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デジタルガジェットで上手になる! GPSデータロガー活用術

趣味でサーキット走行を楽しむライダーたちの間にも、認知度が高まりつつあるGPSデータロガー。走行ラインや区間タイムの記録が見られ、なんだかMotoGPライダーになったみたいで楽しい!とはいえこの高機能を“楽しい”だけで終わらせていたら、まさに宝の持ち腐れ。データの意味を理解して正しく分析することで、効率よくライディングスキルアップが狙える!

PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA
取材協力/アクティブ TEL0561-72-7011 http://www.acv.co.jp/

最新のGPSロガーは高精度で情報量が豊富

近年、〝ガチ勢〞だけでなく、走行会をメインとするライトなサーキット好きからも注目を集めているのが、一般的にGPSデータロガーやGPSラップタイマーなどと呼ばれる製品。車体に装着しておくことで、走行後にPCやスマホで走行データを分析できたり、モニター付きなら走行中にもタイムや速度などを確認できたりするアイテムだ。 

このようなデータロガーには、衛星測位システムが用いられている。じつはGPSというのはその一部であり、米国が運用。同じく地球全体をカバーする衛星測位システムにはロシアのグロナスや欧州のガリレオ、中国の北斗などがあり、これらを総称してGNSSと呼ぶ。さらに地域限定のシステムには、日本のみちびきなども存在。このように衛星数が増加したことに加え、衛星からの信号を受信して演算するチップの高性能化や、1秒間に演算する回数の増加などにより、最新のGPSデータロガーはかなりの高精度を誇る。 

サーキット走行にこのGPSデータロガーを導入する最大の利点は、「走りを可視化できる」こと。ライディングを数値と軌跡の〝情報〞に変換することで、ラップごとや、自分と他人の走りを客観的に比較することも可能だ。上手に使えば、ライディングスキル向上にも役立つ。

一般的なGPSデータロガーでできること

走行中の車速を記録

走行データ内の最高速や平均速度だけでなく、走行中の車速を常時演算して詳細に記録。例えばあるコーナーにおけるボトム速度や、任意地点における他の走行データとの速度差なども、簡単に知ることができる。後ほど解説するが、この“速度”が上達のカギを握る
走行データ内の最高速や平均速度だけでなく、走行中の車速を常時演算して詳細に記録。例えばあるコーナーにおけるボトム速度や、任意地点における他の走行データとの速度差なども、簡単に知ることができる。後ほど解説するが、この“速度”が上達のカギを握る

ラップや区間タイムを記録

従来からある赤外線方式や磁気方式の装置でもラップタイムは記録できるが、GPSロガーならプリセットまたは任意設定したセクターのタイムを表示することも可能。どのセクションが以前の走りと比べて速くなったとか、逆にどの区間があまり上達していないかなども分析可能
従来からある赤外線方式や磁気方式の装置でもラップタイムは記録できるが、GPSロガーならプリセットまたは任意設定したセクターのタイムを表示することも可能。どのセクションが以前の走りと比べて速くなったとか、逆にどの区間があまり上達していないかなども分析可能

走行ラインを記録

走行の軌跡をラインで表示。専用ソフトに国内外メジャーサーキットのコース図が収められており、自動認識でコース図に走行軌跡を描いてくれる製品も多い。1cm単位までは厳しいが、最新機種ならかなり高精度。部分的に拡大すれば、ラインの違いはかなり明確にわかる
走行の軌跡をラインで表示。専用ソフトに国内外メジャーサーキットのコース図が収められており、自動認識でコース図に走行軌跡を描いてくれる製品も多い。1cm単位までは厳しいが、最新機種ならかなり高精度。部分的に拡大すれば、ラインの違いはかなり明確にわかる

各周回の走行データ比較

各社の専用ソフトウエアには、複数周回を比較表示する機能が備わっていることが多い。画面上に走行ラインや速度推移グラフなどがラップごとに異なる色で示され、各車の位置を示すマークがスタート地点から同時に発進する再生モードもあるため、走りの違いを視覚で認識しやすい。メーカーによっては、他者がアップロードしたデータの取得も可能。自分よりも上手なライダーのデータをインポートして、参考比較するのも有益だ
各社の専用ソフトウエアには、複数周回を比較表示する機能が備わっていることが多い。画面上に走行ラインや速度推移グラフなどがラップごとに異なる色で示され、各車の位置を示すマークがスタート地点から同時に発進する再生モードもあるため、走りの違いを視覚で認識しやすい。メーカーによっては、他者がアップロードしたデータの取得も可能。自分よりも上手なライダーのデータをインポートして、参考比較するのも有益だ

