ブレーキングトピックス From MotoGP【しっかり止めて、しっかり曲がる/トレイルブレーキで速くなる】

ブレーキを引きずったまま、コーナーに進入する「トレイルブレーキ」は、スポーツライディングの必須テクニックだ。多くのメリットを持つ技だが、正しい知識と的確な練習法を知らなければ、ただ怖い思いをするだけになる。なんとなくブレーキを引きずるのではなく、その意味を確実に理解したい。

PHOTO/S.MAYUMI, Red Bull, Ducati, Yamaha, Honda
TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/本田技研工業 0120-086-819
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デジスパイス
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公道とサーキット走行は別。サーキット走行とレースも別
各国選手権を勝ち抜くだけでも天才的なライディング能力を備えているのに、そこからさらに選び抜かれた天才の中の天才が、MotoGPライダーだ。そして彼らのすごさは、ブレーキングに尽きる。
電子制御が盛り込まれ、空力パーツがこれでもかと装着されているMotoGPマシン。しかしブレーキとサスペンションに関して言えば、驚くほどの飛躍的進化は遂げておらず、電子制御とも無縁だ。ことブレーキに関して言えば、今や量産車では義務付けられているABSさえ装備されていないのだから、逆に驚きだろう。
MotoGPがブレーキに電子制御を採り入れないのは、そこでライダーのテクニックの差がもっとも顕著に現れるということ、そしてその差がレースを面白くしていることを、熟知しているからだ。もしブレーキが電子制御されれば、もはや誰でもMotoGPライダー……とはならないと思うが(笑)、腕の差をメカニズムがかなり埋めてしまうことは確かだろう。
では、MotoGPライダーのブレーキングの何がすごいのか。彼らのブレーキングは、トレイルブレーキの極致なのだ。P24で「トレイルブレーキは、ブレーキングとコーナリングがオーバーラップする」と説明したが、そのオーバーラップの時間が極端に短い。結局のところ、レースというのはブレーキをどれだけ奥まで突っ込めるか……つまり、いかに制動時間を短くするかが勝負だ。
しかし、並大抵のことではない。かつて私が走らせていた2ストローク500ccマシンや初期MotoGPマシンに比べて、最新MotoGPマシンは非常に速い。そして車重は重い。速くて重ければ、慣性力は高まる。それを「止める」のだから、ライダーはテクニックはもちろん、強靱なフィジカルも求められる。
さらに、マシンもいかに短時間で「止まる」かに主眼を置いて開発されている。これでもかと据え付けられている空力パーツの多くは、制動距離をより短くするためのものだ。
ブレーキメーカーのエンジニアによると、制動Gが1Gを超えるとリアタイヤが浮くジャックナイフ状態になってしまうそうだが、リアの空力パーツでこれを抑えているそうだ。さらにドゥカティは何らかのメカニズムによって、ブレーキング開始直後に機械的にリアを振り出し、向き変えを早めているようだ。これもオーバーラップをできるだけ短くしようという、マシン面での試みだ。
いずれにしても、レースは突っ込み競争。その究極がMotoGP……ということは、豆知識として楽しんでいただくに留め、ご自分が走る時はキレイさっぱり忘れてほしい。突っ込みはせず、弱く、長いブレーキを心がけていただきたい。
希代のブレーキ巧者
トレイルブレーキが最大の武器


加速しながらフロントブレーキ!


異次元のドゥカティ・ファクトリー
挙動がまったく違う2台のマシン
右写真、左写真ともに後方2台がドゥカティ・ファクトリー。姿勢がライバルとは明らかに異なり、リアタイヤをアウト側に振り出している。制動力が増し、向き変えも早い。クラッチまわりかフライホイールに、何かしている模様……。



なかなか近付けないライバルたち
期せずしてホンダを例に挙げたが、ブレーキングが相当に進化しているドゥカティに対して、ライバルはどうも進化幅が少ない。単に減速するだけではなく旋回につなげなければならない。

