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これから試したい! 読者に刺さったGPライダーの極意 ベスト10:3

本誌で掲載された数々のライテク記事の中から、特に「分かりやすかった」「すぐに効果が実感できた」というテクニックを、RIDERS CLUB読者に選んでいただき、オンラインで投票を実施した。各記事で講師を務めてくれたのは、言わずと知れた元世界GPライダーの3名。彼らの教えは共通する部分が多いが、表現が微妙に異なる場合もあり、どのライダーの言葉が“刺さる”かは、人それぞれだ。今回の特集では、そのテクニックが掲載されたバックナンバーも案内している。ぜひ、過去のRIDERS CLUBを読み返し、ライダーによる表現の違いなども楽しんでもらいたい。

PHOTO/H.ORIHARA, S.MAYUMI 
TEXT/T.TAMIYA, G.TAKAHASHI

ブレーキングでは腕に力を入れて突っ張る

→減速Gに耐え、前輪グリップも引き出す

  • 読者のココに刺さった!
    • 実践しやすくて、大きな効果があると、実感することができました(稲見規夫さん)
    • ブレーキングの不安が和らいだような気がします(2番ヒラキ)

公道向けの一般的なライテクででは、「腕の力を抜いて」とか「路面からの衝撃を肘で吸収して」と言われることも多いが、速度域が高く減速Gが大きなサーキットでのブレーキング時に、上半身をフリーで維持するのは不可能だ。 

【ロックした肘で前輪へ荷重しハンドルを押す力に変換する】ブレーキングで生じた減速Gを、肘ロックによりフロントフォークを縮ませて前輪を潰す力や、コーナーの進入でイン側のハンドルを押す力に効率よく変換。ブレーキの完全リリースまで肘ロックを維持することで、旋回力を維持する
【ロックした肘で前輪へ荷重しハンドルを押す力に変換する】ブレーキングで生じた減速Gを、肘ロックによりフロントフォークを縮ませて前輪を潰す力や、コーナーの進入でイン側のハンドルを押す力に効率よく変換。ブレーキの完全リリースまで肘ロックを維持することで、旋回力を維持する

そこでどの元GPライダーも、ブレーキング時は「腕をピンと伸ばすのではなく、軽く曲げた状態で固定して上半身を支える」と話す。 

中でも青木宣篤さんは、「肘ロックブレーキング」としてこれを提唱。「サーキット走行におけるブレーキングは、コーナーのボトムスピードまで減速することだけでなく、旋回力を高めることも目的としているのですが、減速Gを余すことなくハンドルの操作やフロントへの荷重に変換するために必須なのが、肘ロックなのです」と解説する。

【腕を曲げたままロックするのは結構キツい】
腕立て伏せが一番分かりやすいが、腕を伸ばし切った状態で静止するのと少し曲げた状態を維持するのでは、後者のほうが圧倒的にキツい。しかし、だからこそ大きな効果が期待できる
【肘にキュッと力を入れてロックをかけるイメージ】肘ロックが正しくできているかは、スタンドを掛けたバイクに跨がり、他人に背中を押してもらって確認。このときに上半身が潰れてしまうようならロック不足だ
【肘にキュッと力を入れてロックをかけるイメージ】肘ロックが正しくできているかは、スタンドを掛けたバイクに跨がり、他人に背中を押してもらって確認。このときに上半身が潰れてしまうようならロック不足だ
  • このライテクの掲載号
    • ’23年2月号 No.587 スーパースポーツ克服術
    • ’23年7月号 No.591 青木宣篤のコア・ライテク
    • ’23年9月号 No.593 正解のライン取り
    • ’23年12月号 No.596 スポーツライテクFAQ
    • ’24年2月号 No.598 スポーツライテクの趨勢

