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トレイルブレーキの理解をより深めるために【しっかり止めて、しっかり曲がる/トレイルブレーキで速くなる】

ブレーキを引きずったまま、コーナーに進入する「トレイルブレーキ」は、スポーツライディングの必須テクニックだ。多くのメリットを持つ技だが、正しい知識と的確な練習法を知らなければ、ただ怖い思いをするだけになる。なんとなくブレーキを引きずるのではなく、その意味を確実に理解したい。

【青木宣篤】
2022年、50歳で現役を引退するまで長きにわたりレーシングライダーとして活躍。現在は全国を駆け巡りながらライディングの真髄を伝授する日々。スポーツバイクを限界まで攻め立てるスパルタンな走りは、今も現役さながらの切れ味を見せる
PHOTO/S.MAYUMI, Red Bull, Ducati, Yamaha, Honda
TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/本田技研工業 0120-086-819 
https://www.honda.co.jp/motor/
デジスパイス 
https://dig-spice.com/jp/

天才たちも探求し続ける奥深く終わりなき旅路

駆け足でトレイルブレーキについて説明したが、少しでも理解していただけただろうか?

ものすごくシンプルに言えば、「ブレーキをかけ、制動力を弱めながらコーナーに進入していく」だけのことだ。しかし、これが本当に奥深い。

このページでは、メカニズム面とライディング面で3つのトピックスを付け加えたが、正直、これですべてを網羅できたわけではないし、各テーマについても総論でしかない。

何しろ、天才中の天才であるMotoGPライダーたちがしのぎを削ってもなお到達点が見えないほど、トレイルブレーキは奥深い。その本質は、まさに「終わりなき追求の旅」だ。

ただの減速装置には留まらない、ブレーキ。トレイルブレーキはほんのわずかな指先の動きでしかないが、サーキット走行がグンとレベルアップするテクニックであり、ライダーが積極的にバイクを操ることで、より一体感が増すものでもある
ただの減速装置には留まらない、ブレーキ。トレイルブレーキはほんのわずかな指先の動きでしかないが、サーキット走行がグンとレベルアップするテクニックであり、ライダーが積極的にバイクを操ることで、より一体感が増すものでもある

さらに話をややこしくしているのが、たびたび述べているように、トレイルブレーキは基本的に「怖い行為」であることだ。その怖さは誤解によるものではあるが、人間の自然な心理に反する行為だから、どうしても拭えない。

つまり、トレイルブレーキの練習には、ライダーのメンタル面が大きく影響する。ざっくり言えば、ライダーが「豪快派」なのか「慎重派」なのかという違いだが、私としては「とにかく慎重であること」を強くおすすめしたい。

できないこと、やったことのないことをやれるようになるには、少しずつチャレンジの幅を広げていくことが近道だ。

サスペンションはソフト方向にセットアップ

トレイルブレーキの練習に際して、サスペンションはとにかく柔らかくセットアップする。スピードが低くても挙動が分かりやすく、接地感も得やすくなる。電子制御サスの最新SSはセッティングも容易。

シングルディスク車は少し別のストーリー

シングルディスク車でサーキットを走ると、どうしても制動力不足を感じる。ダブルディスク車に比べるとかなり握り込まなければならないため、コントロール性も低い。ダブルディスクとは特性が異なるため、練習になるかと言われるとやや疑問。

リアブレーキはひとまず使わなくてOK

足で操作するがゆえに難易度が高いリアブレーキは、無理に使わなくてもいい。まずはフロントブレーキの習熟に集中。余裕ができてから、もし使いたければリアブレーキに挑戦してもいいだろう。

使えた方がいいが、使えなくても大丈夫だ。

無理なく習熟するコツは「できることを、淡々と」

「頑張る理由」と大書しておいて矛盾するようだが、私が一般ライダーの方にトレイルブレーキについてレクチャーする時、もっとも強調するのは「頑張らないでほしい」ということだ。「頑張らないことを、頑張ってください」と、私は言う。

走っているバイクのスピードを落とすのは、不安が募ったり、体に制動Gがかかったりして、とにかくつらいものだ。しかも減速Gに耐えながらの繊細な操作は、とても難しい。

ブレーキレバーを握るのは簡単だ。だが、レバーを離しながらその量を調整するのは、容易ではない。特に入力値が高いほど、強く握っている時ほど、離す方向のコントロールは難易度が高くなる。

だからこそ、頑張らないことが大事だと思うのだ。ライディングの「頑張る」とは、概ねスピードのことだ。スピードを落とせば、それだけレバーへの入力値も減り、それを離す方向のコントロールもやりやすくなる。同時に怖さも減るだろう。

ブレーキングの習熟は、無理のない範囲でできることを淡々と繰り返してほしい。いつかそれが当たり前になり、次のステップに進めるものだからだ。「ギリギリいっぱいのブレーキングで頑張らなくては」という強迫観念を捨てることを、ぜひ、頑張ってほしい。

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