これから試したい! 読者に刺さったGPライダーの極意 ベスト10:4~6
本誌で掲載された数々のライテク記事の中から、特に「分かりやすかった」「すぐに効果が実感できた」というテクニックを、RIDERS CLUB読者に選んでいただき、オンラインで投票を実施した。各記事で講師を務めてくれたのは、言わずと知れた元世界GPライダーの3名。彼らの教えは共通する部分が多いが、表現が微妙に異なる場合もあり、どのライダーの言葉が“刺さる”かは、人それぞれだ。今回の特集では、そのテクニックが掲載されたバックナンバーも案内している。ぜひ、過去のRIDERS CLUBを読み返し、ライダーによる表現の違いなども楽しんでもらいたい。
PHOTO/H.ORIHARA, S.MAYUMI
TEXT/T.TAMIYA, G.TAKAHASHI
technique_6/クリッピングポイントまでハンドルをセルフステアにはしない
→曲がれる姿勢を保ち続ける
- 読者のココに刺さった!
- 理論は理解していたものの、体感できるシーンが少なかったが、改めて確認できた( ms024rrさん)
- いままでハンドルに力を入れないのが正解だと思っていましたが、これを実践するともっと鋭く曲がれるようになった(セヌーさん)
かつては「コーナーでは上半身の力を抜く」と言われることも多かったが、そもそもプロは無意識でも適切に入力しており、本当の脱力とは違う。
また、バイクは車体を傾けながら前進させると自然に前輪がイン側へ切れるセルフステアが生まれ、この作用を腕が邪魔すると鋭く曲がらなくなるのだが、前輪がイン側に切れると逆に車体が起き上がろうとする特性もある。
そこで、ブレーキをリリースしてセルフステアで一気に向きを変える直前までは、ハンドルが切れない程度に入力してバンク角と曲がれる姿勢を維持する必要がある。表現や方法は微妙に異なるが、プロは皆同じような操縦をしている。
- このライテクの掲載号
- ’22年12月号 No.584 “逆算”のライテク
- ’23年8月号 No.592 コア・ライテク
- ’23年12月号 No.596 青木宣篤のコア・ライテク
technique_5/ブレーキはバンクしながら徐々に弱めて曲がれる姿勢を維持
→レバーを放すと同時に鋭く曲がる
- 読者のココに刺さった!
- フロントブレーキを残すとフォークが沈んでくれているので、フロントの接地感があり コーナリング中のハンドルへの入力具合も分かりやすいと思います(金江善博さん)
- 以前より軽くバンクしただけのつもりでも膝を擦れた。路面が近くなった気がする(オノマサヒロさん)
ストレートエンドにある単独のタイトコーナーを上手に走るためには、進入で一気にフロントブレーキレバーを離してしまわない。車体を傾けはじめてイン側に寄せていく段階でも弱い入力を続けることで、フロントフォークが縮んだ状態をキープ。これによりキャスターが立ち、より高い旋回力が発揮される車体姿勢がつくれる。
- このライテクの掲載号
- ’22年12月号 No.584 “逆算”のライテク
- ’23年1月号 No.585 リアブレーキで上手くなる
- ’23年4月号 No.588 初サーキット攻略講座
- ’23年6月号 No.590 ネイキッドでスポーツする
technique_4/シートにはタンク後端からこぶし一つ分後ろに座る
→シート上で動きやすく、後輪荷重しやすくなる
- 読者のココに刺さった!
