【青木宣篤のサーキットスタイル】エキスパートの流儀:走行編②

例え同じようなバイクでも、例え同じようなペースでも、何かが違う。サーキット走行会で先導にあたるエキスパートライダーたちは、ただものではない。彼らはいったい何を準備し、何を考え、いかにバイクを走らせているのか。そしてライディングに対する向き合い方は、私たち一般ライダーと何が違うのか──。ハイパフォーマンスモデルをものともせず、自由自在に操っている青木宣篤さん。彼の「サーキットでの1日」を解き明かすと、そこには珠玉のヒントが散りばめられていた。
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/スズキ 0120-402-253
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加速するために減速のことを考える
「ブレーキング」と「コーナリング」という2つの項目を立ててはいるものの、実は私の中に「コーナリング」という考え方が、あまりない。もしかすると「コーナリング」という言葉の定義が、他の人とはだいぶ異なっているのかもしれない。
例えば筑波サーキット・コース2000の最終コーナーや、袖ケ浦フォレスト・レースウェイにある左の8コーナーのように長いコーナーを駆け抜けている状態は、「コーナリング」という言葉が適切だ。
一方、ブレーキングから立ち上がりの間が短いコーナー(もっとも分かりやすい端的な例が、ヘアピンカーブだ)で、私は「コーナリング」をあまり意識しない。そして、サーキットにはそういったコーナーの方が多いのだ。
一連の動作はすべて立ち上がり加速のためにあって、コーナリングはその過渡の状態に過ぎない。そしてブレーキングさえうまく行けば、ごく自然に立ち上がりもうまく行く。
その時、過渡のコーナリングはほとんど気にしていない。それにしっかり減速できていれば、いわゆる「コーナリング」と呼ばれる状態はどんどん短くなっていくはずなのだ。
よく言われる「向き変え」という考え方が、私には分からない。そこそこのブレーキングでコーナーに進入し、バイクが傾いている状態でもパーシャルで待っていれば、いずれ向きが変わるだろう。
しかし、待ちの時間がある分、決定的に遅い。「では」とペースを上げようとすると、非常にまずいことになる。ペースを上げるにはスロットルを開けるしかないが、たいていはブレーキング不足によりオーバースピードの状態でコーナーに進入しているからだ。
オーバースピードだから、車体は必要以上に傾いている。それなのにペースアップを狙ってスロットルを開けるのだから、リスクは高まる一方である。
スロットルを開けていくことによって旋回力が高まる「2次旋回」も、確かにある。先に挙げたようなロングコーナーでは、その効果を感じることができるだろう。だが、速度域が高いサーキットでは、こういった2次旋回に期待しての「向き変え」は、危険なだけだ。特に曲率が小さいコーナーでは、ガラリと考え方を変える必要がある。
私は、とにかくブレーキングのことを考えている。そしてブレーキングによって発生した減速Gを残らずタイヤに伝え、旋回力をひときわ高めるために、ブレーキングしたままコーナーに進入する。
理想は、フルバンクまでフルブレーキングし続けることだ。最もコーナーのイン側に近付いた時、最も減速している状態にしたい。それが最も加速できる体勢を作り出すからだ。
ブレーキング
ブレーキを握りながらコーナーに進入する時、私は全力でフロントタイヤと交信している。コーナーのどのポイントまで、どれぐらいブレーキをかけるか。
すべてをフルに感じながら判断し、操作に反映する。

“弱く長いブレーキング”を意識
ブレーキング中は減速度が大きいため、人の心理としてどうしても怖い。無理に突っ込もうとせず、想像よりはるかに手前からの“弱く長いブレーキ”がオススメ。意識するべきは、できるだけブレーキを引きずることだ。


圧倒的に多い「制動不足」
「うまく曲がれない」という人の多くが、「曲がる」という言葉からコーナリングを意識する。だが、曲がれない理由はほぼ100%が制動不足が起因している。十分に減速し切れていないから、加速体勢が整っていない状態になっているのだ。「曲がる」は一旦脇に置いて、まずはしっかり減速を
コーナリング
ブレーキレバーに指が触れている間は、フロントタイヤとの全力交信を続けている。リアはほぼ気にしない。
イン側のハンドルを押すことで車体を傾けるが、ほぼ無意識。とにかくフロントに集中している。

ヒザは自然に開いていくもの
ブレーキングを重視するのでヒザを意識することはほぼない。最初にヒザを擦る時ぐらいだ。遠心力に打ち克つために体をイン側に落としながら、ヒザは自然に開くに任せる。イメージと実際のヒザの擦り方を照らし合わせ、バンク角を適正化。まさにバンクセンサーだ。

無理ヒザは禁物
無理にヒザを擦ろうとするとフォームが崩れ、旋回性に不自然な影響を及ぼす。ライン取りは乱れてしまうし、百害あって一利なしだ。

立ち上がりのためのブレーキングでありコーナリングである
ブレーキをしっかりかけて奥まで引きずることができれば、赤丸部分でコーナーのイン側に最接近する理想的なラインになる。
たいていはリリースポイントが早すぎるため、例え同じようなラインを通れてもスロットルを安全に開けられない。

そもそもライン取りが違う
イン付きが早すぎると、結局は立ち上がれないラインに。イン付きの早さはブレーキの恐怖心から。
それがもっと怖いことを招くのだから、ここは我慢。

無意識に加速している
ブレーキをリリースしてからスロットルを開け足していないつもりでも、特にビッグバイクだとそれなりに加速する。
思ったラインを通れない要因だ。
