高田速人さんのスポーツライディングブートキャンプ|Vol.4 ブレーキのコツと現代タイヤの使い方
細かいコツがある、ブレーキングのテクニック。今回は、疑問点の多いブレーキングのポイントを高田さんが解説。「なぜ、そうすべきか?」を、タイヤの進化の面からメーカーにもに聞いてみた。
わからないコトが多いブレーキングの疑問を高田さんに聞いてみました。
’76 年生まれ。東京都出身。鈴鹿4耐優勝を経て国際ライセンス取得。全日本や鈴鹿8耐の参戦多数。’13年から3年間、世界耐久選手権にフル参戦、最高ランキングは4位。バイクのタイヤとメンテナンスのプロショップ「8810R」代表
Q1:コーナリング中のブレーキ入力のコツは?
A:走行スピードや、どういったコーナーかによっても違うので、一概には言えませんが、バイクを寝かせると、旋回で発生する抵抗で車速が落ちるので、その分だけブレーキを抜いて車速を合わせるイメージです。
わかりやすい目安は走行ラインです。曲がれる速度まで減速できているのに、通りたいラインより膨らんでしまうようなら、ブレーキを弱めます。コーナーの途中でブレーキをかけると、マシンが立って曲がらなくなりますよね?
それと同じ状態で曲がらなくなっています。逆に、理想のラインよりイン側に入ってしまうのなら、ブレーキが弱すぎて必要以上にバンクしていると判断できます。
Q2:ブレーキングの時はシートのどこに座るの?
A:どこに座るかより、どう座るかが重要です。腕を突っ張って、尾てい骨をシートに押し付ける姿勢を心がけてください。そうすれば背中が丸まり、お腹が引っ込む姿勢になるので、上半身が安定します。
ブレーキング時には重心を下げて、車体を安定させたい。そのポイントになるのが骨盤の動きです。尾てい骨をシートに押し付けると、股関節を中心に骨盤が背中側に回転する形になり、しっかりマシンに荷重が乗ります。
Q3:ブレーキング時のシフトダウンが上手くできません!
A:シフトダウン時のブリッピングが出来ていないのだと思いますが、この点に関しては直接的な練習方法がありません。ですが、ここでもブレーキングで腕を突っ張ることが大切です。肘が曲がっていると、上半身が不安定でニーグリップに不要な力が入ります。そのせいで、シフトダウンに必要な足の動作が不自由になっている場合が多いのです。
また、余裕を持ってブレーキングを開始するのも有効。早めのブレーキで、ブレーキレバーは握らずに“引く”ことを意識すれば、全ての動作に余裕が出ます。“突っ込みは頑張らない”のが鉄則。ブレーキング競争のような、我慢比べ的な走り方は最後の手段です。
ライディングの常識はタイヤの進化で変わった
腕を突っ張ったブレーキングをはじめとする、マイナスと考えられていた乗り方が、有効なテクニックに変わったその大きな理由が、タイヤの進化だと言われている。なにが変わってきたのか、ダンロップ小野裕明さんに聞いた。
住友ゴム工業
タイヤ国内リプレイス営業本部販売企画部
小野裕明さん
学生時代はトライアルに熱中し、国内A級にまで昇格。’90年に住友ゴム工業に入社し、二輪のアフターマーケットやバイクメーカーOEMに関する業務を担当。現在は、商品企画やプロモーションの一環として、ダンロップの国内バイクレース全般を担当
タイヤの進化がライディングの変化に与えた影響は少なからずあります。転機は、やはりバイクのタイヤがラジアル化したことでしょう。バイク用ラジアルタイヤが登場したのは1980年代初頭です。これは、バイクの高出力化が進み、走行スピードが上昇したことで、高速域での耐久性や安定性向上が求められたのが理由でした。それまでバイク用タイヤで主流であったバイアスタイヤは、構造の問題で高速域での性能には限界があります。
タイヤは、路面と接することで変形し、そのストレスによって発熱します。高速域ではタイヤの回転数が上がりますから、発熱量も大きくなる。バイアスタイヤは構造上高速回転による遠心力に耐えられずタイヤ外径が膨らみ、接地時のタイヤの変形と発熱が大きくなって、耐久性や安定性が確保できなくなるのです。
その点、タイヤの外周に締め付け効果のあるベルト層が配されているラジアルタイヤは、遠心力による寸法変化が小さく、高速域での耐久性や安定性に優位性があります。バイアスタイヤの限界スピードは250km/h程度と言われています。市販バイクの最高速度が、その域に達したのが1980年代です。当初はバイアスタイヤが使われていましたが、超高速域に対応させたバイアスタイヤには無理があり、非常に重く、乗り心地が悪かったです。
