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青木宣篤流 アドバンスドライテク【MotoGPライダーになってみた!PART 2|フロントタイヤに頼らない走り】

MotoGP2022シーズン。マレーシア公式テストでは1秒以内に18人が名を連ねた。彼らはいったい、どんな世界にいるのか。そしてどのようにマシンを操っているのか──。究極のサーキット走行を青木宣篤が詳報する。本稿ではブレーキングで後輪をアウトに滑らせている理由についてをお届けする。

青木宣篤
「なってみた」どころか、言わずと知れたリアル元MotoGPライダー。現在も折に触れてスズキのMotoGPマシン、GSX-RRをテストで走らせている

ブレーキングで後輪をアウトに側に滑らせる

ミシュランモトGPタイヤの特性に合わせたテクニック

子供の頃、自転車の後輪ブレーキだけをかけてザザザッとリアを流して遊んだことはないだろうか? MotoGPマシンでのブレーキングで後輪をアウトに振り出すのも、基本的には同じようなものだ。 

経験者なら分かると思うが、後輪を流すことでまず減速度が増す。最高速が高まり、ブレーキへの負担が増している今、少しでも減速度を稼ぐための「後輪振り出し」だ。 

そして今のMotoGPにおいては、「前輪に頼らずに向きを変える」という非常に重要な理由がある。

MotoGPのワンメイクタイヤがミシュランになったのは、2016年のこと。それまでのブリヂストンと大きく変わったのは、前輪の特性だった。 

ブリヂストンの前輪は、タイヤに荷重をかけたまま旋回に入り、ブレーキをリリースしていってもしっかりとグリップしながら旋回力を発揮してくれた。おかしな表現かもしれないが、「バネレートが高いタイヤ」という印象だ。 

一方ミシュランの前輪は、バネレートがやや足りない。そのため、ブレーキをリリースしていくにつれてスコッと荷重が抜けやすい。これを少しでも防ぐために後輪をアウトに振り出し、向き変え時の前輪の仕事量を減らそうとしているのだ。 

Moto2では、よりアグレッシブに後輪を振り出しているシーンが見られるが、これはMoto2ワンメイクタイヤのダンロップの特性による。ダンロップのMoto2タイヤは、ミシュランのMotoGPタイヤ以上に前輪を頼ることができない。

Moto2に参戦する小椋藍選手が「フロントを押さないようにリアから曲がる」と言っていた。「前輪をつぶす」という言い方をするが、なるべくつぶさずに走る方が得策なのだ。

ABSが効くギリギリ寸前を狙う

ABS装備の量産車で後輪を流すには、ABSに勝負を挑まなければならない。ABSが効くギリギリ寸前を狙った後輪ブレーキングだ。 

まず、フロントブレーキを強くかけてできるだけ後輪の荷重を抜く。レースでよく目にする足出しも効果的。GSX-R1000RのABSは姿勢も検知しており、過度に前のめりになっても作動するので要注意だ。 

そしてもちろんリアブレーキもかけるのだが、これがなかなか手強い。レーシングブーツを履きながらも繊細にペダルコントロールし、ABSが効かずに最大効力を発揮するポイントを探らなければならない。

高速であるほどやりやすい

写真1は低速ヘアピンへの進入、写真2は高速コーナーへの進入で撮影した。ABSと戦いながらなので大きく後輪を振り出せてはいないが、高速コーナーの方がやりやすかった。横方向の慣性がより強く働くからだ。

そういう意味では高速でABSもないMotoGPマシンの方が後輪を振り出しやすい……かもしれないが、いやいや、たやすいことではない。

プロフェッサー辻井さんによる解説

Professor
辻井栄一郎

元ヤマハのエンジニア。大学客員教授経験もあり、ニックネームは「プロフェッサー」

マシンが寝かせやすくなる効果も

ブレーキングしながら後輪がアウト側に振り出されると、マシンは横を向きながら寝ることになります。スライドすることで減速するので、ハンドル操作をしなくてもさらに寝ていく。つまり青木さんの指摘通り、前輪の仕事量を減らしながら向き変えすることが可能になります。 

後輪をアウトに振り出すと、その分、重心がずれます。つまり、前輪を使わずして非セルフステア状態を生み出せる。これが前輪の作業量が減る理屈。後輪に舵角はつきませんが、後輪を操舵しているのと同じことが起きているのです。 

だからライダーたちは、成り行き任せで後輪を振り出しているのではありません。「リアが流れてしまった」のではなく、意図的に、適切な量だけリアを流しています。後輪をアウトに振り出しすぎて明らかなカウンターステアになると大きなロスが生じますし、振り出し量が足りなければ向きが変わりません。 

ハイスピード、ハイグリップなタイヤ、μの高い路面という条件下で、ハンドル操作とブレーキングによって後輪のスライド量をコントロールするのは、至難の業。常人にできることではありません。

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