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【バランスを崩してリーンする。きっかけはプッシングステア】元MotoGPライダー目線でプッシングステアを考察する

【中野真矢】
世界選手権では1999~ 2000 年にGP250、2001 ~ 2008 年はGP500やMotoGPに参戦した。2009年にSBK に参戦した後に引退。二輪ライフスタイルブランドの56デザインを主宰する

ライダーの感覚的にも〝押す〞の表現は的確

ここからはライダーの操縦感覚に基づいて、サーキットのスポーツライディングにおけるプッシングステア、さらに発展してコーナリングでの操作について解説します。が、その前に前提として頭に入れておいてほしいことは、ステアリングへの入力による舵角の調整はごく微妙なものだということ。

モトクロスやスーパーモタードのカウンター走行みたいに、肉眼で舵角の変化が分かるようなレベルではないし、不必要に強い力でステアリングを操作すると、ファンライドの速度域では逆に転倒につながるかもしれません。 

コーナーの進入で倒し込んでいく段階では、ステアリング入力に対するイメージは〝切る〞ではなくイン側のグリップを〝押す〞。まさに「プッシングステア」しているわけですが、実際にはイン側に切れようとするステアリングを〝止めている〞という感覚かもしれません。

無意識でやっていることがかなり多いため「旋回中はずっとセルフステア」という表現をする人がいるのかも。バンク角が深くなると、イン側のグリップを押していた手の力を緩めて調整しますが、ステアリングをフリーにする瞬間はほぼなく、〝添えている〞に近い状態であっても、絶えず細かい操作をしています。

(中野真矢)

ブレーキングでは両腕をつっかえ棒にして減速Gに耐える

プッシングステアよりも前段階の話ですが、例えばストレートエンドでハードブレーキングするようなシーンでも、ライダーはステアリングを“押して”います。これは、強い減速Gで前のめりになりそうな上半身を支え、その力をフロントフォークに伝えて縮めることで、曲がりやすい車体姿勢を作るため。

“押す”といっても腕を伸び縮みさせるわけではなく、肘を軽く曲げて絞り関節をロックし、上半身を“支える”イメージ。この段階で脱力というのは絶対にあり得ません

身体が前方にズレないように外足の内股をタンクに押しつける

コーナー進入で最適なフォームへとスムーズに移行するための予備動作として、直立状態のブレーキング段階で腰をイン側にズラしておくのが一般的。

これにより両足でのニーグリップは難しくなりますが、外足の内股から内膝のあたりで燃料タンク後端付近をホールドすることで、下半身が前にズレるのを抑えます。

グリップを握るのではなく手のひらで受けとめる

「ステアリング入力は必須」ですが、だからといってグリップをベタッと握りクルマみたいにステアリングを切れば、バイクという繊細な乗り物はすぐ転びます。

そこで基本となるのが、手のひらの外側、写真に〇をしたあたりでグリップエンド付近を押す操縦方法。

まさに“プッシング”ステアです。入力の強さは速度域によっても変わります。

視線が下がらないように上半身を起こす

減速時に上半身を起こすのは、コーナー進入に向けて広い視野を確保するとか、実際には上方向だけでなく後ろに重心を移動して減速による力とのバランスを取るなどの目的があります。

減速の段階で肘を上げて外側に突き出すと、関節の動きをロックさせるのが難しく、減速Gに耐えづらくなります。

しっかり上半身を起こすことで、肘の位置を下げやすくなり、正しく入力できるはず。

「無駄な力を抜く」はもちろん正しい

「プッシングステアで入力する」のと「腕や肩の無駄な力を抜く」というのは、まるで異なる話。これを混同すると、「ステアリングには絶対に力を入れてはいけない」という誤った認識につながってしまいます。

他の運動と同じで、身体がガチガチとか突っ張った状態では正しい操作はできませんが、完全な脱力もダメ。しなやかでメリハリある動きを!

バンク角を深くしながらもイン側のステアリングに微入力

ブレーキングからのリーン開始では、イン側のハンドルを押しています。

市販車でのファンライドだと、私の場合はかなり無意識にやっていますが、自分の動作を細かく検証してみると、そのコーナーの最大バンク角付近でブレーキをリリースするあたりまで、力を弱めながらもイン側のグリップを押しています。

自分がステアリングダンパーになって、イン側に切れようとするハンドルの動きを抑えている感じです

「強く握る」のではなく、イン側を「押したり、緩めたり」

ステアリング入力は、やっていることに気づかない人が多いくらい、微妙で繊細なもの。グリップをギュッと握り意識的にステアリングを切れば、たぶんすぐ転びます。

手のひらでイン側のグリップを押し、あるいはその力を緩めるのが基本。

速度が最も落ちた地点で入力を止めて最後のひと曲げ

ボトム速度になる地点は遠心力も弱く、タイヤのエッジを使う際のリスクが少ないので、ここでさらに身体を落とし、短時間でクルッと曲がるのが理想。

この段階ではイン側グリップを押していた手の力を緩めるのが基本ですが、意外と微調整を続けています

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