加減速のタイミングを表示

各社専用ソフトウエアで描かれる走行軌跡には、GPSの速度データを基にして、減速区間が太線や点線などで示されることが多い。この描写を比較することで、ブレーキング開始ポイントや減速時間、加速に移る地点の違いなどを知ることもできる。減速中の各地点における速度やボトムスピードを、同じクラスの車種に乗る上手なライダーと比べることで、自分の課題も見えるし、次回走行時の参考にすることもできる
各社専用ソフトウエアで描かれる走行軌跡には、GPSの速度データを基にして、減速区間が太線や点線などで示されることが多い。この描写を比較することで、ブレーキング開始ポイントや減速時間、加速に移る地点の違いなどを知ることもできる。減速中の各地点における速度やボトムスピードを、同じクラスの車種に乗る上手なライダーと比べることで、自分の課題も見えるし、次回走行時の参考にすることもできる

QSTARZ LT 8000GT GPSラップタイムモニター
価格:9万5700円
問/アクティブ TEL0561-72-7011 
http://www.acv.co.jp/
0.04秒ごとに記録する超高性能25Hzログを誇り、捕捉衛星数も豊富。加速度計やジャイロスコープも搭載する
0.04秒ごとに記録する超高性能25Hzログを誇り、捕捉衛星数も豊富。加速度計やジャイロスコープも搭載する
スマホやパソコンの専用アプリで、詳細な走行解析が可能。本体に国内141カ所のサーキットを自動認識する機能もある
スマホやパソコンの専用アプリで、詳細な走行解析が可能。本体に国内141カ所のサーキットを自動認識する機能もある

ボトム速度を検証して理想の走りに近づけよう

【中野真矢】
世界選手権で2000年にGP250㏄クラス年間2位を獲得。2002~ 2008年にヤマハ、カワサキ、ホンダのマシンでMotoGPフル参戦
【中野真矢】
世界選手権で2000年にGP250㏄クラス年間2位を獲得。2002~ 2008年にヤマハ、カワサキ、ホンダのマシンでMotoGPフル参戦

GPSデータロガーは、導入しただけで誰でもライディングが上手になるアイテムではなく、走行データのどこに注目するかを考え、数値やグラフ、走行軌跡が何を表わしているかの理解を深めることが大切です。例えば、近年のスポーツバイクは大排気量クラス中心なので、コンパクトに旋回して立ち上がり加速重視で走るのが主流。そのためにはコーナーのボトム速度を落とす必要がありますが、GPSデータロガーを使えばこれがすぐにわかります。 

最近のGPSデータロガーはかなり高精度のようなので、走行軌跡からもいろんなことが分析できると思いますが、まず注目したいのは速度。コーナーのボトム速度をしっかり落とせればマシンの旋回力を引き出せ、立ち上がりでは楽にスロットルを開けられるので、安全にストレートスピードも伸びるはずです。速度推移のグラフがそのような波形になっているかチェックしてみてください。 

とはいえ、自分のデータだけを眺めていても、なかなかピンとは来ないかも……。

コーナーのボトム速度ひとつにしても、遅ければ遅いほどいいというわけではないので、ある程度の目安も欲しいはずです。 

そこで、チャンスがあれば上手なライダーが同じ日に同じようなマシンで走ったときのデータと比較してみてください。すぐにマネできなくても、上手なライダーの走りをデータとして知ることで、ライディングに対する理解度は深まるはずです。 

サーキットビギナーでも、スキルアップできずに悩んでいるベテランにも、GPSデータロガーは間違いなく有効。ぜひ、楽しく使いこなしましょう! 

(中野真矢)

まずは速度のデータを重視すること

最初に重視したいのは速度のデータ。とくにビッグバイクの場合、素早く減速してタイトに旋回し、鋭く加速するのが基本。これができているほうが、速度グラフの山と谷のメリハリが強くなる。コーナーでボトム速度をしっかり落とせるとバイクの向きが変わりやすく、立ち上がりで早くスロットルを開けられ、その後のストレートで気持ちよく安全に加速していける。また、どの地点で減速し、どこから加速し始めているかが分かると、上手なライダーとラインが違う要因にも気づきやすい。

筑波サーキット・コース1000 最終コーナーの場合
筑波サーキット・コース1000 最終コーナーの場合

レースじゃないのでラップタイムは比較しない

サーキットの場合、速度データを比較するときは横軸をゴールライン通過からの「時間」ではなく「距離」にセット。自分とタイム差がある上手なライダーのデータと比較するときに、ラップタイムで比較すると、右図のように波形が崩れて何を表わしているのかわからなくなる。同じ地点での速度差に着目し、走行ラインと併せて考察することで、さまざまなことが見えてくるのだ。

ライター田宮が実践! GPSデータの活用術

【田宮 徹】
サーキットではエキスパートライダーと言える腕前のフリーライター。今回、中野さんとのデータ比較だけで約1.3秒も速くなった!

