【おいしい回転数で走る、駆動力コントロール②】おいしい回転数を考察する
エンジニアリングの視点から“おいしい回転数”を考察する
バイク工学的なおいしい回転数とは?
ライテクとは別の視点として、エンジン工学的な観点から「おいしい回転数」を考察してみると、私の個人的な見解になりますが、「燃費が良い」「扱いやすい」「加速に有利」といった指標が考えられます。
これらに加えて「エンジン音が心地良い」といった感性に訴える部分も重要になります。これらの指標のすべてが一致する回転数が、おいしい回転数と言えるのではないでしょうか。
排気量が同じであれば、4気筒は2気筒に比べてショートストロークでよく回るので、このおいしい領域が高い回転域にまで広がっていく傾向があります。
エンジンが扱いやすくなる回転数は気筒数によって違う
3~4気筒はアイドリンから高回転まで、幅広い回転域が使いやすい傾向です。単気筒や2気筒はアイドリングの2~3倍からレッドゾーンの半分くらいの回転数が使いやすい領域です。これにはフライホイールの重さが関係しています。
4気筒エンジンは滑らかな回転と慣性モーメントのバランスが良く、アイドリング付近でも使い易い。しかし、特に2000~2010年頃のドゥカティの2気筒は、発進に気をつかうほどフライホイールが軽いです。
MotoGPでも現在はフライホイールを重くし、おいしい回転数の領域を広げるのがトレンドのようです。
ライダーは「加速感」でパワーを感じ取っている
「トルク感があって気持ちいいエンジン」という表現が使われることは多いのですが、実際にはライダーはトルク自体をほとんど感じ取っていません。
事実、プロレーサーから「もっとパワーが欲しい」と言われることはあっても、「トルクが欲しい」とは聞いたことがありません。では何を持って「トルクフル」と感じるかというと「加速感」です。そして加速感の正体は「パワー」なのです。
1000rpmで発進するときも、回転が上昇して速度が上がるときも、必要なのはパワー。ライダーはパワーを感じ取って「扱いやすい回転数」を評価しているのです。
パワーグラフのデータとライダーの実感が異なる場合がある
みなさんがよく見ているパワーとトルクの性能曲線は、スロットル全開でエンジンを回しているときのデータです。
もちろん、そのエンジンの特性を知る上で重要なのですが、「スロットル開度が1/2だからパワーもその半分」となるわけではありません。
またサーキット走行でもスロットルを全開にしている時間はほんのわずかで、MotoGPでも全開時間は30%程度。コーナリング中はほぼ全閉の時間で、いかに全閉で速度を落とすかが、ライテク的には重要と言えます。
そしてスロットル開け始めの領域の方が「扱いやすさ」に直結しています。
パワーバンドとトルクバンドとは?
一般的にパワーバンドは最大トルクから最高出力までの間の回転数、トルクバンドは最大トルクが発生する回転数の前後と表現されることが多いですが(下の性能曲線を参照)、実は結構曖昧です。
「おいしい回転数」ということで私なりトルクバンドを再定義すると、効率よくトルクを引き出せる回転域、ということにないます。下のカラフルな図はトルクと回転数ごとの燃費の分布図になります。
濃い青ほど少ない燃料で効率よくトルクが発生しています。このグラフから、最大トルク付近で全開より少し閉じた領域がトルクバンドと言えるでしょう。
4ストロークは高回転まで扱いやすくなっている
2ストロークは低回転での加速が鈍く、高回転では急にパワーが立ち上がって扱いにくいですよね。この原因は吸排気のメカニズムにあります。
2ストロークエンジンは低回転域で混合器の充填率にバラつきが発生しやすいのです。これを解消したのが’80年代にヤマハが開発したYPVSで、低速でも安定してトルクとパワーが発生しました。
一方4ストロークはほぼ全域においてトルク変動がほとんどありません。さらに近年のエンジンは可変バルブタイミング機構や、各種電子制御によって扱いやすい領域が格段に広がっているのです。
急激にトルクが変動しない回転域はマシンの操縦性が高まる
上記の項目でも解説しましたが、トルク変動や急激な変化が少ないエンジンほど扱いやすいと感じます。
近年のリッタークラス、特に4気筒エンジンはアイドリングからピークトルクまで、ほぼフラットと言えるほど急激に変動せず、特定の回転数での「トルクの谷」もほとんどありません。
また、前述したフライホイールを重くするというトレンドも、操縦性に寄与しています。かつてはトルクの変動や谷によって扱いにくい領域もありましたが、現代のバイクは中野さんが言う
「おいしい回転数」を誰でも使えて、操れるようになってきているのです。