイクとなりました。イラストをご参照頂きたいのですが、この頃からロッシさんは上半身をインにグイっと入れる、現在のライダー達のようなフォームへと変化していきました。頭の位置がさらに低くなり、イン側のヒジが路面にタッチし始め、革ツナギのヒジ部にもスライダーが付くようになったのです。
重要なのは、それでも腰のオフセット量は変化が小さかったこと。本来、イン側に加重したいなら腰を大きくずらすのが有効なはずです。きっと、腰の位置はマシンのホールドに関わるので、大きくは変えられなかったのでしょう。
この時期、僕はノリック阿部さんのMotoGPレポートにイラストを提供しており、彼の解説をシッカリ読込んでいました。ノリックさんは「タイヤには問題が無い。レース終了までちゃんと保つし、非常に良い」と熱弁しておられました。タイヤがブリヂストンのワンメイクに変わった頃から、エッジグリップが著しく良くなったようなのです。
エッジ(端)はフルバンク時に使う部分です。このグリップが良くなったことが、トップライダー達が思い切りイン側に身体を入れ始める切っ掛けになったように思います。ヤマハ+ブリヂストンになったことで、ロッシさんライディングフォームを大きく換えた、と考察しています。
さらに、ロッシさんとMotoGPマシンがもたらしたライディングの進化と言えば、「足出しブレーキング」ですね。この足出しが「どんな効果をもたらすのか?」については、現時点ではまだハッキリしない……と言えます。実践しているライダー自身も、ハッキリとは解説出来ないのが面白いところです。ですので、僕なりの足出しブレーキングの考察をしてみようと思います。
以前からさまざまなトップライダーのライテク本を読んできました。中には「マシンを寝かし込むタイミングで、インステップを踏み込んで荷重し、バンクさせる」という意見もありました。しかし、僕の考察はちょっと違います。
まず、コーナー進入時は、減速のためにフロントブレーキが利いています。すると、フロントタイヤには若干カウンターが当たっている状態になります。ここでイン側ステップを踏むと、その反動でさらに強くカウンターが入るように思うのです。ですから「マシンを寝かせ込むタイミングで踏み込むと、アンダーステアが出るのでは?」と考えるのです。
そこで、カウンターをキャンセルしながら、初期旋回を使えるようにする方法が、この足出しブレーキングにあるのではと考えるのです。
左右のステップから片足を外せば、ステップに残っている足にライダーの体重が乗ります。イン側ステップから足を外し(荷重を抜き)、体重がアウト側のステップに残った状態から、アウト側の足でグイッとマシンに荷重していると考えられるのです。これならばインステップには一切荷重されませんし、フロントタイヤにカウンターが入って初期旋回を邪魔する事も防げ、セルフステアでよく曲がる状態にもなります。
ちなみに、フレディ・スペンサーさんやケビン・シュワンツさんも、足出しブレーキングと似たテクニックを使っていたように思えます。スペンサーさんの場合、奥がキツくなったコーナーで見せるテクニックでした。
減速からマシンを寝かし込み、かなりのバンク角になっている段階で、インステップに載った加重を抜くように、インヒザを一度畳んでから再び出し、フルバンクにもっていくのです。この瞬間、イン足から一度荷重を抜いているように見えるのです。荷重が抜けた瞬間にマシンはさらに鋭く曲がりました。これは’85年の南アフリカGPで確認できます。
シュワンツさんは強くコーナーに突っ込むシーンで、イン足を一度ステップから外すのです。マシンがバンクし始めるとすぐにステップに足を戻すので、足首をクルッと回転させてステップに戻しているように見えました。ロッシさんと同じく、体重が載った外足でマシンに荷重しているように見えるのです。シュワンツさんのこのテクニックは鈴鹿サーキットでの130Rへの突っ込みシーンで確認する事が出来ます。
つまり、足出しブレーキングに限らず、インステップの抜重・荷重は、これまでも世界GPで使われていたテクニックだと言えるのです。ロッシさんも本物のトップライダーですから、速いライダー同志で共通点があるのだな、と思います。