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【元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座】ネンオシャに加えてツーリング先ではブタトネンリョウ

元HRCのエンジニアで、鈴鹿8耐に出場したライダーでもあるANDYが、これまでの整備やレースの経験で得てきた「本当に役立つ」メンテナンスに関わるアレコレをご紹介していきます!

PHOTO/K.MASUDA TEXT/ANDY

点検と言われても「どこをどう確認したらいいのか分からない」という方は多いと思います。

今回はツーリング前に自分でできる点検箇所と、その方法をお伝えします。 

その前にまず、バイクの使用者には点検の義務があることを知っておきましょう。

「道路運送車両法第47条の2(日常点検整備)/自動車の使用者は、自動車の走行距離、運行時の状態等から判断した適切な時期に、(中略)灯火装置の点灯、制動装置の作動その他の日常的に点検すべき事項について、目視等により自動車を点検しなければならない」となっています。つまり、いつ、どんな点検をするかはライダーの判断となります。 

バイクの場合、出先でトラブルに気づくとリスクが高いです。なので点検は出発日の2日前に実施。

バッテリーの弱りなどトラブルを発見したら翌日に対処して、当日は安心してツーリングへ! という手順がおすすめです。出発当日に点検するのは、要整備箇所を発見しても対処する時間的余裕が無く、焦りの原因にもなります。 

点検箇所については、昭和から伝わる2つの有名な語呂合わせを覚えて下さい。

1つ目は「ネンオシャチエブクトウバシメ」です。

•ネン=燃料。燃料コック位置と残量。航続可能距離や給油タイミングの計算も忘れずに。
•オ=オイルの量と汚れ、漏れの確認。量の確認はサイドスタンドで止めた状態ではなく、車体を垂直にして行うのが基本。

また、オイルレベルゲージが差し込みタイプの場合、ゲージを挿してねじ込まないのが一般的です(愛車のマニュアルを確認)。

•シャ=車輪(タイヤ)の空気圧、異物の刺さり、スポークの張り具合、タイヤの溝の深さを確認。
•チ=チェーンの張り、汚れ、スプロケットの摩耗と汚れ具合。
•エ=エンジンからの液体(オイル、ガソリン、冷却水)漏れの有無、エンジン冷却水の量(リザーブタンク)。暖気時のエンジンチェックランプ点灯の有無、異音の有無。
•ブ=ブレーキレバーの遊び、効き、タッチ、パッド(またはシュー)、フルード残量、漏れの確認。
•ク=クラッチレバーの遊び、動き、ケーブルのほつれや折れの有無。•トウ=灯火器の作動確認、エンジン警告灯点灯の有無。
•バ=バッテリーの状態はセルモーターの回転具合で確認。できれば電圧テスターで判断するのが望ましい。
•シメ=ブレーキ関係のボルトの締め付け具合や増し締め、最近整備した部品の取り付け状態のチェック。 

これらを行うことで、基本的な日常点検はOKです。(12カ月ごとの法定点検は別途必要)。 

2つ目は、ツーリング先での簡易点検に有効な語呂合わせ「ブタトネンリョウ」です。
•ブ=ブレーキの遊び、タッチ、効き、引きずりの確認。
•タ=タイヤ空気圧が大幅に抜けていないか。異物の刺さりはないか。
•ト=灯火器の動作確認。
•ネンリョウ=燃料コックの位置、残量の確認。 

これらを休憩後などで走り出す前に行なうとより安心です。タイヤに関して、夏以外の季節は素手で触って表面温度を確認するとさらにいいでしょう。自分の体温より低ければタイヤのウォームアップが必須です。特に標高の高い山は冷える時間が早いので「冷えゴケ」に注意です。 

タイヤの空気圧点検は、空気を入れる設備の無い場所では行わないのが原則です。ムシやバルブを傷つけて空気が抜け、圧力が下がってしまったら、空気を再注入する術がないとお手上げ。

ビード落ちやタイヤの異常発熱、ギャップによるホイールの変形など、重大なトラブルに発展するため走行できません。 

近年、OBDⅡ(車載診断装置)を搭載しているモデルでは自己診断機能が発達してきました。コンピュータが自動点検&診断を行い、NGの場合はモニターに表示してくれます。

これらの多くは電気的な診断を行っているため、異常の有無、断線や短絡の判断が得意で正確です。 

一方、パッド残量、オイルの汚れ具合、チェーンの張りなど、センシング不能な部品も存在します。

これらの部品は目視で点検する他ありません。また冷却水に使われているLLCはエチレングリコールが主成分で、燃焼室に入ったり、高温のエキパイに付着すると甘い匂いがするので、異常に気づく事ができます。