- こぶしひとつ分下がるだけで後輪荷重を意識しやすい(タニマンさん)
- いつも、いつの間にかシートの前の方に座ってしまっていたので、定期的に意識して下がるようにしています(H・Nさん)
ライディングフォームのアドバイスで、一般ライダーの悪例としてプロがまず指摘することが多いのが着座位置。本当に多くのライダーが、正しい位置に座れていないということなのだろう。「スポーツ走行では、ただ座っているのではなく、全身を使って積極的に車体を操ります。
だから、自由に動けるフォームは必須。シート前側に座ってタンクにお腹が付くような状態だと、下半身を動かせるスペースが少なく、自在性が損なわれます」と、原田さんはこのように指摘する。そしてライパでも自身のスクールでも「前乗りになっちゃっている参加者は本当に多い」と言う。
「前側に座ると、ハンドルが近いため必要以上に腕が使えるので、つい力が入りがち。シートのやや後ろに座ることで、これも抑制されます」
- このライテクの掲載号
- ’22年12月号 No.584 “逆算”のライテク
- ’23年2月号 No.586 スーパースポーツ克服術
- ’23年4月号 No.588 初サーキット攻略講座
- ’24年2月号 No.598 スポーツライテクの趨勢
できることだけを続ければ自然にステップアップする
スポーツライディングは、ブレーキングに始まる。そして、ブレーキングの追求には終わりがない。ビギナーの方は、まずしっかりとブレーキをかけられるようになることが大事だし、超エキスパートのMotoGPライダーにしても、結局はブレーキングテクニックを磨き続け、そこで競い合っている。「ブレーキングに始まり、ブレーキングは終わらない」というのが、ライディングに関する僕の考えだ。
ライディングパーティなどのサーキット走行会でビギナーの方の走りを見ていると、しっかりとブレーキをかけられていない人がとても多い。
ブレーキングにはいくつもの意味があるが、最初にもっとも重視するべきなのは「コーナーを曲がれるスピードまで、きちんと減速できているかどうか」だ。オーバースピードでコーナーに進入すれば、コースアウトしてしまうか、無理に寝かせて転倒するか、いずれにしても痛い目に遭いかねない。
では、「コーナーを曲がれる適切なスピードは何km/hか」と問われれば、これはもうケースバイケースである。コーナーの曲率によっても違うし、乗っているバイクの性能やタイヤグリップ、路面状況、さらにはライダーのスキルによっても異なる。
僕が強く意識しているのは、「スピードを落とす」というより、「バイクが曲がれる体勢にする」ことだ。
まっすぐ進んでいる物体は、慣性の法則によりそのまままっすぐ進み続けようとする。進行方向を変えるためには、慣性を減らしたい。だから十分な減速が必要だ。
もうひとつ重要なのは、姿勢だ。バイクは加減速などによってフロントが上がったり下がったり、逆にリアが上がったり下がったりする。この上下動を「ピッチング」と言うのだが、ライディング中、僕は常にバイクの姿勢を意識している。
簡単に説明すると、コーナーへの進入でブレーキングするとフロントが下がり、旋回力が高まる。逆にブレーキングが不足しているとフロントが下がらず、旋回力が高まらない。
ブレーキング不足の要因はいろいろあるが、よく見られるのは加速不足だ。ストレートでしっかりと加速していないから、スロットルを戻すかエンジンブレーキだけでスピードが落ちたような感覚になり、そのままコーナーへと進入してしまう。
それが曲がり切れるスピードだとしても、ブレーキングをしていないからフロント下がりの適切な姿勢になっていない。だから十分な旋回力が得られず、曲がり切れない。しっかり加速し、しっかり減速するというメリハリにより、必要なだけピッチングを起こす。そしてフロント下がりの姿勢を維持するために、すぐにブレーキをリリースするのではなく、引きずるようにして残す。
同じようなスピードでコーナーに進入しているのに、余裕を持って曲がれる人と、曲がり切れない人がいるのは、バイクの姿勢が整っているかどうかの差が大きい。
かと言って、フロントブレーキをとにかく強くかければいいわけでもないのがまた難しい(笑)。あまりに強いブレーキングだと今度はフロントに荷重がかかりすぎて、旋回力は下がってしまうのだ。「適切にブレーキングする」としか言いようがないのだが、「適切」を身に付けるために、残念ながら飛び道具はない。反復練習あるのみだ。
僕自身は、サスペンションが柔らかくて加減速によりピョコピョコとすぐに動くオフロード車、セローで街乗りしながら姿勢作りの練習をしている。低速でいろいろな挙動を体験でき、いいトレーニングになる。
最後に言いたいのは、「できることをする。できないことはしない」ということ。できることだけを続けていれば、それが確実に自分のものになり、自然と次のステップに進めるはずだ。
無理をすると、たいてい怖い思い、痛い思いに遭い、逆戻りしてしまう。それなら、できることだけを淡々と続けていた方がずっと近道だ。
皆さんがまだ若くて「MotoGPライダーを目指します」ということなら、「失敗してもいいからチャレンジしなさい」とアドバイスするところだが、大人の趣味に失敗は禁物だ。