硬いサスペンションがSSの難しさを助長している
高速域からのハードブレーキなど、大きな荷重に耐えるため、スーパースポーツのサスペンションセッティングはネイキッドよりハード傾向だ。
「とくにサーキットビギナーの場合は、スピードレンジが低めなことが多く、速度域に対してサスが硬いことで、ピッチングや接地感、トラクションを感じづらく、これが怖さにつながることはあると思います」
中野さんはこう話す一方で、「じつは我々も、そう感じることはありますよ」と話す。
「スーパースポーツは、剛性のあるハイグリップタイヤがちゃんと温まり、コーナリングスピードが上がり、ハードブレーキングやフル加速が可能な状態にならないとうまく走れません。加えてライダーもマシンに順応して初めて、サスが本来の機能を発揮すると考えています。私がスーパースポーツに乗るときも、最初の数周はサスだけでなく、全体的にカチッと硬い印象を持つことは多々あるんです」
だからこそ中野さんは、このようにアドバイスする。「初めてスーパースポーツに乗って、すぐに拒絶しないこと。最初の数周で、『スーパースポーツは難しい』とか『怖い』と結論づけるのは早計です。スーパースポーツのオーナーが久々に乗るようなときも、短時間で判断せず、ライダーが慣れるまで待ってほしいんです」
しばらく乗り込んで、それでもやっぱり「サスが硬い」と感じた場合は、調整機能を活かしてセッティング変更してみるのもありだ。
「サスセッティングというのはライダーがどう感じる次第なので、何が正しいとか、柔らかければ絶対に安心感を得られるというものでもありません」と中野さん。そういう大前提の上で、中野さんがオススメするのは、「柔らかいほうから、足りないと感じたら少しずつ足していく、大定番の方法」とのことだ。
SSを難しく感じるサスペンション“負のスパイラル”
- SSのサスはなぜ硬い?
- 大柄な欧米人が、サーキット走行することも想定
- ハイパワー&高荷重に耐えるための設計
- 硬いことのメリットは?
- ハードブレーキの際などには最後まで踏ん張れる
- 路面状況の情報などがライダーに伝わりやすい
- 硬いとなぜ怖い?
- 弱いブレーキだと車体のピッチングが分かりにくい
- 鋭く曲がる姿勢を作るため、より強いブレーキが必要になる
- サスが敏感に反応することが、逆に不安な印象になる
“鋭く曲がる”に重要なピッチングモーション
ピッチングは、走行中のバイクを真横から見たときに、重心を中心として前後に弧を描くような動きのこと。フロントブレーキを強くかけると、フォークが沈んでキャスターが立ち、車体が“曲がりやすい”姿勢になる。また、フロントタイヤが潰れることで接地面が増え、荷重により制動力も増す。
ネイキッドは比較的柔らかくピッチングが分かりやすい
一般的にはスーパースポーツよりサスペンションはソフト。そのため、緩めのブレーキングやスロットルオフによるエンジンブレーキだけでもフォークが沈みやすく、車体の動きも分かりやすい。また、細かな路面の情報などは伝わりにくいので、挙動が安定しているように感じ、安心感に繋がる。
前輪を強く路面に押しつければ安定感が増して怖さも軽減される
「よく『ライディングでは腕の力を抜いて』と言われますが、ブレーキングのときは対象外。上体を起こし、しっかり腕を突っ張って身体を支えます。でもギュッとハンドルを握るのはこれまた間違いで、ヒジの関節をロックして腕を突っ張り棒のように使うイメージ」と中野さんはレクチャー。
SSは腰をずらした方が後輪に荷重できて安定する
「ハングオフして低い姿勢を保って曲がるほうが、マスの集中により安定感が増すし、その結果としてペースも上がるので、立ち上がりではしっかりリアに加重できます」と中野さん。「お尻の割れ目が、イン側のシート端にくる位置までずらすのが基本」とのこと
ブレーキ前から腰をずらせば車体に不要な挙動を与えない
「ハングオフはしたいけど、姿勢づくりが難しい」というビギナーも多いはず。ならばブレーキングの前に腰をずらしてしまおう。旋回直前の一瞬に複数の動作をするのは難しいし、車体に余計な挙動を与えてしまう。また、制動時の下半身ホールドは、外足の内側で行う
レインモードでサスを柔らかくするのも手だ
「電子制御セミアクティブサスペンションの場合、ライディングモードと連動して足まわりの設定が切り替わることもあります。もちろん任意の仕様にも、工具ナシで簡単に変更できます。まずは、柔らかくする方向で、気軽に試してほしいです」と中野さん
MotoGPマシンのサスはやっぱり硬いの?
「みなさんが想像しているほどは硬くないかもしれませんが、とはいえハード。車体やタイヤにも剛性があるので、ピットロードをゆっくり走らせるのは本当にキツい」と中野さん。300km/hの世界に特化したサスペンションなのだ。