一方、ラジアルタイヤは超高速走行で有利ですが、全ての面で良くなったわけではありません。一言で言えば、ラジアルタイヤは曲がりにくいのです。
現代の1000㏄スーパースポーツは、300km/hも出ますから、ラジアルタイヤが必須。ですが、今のユーザーの皆さんがラジアルタイヤだから曲がり難いと感じることはないでしょう。これは、ラジアル化と共に、車体に対する考え方が変わってきたことにも理由があります。
バイクは、キャンバースラストとコーナリングフォースによって曲がります。タイヤの断面は、大まかに言えば半円形。タイヤの外径は直進時に最大となり、バンク角が深まるほど小さくなります。この差異が生み出す現象がキャンバースラストです。円すいを倒して転がすと、頂点側に曲がるのと原理は同じです。
コーナリングフォースは、ステアリングに舵角をつけて曲がる考え方です。フロントタイヤに舵角がつくと、その方向に車体は曲がり、逆方向に遠心力が働きます。タイヤがグリップすることで、遠心力で逆側に飛び出すのを防ぎますが、ここでタイヤの接地面がたわみ捻られます。この接地面の捻れを復元しようとする反力がバイクを曲げ、この働きをコーナリングフォースと呼びます。
バイクが曲がる基本的なメカニズム
コーナリングフォース
ステアリングに舵角がつくと、バイクはその方向に曲がろうとするが、逆方向に遠心力が働いて直進しようとする。そのためタイヤが捻れ、ステアリングの向きと実際のバイクの進行方向には差異が発生。これをスリップアングルと呼ぶ。ただ、実際にタイヤがスリップしているのではなく、ステアリングの舵角と路面の位置関係のズレが、あたかもスライドを起こしたような状態が旋回力を生み出している。
キャンバースラスト
タイヤの外径は直進時が最大で、フルバンクに近づくほど小さくなる。この差異を利用して曲がるのがキャンバースラストだ。ラジアルタイヤはサイドウォールが柔軟なため、バイクをバンクさせても、サイドウォールが潰れるのが先で、接地面の位置変化が外径の縮小に反映されにくい。そのため、キャンバースラストの効果が弱いのだ。
バイアスタイヤは、コーナリング性能の多くをキャンバースラストに依存しています。対して、ラジアルタイヤは構造上キャンバースラストが発生し難いのです。バイクをバンクさせただけでは曲がってくれないのがラジアルタイヤです。ですが、高速化によってラジアルタイヤの採用は必須でしたので、コーナリングフォースを活かす車体作りが求められました。ステアリングに舵角がつきやすいディメンションへの変化です。最も顕著な点はキャスター角が立ったことでしょう。キャスター角が立っている方が、ステアリングは切れやすくなります。
ラジアルタイヤの一般化は、積極的にコーナリングフォースを使える車体なくしてはあり得ませんでした。逆に言えば、現代のバイクはラジアルタイヤの特性を活かす乗り方が必要です。ラジアルタイヤは荷重がかかると接地面がキレイに潰れて、グリップ力を引き出せます。高田さんが言う〝腕を突っ張るブレーキング〞は、より効率良くタイヤに荷重を乗せることができると思います。
ブレーキを残したままコーナーに進入するのも、タイヤを路面に押し付けながらコーナリングすることになりますから、コーナリングフォースをより強く働かせることができる。コーナリングフォースはタイヤ接地面の捻れに対する反力ですから、路面とタイヤがしっかりとグリップしていないと十分に働きません。
例えば、モトクロス用のタイヤは、現在もバイアスタイヤが使われています。ダート路面はグリップが悪いので、コーナリングフォースが十分に発生せず、旋回力のほとんどをキャンバースラストに依存せざるを得ないことが理由です。モトクロスタイヤのラジアル化が試みられた時代もありましたが、満足いく性能が得られませんでした。バイアスタイヤにもメリットはありますし適材適所なのですが、スーパースポーツでは、ラジアルタイヤのメリットは絶大です。高速域での直進安定性、乗り心地、耐久性だけではありません。ラジアルタイヤは発熱量が低いので、コンパウンドへのダメージが小さいのです。同じコンパウンドを使ったバイアスタイヤと比較すれば、ラジアルタイヤの方がより長い距離を走れます。同じマイレージであれば、ラジアルタイヤには、よりハイグリップなコンパウンドを使えるのです。
スーパースポーツの世界では、ラジアルタイヤの優位性は揺るぎません。ラジアルタイヤの性能を引き出すテクニックを身につけ、安全に楽しく走りを楽しんでいただきたいですね。
(小野裕明)