加減速のタイミングを中野さんのデータと比較

中野さんはコーナー奥で鋭く曲がって加速が早い

左ヘアピンカーブのインにつくのが中野さんより早過ぎる。これが影響して早めに減速せざるを得ず、タイト過ぎて曲がれないから立ち上がりの加速も遅れる悪循環。この日は路面温度が低めで、ほぼ唯一の左コーナーであるこのセクションをいつものように走れていないことは感じていたが、中野さんのデータと比較することでダメなポイントを瞬時に割り出すことができ、その後の修正につなげられた。調子が悪いときほどデータロガーは有益と確信!!

筑波サーキット・コース1000 四輪用インフィールドの場合

ボトムスピードをしっかり落とせているか?

最低速度が遅い中野さんはタイトに旋回している

ライン取りの差は、データロガーに反映されないギア選択の違いによるもの(田宮は左から右に切り返す間に2→1速、中野さんはバンク中に2→1速)。それよりも、自分ではかなり落としていると思っていたボトム速度が中野さんより高く、ボトム付近で走る距離が短いことからしっかり車体を旋回できていないことが分かった。これを修正して走ると、ホームストレートでの加速と最高速が大幅に改善。結果、まるで無理していないのにタイムアップした。

筑波サーキット・コース1000 最終コーナーの場合

サーキットビギナーもライン取り習得に活用

【藤田佳照】
永遠のサーキットビギナーを自称する本誌編集部員。とくにスーパースポーツ系は苦手で、なかなかスピードに慣れることができない

ここまでは速度の解析を中心にGPSデータロガーの有用性を挙げてきたが、ビギナーとエキスパートのデータを比較すると、あまりに速度差が大きすぎて図のように波形がまるで異なり、参考にしづらい。 

こんなときは、走行軌跡を中心に上手な人との違いを比べたい。とくに今回使用したQスターズLT-8000GTなら、0.04秒ごとのログと捕捉衛星数の多さから、かなり高精度で細かく軌跡を描いてくれるため、ライン取りの違いを認識しやすい。

立ち上がり加速重視のラインになっているか?

藤田はダラダラ曲がって立ち上がりでアウトに膨らむ

全地点で編集・藤田のほうが遅く、これだけを考えたらコーナーをよりコンパクトに曲がれるはずだが、フロントタイヤへの荷重やスロットルオンによるトラクションが不十分なこともあり、結果的には中野さんよりも大回りすることに……。中でも気になるのは、立ち上がりでアウトに膨らんでいるところ。コーナーの前半と中盤でインにつくポイントが悪いことが、苦しい立ち上がり繋がっていることまで走行軌跡で明らかに!

筑波サーキット・コース1000 最終コーナーの場合
【中野さんと藤田では1周の走行距離も変わる】QスターズのPCソフトを使うことで、1周で走った距離も解析できる。中野さんと編集・藤田の走行距離を比べてみたら、約1000mのコースで9mもの違いが……。プロは走る距離でもラップタイムを縮めていることがよく分かる
【鋭く曲がれないから最短ラインにならない】編集・藤田の走行距離が長いのは、コーナーで鋭く曲がることができず、進入でも立ち上がりでも、アウトに膨らむ距離が長いから。このように、GPSデータロガーがあれば改善点が即座にわかる
【鋭く曲がれないから最短ラインにならない】編集・藤田の走行距離が長いのは、コーナーで鋭く曲がることができず、進入でも立ち上がりでも、アウトに膨らむ距離が長いから。このように、GPSデータロガーがあれば改善点が即座にわかる

体調や気温までは記録されないデータを鵜呑みにし過ぎないこと

ロードレースにデータロガーが本格導入されるようになったのは、世界選手権の最高峰がMotoGPに変わる時期でしたが、あの頃は海外でも日本でも、データを意識しすぎて不調になった選手の話をけっこう聞きました。ロガーのデータはそれをどう使うのか、レースならエンジニアがライダーにどう伝えるのかが大切。導入初期段階では、単純にデータを比較して「前の周にはできたのに、なんでこの周はダメなんだ!」なんて言われることもありました。簡単に言ってしまえば、「データに“気合い”は反映されないから」なのですが……。 レースではなくファンライドのサーキット走行でもロガーのデータは有益ですが、「重視しすぎない」ことも大事だと思います。例えばその日の体調やタイヤの状態、路面の温度やコンディションなどは、データに反映されていません。以前のデータと比べて走りが悪くなっていたとしても、自分が下手になったわけではなく、他の原因があるのかも。過度に一喜一憂するのではなく、上手にデータを活用しながら、サーキットライディングを楽しみましょう。 (中野真矢)

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