ライディングはスポーツ基礎なくして応用なし

サーキットで育った私は、できるだけ多くの方にサーキットでのスポーツライディングを楽しんでいただきたいと願っている。

では、どうすればスポーツライディングは楽しいものになるか。もっとも大切なのは、「安心して走ること」だと、私は考えている。

怖々と走っていると思うようにバイクを操ることができないし、そもそも楽しくない。楽しくなければ、続けることもできないだろう。

プロのレーシングライダーならともかく、趣味としてスポーツライディングを嗜む一般ライダーの皆さんには、とにかく安心して走ってほしい。そして、スポーツライディングはとても楽しい趣味なのだ、ということをご理解いただきたいと思う。

「安心して走る」と言っても、これはマインドの問題ではない。いくら「安心しろ、安心しろ……」と唱えたところで、本当の意味で安心できなければ意味がないのだ。

安心感を得るためにもっとも重要なのは、ブレーキングだ。逆に言えば、多くの方たちが誤解によってわざわざ「怖いブレーキング」をしてしまっている。

それは、「短く、強いブレーキング」だ。いわゆる「ハードブレーキング」とか「ブレーキングで突っ込む」と言われるような走りである。

確かにレースではプロのレーシングライダーたちがブレーキングでの突っ込み合戦を繰り広げている。しかしあれはかなりの高等テクニックで、簡単にマネできるものではない。

どんなスポーツにも当てはまる話だが、プロがやっていることと、アマチュアがやるべきことの間には、大きな隔たりがある。ランニングビギナーが「マラソンをやりたい」と、いきなり42.195㎞を走るなんてことは、現実的に不可能だし、無理をすれば体を壊すだけだ。

スポーツライディングも同じだ。バイクという道具を使うこともあり、「プロの技をすぐにアマチュアがマネできる」と思われがちだ。だが、残念ながらそんなことはない。

フルマラソンを走り切るためにさまざまな準備や多くの時間が必要なように、スポーツライディングにおいても確実なステップを踏まなければならないのだ。

そのことを端的に示しているのが、ブレーキングである。「強く、短い」ハードブレーキングは、あくまでもプロの技。マラソンで例えるなら、42.195㎞のタイムを縮めるようなものだ。

一般ライダーの皆さんに私が強くお勧めしたいのは、「弱く、長いブレーキング」から始めること。言わばジョギングである。

ライパの初心者向け講習でも、ブレーキングの解説には時間を割いている。それほど重要であるということだ
ライパの初心者向け講習でも、ブレーキングの解説には時間を割いている。それほど重要であるということだ

「弱く、長いブレーキング」には、多くの効能がある。最大の効能は、安心できること。弱いブレーキングが前提なら、そもそもスピードを出せない。だから怖くない。

そして怖くないから、ブレーキングがバイクにどう作用するかをしっかり理解しやすい。車体姿勢はどう変化するか、荷重がどのようにタイヤや路面に伝わるか、ブレーキを引きずりながらコーナーに進入すると旋回力はどう高まるか──。多くのことを、安心感の中で覚えられる。

MotoGPライダーのハードブレーキングをマネをするのは無謀と言うもの。まずは弱く、長くを身に付けよう
MotoGPライダーのハードブレーキングをマネをするのは無謀と言うもの。まずは弱く、長くを身に付けよう

もちろん、タイムは出ない。しかしそれと引き換えに多くのものが得られ、ステップアップのための下地ができるのだから、悪くないだろう。

ひとつ言っておきたいのは、遅く走ることに怯えないでほしい、ということだ。遅くても、恥ずかしがる必要はまったくない。皆さんはプロのレーシングライダーではないのだ。

趣味としてスポーツライディングを楽しむのだから、安心して、しっかりとした筋道で習熟することを第一に考えてほしい。そのために、まずは「弱く、長いブレーキング」を身に付けてもらいたいと思う。

マラソンは基礎練習をしっかりと積み重ねることで、10km、20km、そして42.195kmを走り切れるようになる。同じようにブレーキングも、「弱く、長く」を経て、「強く、長く」、そして「強く、短く」、さらには「超強く、短く」へと進化していくことができる。

とにかくあわてることなく、安心感とともに、1歩ずつ着実に前進していただきたいものだ。

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