昭和から受け継がれるネンオシャチエブクトウバシメ

ガス欠しただけでも、高速道路なら追突されるリスクが高まるのがバイクの宿命。昭和から続く伝統のゴロ合わせは、今も必要な点検箇所を網羅するスグレモノです。

ツーリング前や月ごとなど、定期的に点検を行うことで愛車の変化や不具合に気づくことができます。

語呂合わせをしっかり暗記して毎回同じ箇所を確実に観察&点検する事でコンディションの変化に気づけるようになります。

ネン=燃料

燃料の残量、燃料コック位置、燃料漏れの有無を確認。燃料計のない車種は必ず目視で残量をチェックすること
燃料の残量、燃料コック位置、燃料漏れの有無を確認。燃料計のない車種は必ず目視で残量をチェックすること

オ=オイル

オイル量と汚れ具合(色)、漏れの有無を見る。量の確認はサイドスタンドではなく、車体を垂直にして行うのが基本
オイル量と汚れ具合(色)、漏れの有無を見る。量の確認はサイドスタンドではなく、車体を垂直にして行うのが基本

シャ=車輪

空気圧、スポークの張り、異物の刺さり、摩耗や回転の状態を確認。空気圧はタイヤが冷えている時に調整する
空気圧、スポークの張り、異物の刺さり、摩耗や回転の状態を確認。空気圧はタイヤが冷えている時に調整する

チ=チェーン

チェーンの張り具合、サビ、固着、スプロケットの摩耗を確認。弛みが大きい場合は消耗品が摩耗している可能性も
チェーンの張り具合、サビ、固着、スプロケットの摩耗を確認。弛みが大きい場合は消耗品が摩耗している可能性も

エ=エンジン

目視や指で触って液体(オイルや冷却水など)の漏れを確認。掛かり具合と、始動後は異音がないかもチェック
目視や指で触って液体(オイルや冷却水など)の漏れを確認。掛かり具合と、始動後は異音がないかもチェック

ブ=ブレーキ

パッド残量は、ディスクとパッドのバックプレートの間に1.5mmの六角棒レンチが入らないなら交換時期が近い
パッド残量は、ディスクとパッドのバックプレートの間に1.5mmの六角棒レンチが入らないなら交換時期が近い

ク=クラッチ

レバーの遊びやワイヤーの状態、切れ具合を点検。油圧式はフルード量も見て、もし茶色く変色していたら交換
レバーの遊びやワイヤーの状態、切れ具合を点検。油圧式はフルード量も見て、もし茶色く変色していたら交換

トウ=灯火類

ウィンカー、テール、ストップ、ハイ&ロービームの動作を確認。特にテールランプは気づきにくいので注意です
ウィンカー、テール、ストップ、ハイ&ロービームの動作を確認。特にテールランプは気づきにくいので注意です

バ=バッテリー

端子の緩みや汚れ、サビの他、適正電圧かどうかセルの回り具合で判断。電解液補充タイプは残量の確認も忘れずに
端子の緩みや汚れ、サビの他、適正電圧かどうかセルの回り具合で判断。電解液補充タイプは残量の確認も忘れずに

シメ=増し締め

ブレーキなどの重要部品の他、レバー、ハンドル、エンジンのドレンやフィラーキャップも。最近触ったパーツも確認
ブレーキなどの重要部品の他、レバー、ハンドル、エンジンのドレンやフィラーキャップも。最近触ったパーツも確認

ツーリング先での走行前にはブタトネンリョウを推奨

簡略化した語呂合わせが大活躍。タイヤ表面に何か刺さってもすぐには空気が抜けないため、パンクに気づかず走り続けてしまうケースは多いです。

灯火器も同様に走行中は気づきにくいです。タンク容量の異なる車種と一緒に走る際は特に、給油タイミングを把握する上でも燃料の残量確認は忘れずに。

サーキット走行前に「ビス検」してマーキングしておこう

サーキット走行前は、ビス検(締付確認)を行い、完了したらボルトにマーキングを打ちます。マーキングはなるべく方向を揃える(12時、6時の位置など)ことでよりミスを発見しやすくなります。

締め忘れや、ビス検未実施の場合は目視による視覚情報で把握でき、エラー発見の確率がグッと高まります。

五感をフル活用して異常を感知するべし!

匂いや音、手応えなど、五感をフル活用します。焦げ臭かったり、今までにない振動を感じたり、普段と違う音が鳴る場合は不具合の可能性があります。

また、何かの理由でLLCがエンジンで燃焼したり、エキパイに付着すると甘い匂いがします。

変化に気づくことが、点検の要となります。


点検はマメに行うことに大きな意味がある

異常を発見するためには、正常な状態を把握する事が重要。そのためには普段から音や振動、操作具合などを把握する必要があります。

いつもより加速が悪い、回転数が違う、たまに変な音がする、オイルの減りが早いなどマメに点検して気づけば、

異常の早期発見に繋がり重大なトラブルを回避できます。

サーキット走行前日に整備する際は要注意!

トラブルの多くは前日や直前の整備に起因しています。時間的余裕が無い中で整備を行うと、締め忘れや入れ忘れ、組み忘れが起こりやすくなります。

以前紹介した、ザルを使った「ミスの見える化」や、

整備箇所すべてのダブルチェックを行うことを習慣化してミスを無くし、安全に走行しましょう。


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