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高田速人さんのスポーツライディングブートキャンプ|Vol.8 効率の良い加速のための考え方とスロットルワーク

サーキットを楽しく、安全に走るためのテクニックを紹介してきたこの企画。今回は加速を題材にとりつつ、走りの組み立てについて考えてみる。身体を使うだけがライディングではない。アタマを使って速くなろう!

今回のテーマは加速。ボディアクションなどの具体的なテクニックというよりは、加速力を引き出す走りの組み立てについてだ。 

まず大切なのは「サーキットで上手くなるためには、無闇に頑張らないこと」と高田さん。頑張らなければ上手くなれないのでは? と思ってしまうが、ここで引っかからずに、とりあえず最後まで読み進めて欲しい。きっと、高田さんの言っていることが理解できるはずだ。

「サーキットで速く、リスクを少なく走るためには、いかに効率良くストレートを走るかが重要です。その早道は、ストレートスピードを上げることなんです。コーナーの立ち上がり加速を高めるために、どう走るかを考え、少しでもスロットルを早く、大きく開けられるラインを選びます。コーナーにどう進入するかは、最適な脱出ラインをイメージして決めなければいけません」 

レーシングライダーが、サーキットでの走りの組み立てていくに時は、最終コーナーから逆回りに考えを進めていくことが多いのだという。

「ストレートでの到達スピードを決めるのは、コーナーの脱出速度です。ですから、コーナーごとに理想の脱出ラインを考えます。そのラインを通るために逆算して、どこでバイクを〝曲げる〞のか、そのためにはどのラインで進入するのかを、一つ一つのコーナーで行い。それを繋げて1周の走りを組み立てていきます」 

そこで重要になってくるのが〝頑張らない〞ポイントだ。サーキットを走る時、多くのアマチュアライダーはタイムアップを焦るあまりに頑張ってしまう。それが逆に上手くいかない原因になっている。

「例えば、あるコーナーの進入で抜かれたり、後ろから突つかれることが多いとします。ここで皆さん、ブレーキングポイントが手前過ぎる、もしくはブレーキを強くかけすぎると勘違いしてしまう。そこで、ブレーキングポイントをどんどん奥に取ると、十分に減速できずに走行ラインを外してしまう。すると、まともに加速させることなんかできません。曲がりきれずにコースアウトしたり、最悪の場合は無理やりバイクを曲げようとして転倒……。そういったパターンは珍しくありません」 

では、どうすればいいのか? 答えは簡単、コーナリングスピードを遅くすればいいのだ。もちろん、全体的な走行ペースを落とすのではない。重要なのはバイクを〝曲げる〞ポイントでのスピードだ。

「バイクはスピードが遅ければ遅いほど、向きを変えやすい。つまり、任意のポイントで〝曲げ〞やすくなるので、理想のラインをトレース出来るわけです。タイムアップを考えれば、もっと速くコーナーを曲がれるのに、意図的にスピードを落とすことには抵抗を感じるでしょう。ですが、勇気を持って遅く走るポイントを作りましょう。それが、コースを1周してのラップタイム向上のカギだと考えてください」 

筑波サーキット・コース1000、第3コーナーでの高田さんと編集・藤田の走りを比較。藤田はアウト・イン・アウトを意識して大外から進入するが、減速し過ぎてスロットルを早く開けるも、バイクを“曲げ”られずパーシャルでダラダラとコーナリング。その後の到達スピードが低い。高田さんは、加速区間を長く取れるラインを選んでいる。

ありがちな〝間違った頑張り〞に、〝膝の擦り過ぎ〞がある。膝を擦るということは、バンク角が深いということで、ライダーは〝頑張っている自分〞を感じやすい。だが「膝を擦っている区間が長い=バンク角が深い区間が長い」ことを表し、これは走り方としてリスクが高い。そもそも、ダラダラとバイクを〝曲げ〞きれずに走っているわけで、立ち上がり加速に持ち込むのが遅くなる。速いライダーの走りを見てみれば一目瞭然だ。フルバンクさせている時間はごくわずか、いち早くマシンを起こして加速体勢に入っている。 

