【バイクを縦方向に操るライテク④】フォークが沈まないとどうなってしまう?
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バンク角の深さなどで“ロール” は意識されやすいが、見逃しがちなのが“ピッチング”。走行するバイクが前後方向に回転する動きのことで、サスペンションの伸縮でも表現される。プロライダーは、車体の姿勢を“縦方向” にも積極的にコントロールし続け、マシンのコーナリングパフォーマンスを引き上げているのだ。
フロントが突っ張り止められず、曲げられない
1390スーパーデュークR EVOにオプション設定されているのが、ブレーキング中に減衰力を自動調整してフォークの沈み込みを抑制するアンチダイブ機能。

これをオンにしてサーキットを走ると、コーナー進入のブレーキングでは、オフのときと比べてコントロールしたいところで突っ張る感じがあり、ノーズダイブしないことでブレーキが効かない印象も受けました。
慣れてくると直立状態ではハードブレーキングができるようになったものの、ブレーキを緩めて車体を倒し込もうとしたときにはやはりフロントが突っ張り、いいフィーリングを得られる車体姿勢になりません。

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公道走行では、車体姿勢変化が減ることで快適性向上につながると思いますが、サーキットではピッチングのわずかな減少が、走りに負の影響を与えることが再確認できました。
ちなみにアンチダイブ機能はトラックモードだとオンにできません。このことからメーカー側もサーキット走行におけるピッチングの重要性を十分に理解していることがわかります。
(中野真矢)


バイクを自分の意思で積極的に動かそう!
これはいつも話題にしていることですが、他のスポーツと同じようにバイクのスポーツライディングでも、基本のライディングフォームがある程度は会得できていることが、マシンを自在に操ることにつながります。
ではプロライダーと呼ばれるような人たちは、ライディングフォームをどのようなマシンの操縦につなげているのでしょうか? 大きなカギとなるのは、前後の荷重バランス。多くのシーンにおいて、いかに前後サスペンションを動かして、あるいは動きを止め、車体姿勢をコントロールするかに集中しています。
「車体姿勢で走っている」と表現してもいいほどです! しかしプロライダーでも、初めて乗るマシンやサーキットでいきなり完璧な姿勢づくりができるわけではありません。減速時に手前でブレーキングしてしまい、倒し込みでフロントが沈んでおらず、曲がるきっかけを得られないことさえあります。
ここから、少しずつ理想の走りに近づけるのが基本的な作業。ブレーキングポイントを少しずつ奥にして、行き過ぎたと感じたら戻して……と、なるべくリスクを避けながら〝間〞をなくす操縦を追求していきます。
コーナーの進入に話を絞るなら、ブレーキングでフロントに荷重し、フロントが沈んだ状態をキープしたまま旋回地点に寄せて、ブレーキをリリースしても遠心力によりサスペンションが少し縮んだ低い車体姿勢を保ちながら、狙ったラインをトレースしていくのが理想です。
ところが、進入でブレーキリリースが早いと、フロントが高くなってしまい、途端に曲がらない感触に。このときライダーが感じ取っているのはサスペンションのストロークですが、車体姿勢としては理想的な状態よりもキャスターが寝てしまっているので、旋回力も弱まります。
本誌が主催するライディングパーティでは、これに近い感じで悪循環に陥っているライダーを多数見かけます。恐らく怖さから、かなり手前でブレーキングを開始。極端に速度を落としすぎ、早い段階でブレーキをリリースするからコーナーにアプローチする前にフロントフォークが伸び、曲がる姿勢がつくれていないので旋回の速度も遅く、だからタイヤに荷重がかからずグリップを引き出せない……という感じです。
たしかに、前後タイヤにしっかり荷重をかける走りを身に付けるには多少の勇気が必要かも。上手なライダーでも、走りはじめてタイヤを温めたら、最後は感覚頼りです。でも、荷重がかからず勝手にサスペンションが動く不安定な状態と比べたら、自分で車体姿勢をコントロールできているほうが本当は怖くないんです。ぜひこの感覚を掴んでください!
ちなみに、あまり経験がないライダーがスーパースポーツに乗ると、ハードでストロークしないサスペンションに驚くことも多いようですが、これも慣れの問題。上達してきたら、例えば足がよく動くネイキッドよりも、走りやすいと感じるようになるはずです。
動きがわからず走りづらいと感じたら、サスペンションセッティングをソフトな方向に調整してもいいので、あまりビックリしすぎず、少しずつ理解度を深めていってください。
(中野真矢)