ブレーキングもコーナリングも無駄に頑張らない。理想的な脱出ラインを重視することで、低リスクで自然にタイムアップが狙えるのだ。だが、理想の走行ラインが分からないという人もいるだろう。ライン取りはコースによって変わるものだ。同じ半径、同じコース幅、同じ路面のコーナーでも、前後のコースレイアウト次第で違う。どんなバイクに乗っているか? どれほどのペースで走るのか? 乗り手のスキルも大きく関わってくるので一概に決められるものではない。でも、自分なりの理想のラインを見出すヒントはある。

筑波サーキット・コース1000、第4コーナーでの高田さんと編集・藤田の比較。ラップタイムを比べると、両者には6秒もの差がある。高田さんは、進入スピードと脱出スピードは速いが、逆にコーナリング中のボトムスピードは遅い。これは、マシンを素早く“曲げる”ために、意図的に遅く走るポイントを作っているからだ

「可能なら、サーキットを自分の足で歩いてみてください。走っている時とは違う目線でコースを見ることで、気付かなかった部分が見えてくることがあります。ライン取りというと、クリッピングポイントを気にする人が多いのですが、逆にコースのアウト側がどこまで使えるかもチェックしてみてください。特に加速については、コース幅を有効に使うことが重要です」 

クリッピングポイントは、一般的にコーナーで最もイン側に寄る箇所を指す。最もアウト側に出られる箇所、これを高田さんは「アウトクリップ」と呼ぶのだが、アウト側に注目することが立ち上がりのラインを決める重要な要素だというのだ。

「皆さん鈴鹿8耐の中継は観たでしょうか? トップライダーのスプーンカーブの走りを思い出してください。皆、アウト側のゼブラに乗り上げていました。そういう走りができるのは自分がどのラインを通るのか、アウトクリップはどこなのかが、明確に見えているからです」 

一般ライダーが真似するにはレベルの高過ぎる話だが、速度域が違うだけで考え方は同じだという。コースレイアウトと自分の走りを照らし合わせて考え、理想の走行ラインを導き出す。そうしてこそ、効率良い加速が可能となるのだ。自分の走りとコースを俯瞰で見る、そして〝頑張らない〞走りで、低リスクで速くなることを目指そう。

あなたは何本指派? スロットルの握り方で加速が変わってくる!?

慣れた方法が一番安心3本指握りも捨て難い

親指と人差し指でスロットルを掴み、ブレーキ操作は中指、薬指、小指の3本指で行うのが「3本指握り」。一般ライダーに多い握り方なのだが、ことサーキット走行に関してはデメリットが少なくない。まずスロットル開閉時に、右手と接する部分が親指と人差し指だけで接触面積が小さい。そのため、スロットル操作に必要な力が余計にかかるので、2本指握りと比べると微妙なコントロールがしにくいのだ。だが、高田さんは、必ずしも2本指握りに矯正する必要はないと言う。3本指握りが身についている人が、無理に矯正すると、公道での事故回避などで反応が遅れ、操作を誤ることがあるからだ。

3本指握りは、ブレーキ操作に使う指の本数が多い分、ブレーキ入力が強いというメリットはある。ガッチリ握り込む形でスロットルをホールドするので、操作時にはどうしても手首を捻る形になり、肘から先全体を動かさなければばらない。動作が大きくなるため、微妙なスロットルコントロールが難しいことが大きなデメリット

コントロール性重視なら2本指握りがオススメ

加速時にスロットル操作を行うのは右手。その握り方で操作性が大きく変わることを知っているだろうか。高田さんが推奨するのは、薬指と小指でスロットルをホールドし、ブレーキ操作は人差し指と中指で行う「2本指握り」。この握り方の最大の利点は、右手のスロットルと接する面積が大きく、小さな力でスロットル操作を行えること。力がかけやすいことで、より繊細なスロットルワークが可能となる。また、ブレーキレバーを強く握りこんだ時、スロットルとレバーの間に指が存在しないので、ハードなブレーキングでマスターシリンダーの握り代が増えた時にも、確実なブレーキ入力が可能だ。

2本指握りを下側から見ると、ホールドしている薬指と小指に余裕があることがわかる。この外側2本の指でスロットルを“転がす”ことで、パーシャル時からの明け口などの微妙なスロットルワークがしやすい。また、手首を捻らず、回す感覚でスロットル操作を行うので、肘の動きが小さく、無駄なボディアクションが少ない

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