【Historic Bikes/~SUZUKI GSX-R1000R~】17年衝撃のデビュー①そのコーナリングは、とても美しい……
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SUZUKI GSX-R1000Rそのコーナリングは、とても美しい…… 8年の沈黙を破って登場したスズキGSX-R1000Rの試乗会がオーストラリアのフィリップアイランドで開催された。 そのすべてを刷新し、新設計エンジンの有り余るポテンシャルはMotoGP譲りの車体と最新電子制御で調律する。 今回は、スタンダードモデルの他に上位機種である“R”スペックも用意。そのトップパフォーマーを堪能してきた。今回は、衝撃デビューを振り返る企画としてスズキGSX-R1000/Rをお届けする。「妥協したくなかった」「納得いくまでやりたかった」「自信を持って試乗していただけます」という開発陣が自負するそのマシンはまさに衝撃だった。2回にわたりその模様をお届けする。
※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。
コーナリングの軌跡がこれほど美しく、自由に描けるリッタースーパースポーツに初めて出会った。 何よりもNewGSX-R1000R自身がとても楽しそうに、そして積極的にコーナーに挑み、クリアしていくのである――
2015年のミラノショーで発表され、このオーストラリアのフィリップアイランドで開催されるワールドローンチまで約1年3カ月が経過している。「妥協したくなかった」「納得いくまでやりたかった」エンジニアの誰もが口を揃える。そして「自信を持って試乗していただけます」とその顔はとても誇らしげだ。
フィリップアイランドに立つ開発陣は、全員がやりきった充実感に溢れていた。 昨年の夏にスズキの竜洋テストコースで、テストライダーがNewGSX-R1000Rを、僕が16年モデルのGSX-R1000で一緒に走る機会をいただいた。その時のNewGSX-Rはハンドリングも加速もまったくストレスのない動きで、直後を走る僕を一瞬で魅了した。軽く曲がり、スッと加速していくその動きはそれまでの市販車では見たことのない機敏さで、それ以来試乗できる日を待ち望んでいた。
真夏のフィリップアイランドのピットにNewGSX-R1000Rがズラリと並ぶ。いよいよこの時がやってきた。 フィリップアイランドは、2速を使うコーナーが2つだけであとは超高速コーナー。1コーナーなどは290㎞/hからあまり強くブレーキをかけずに飛び込むし、3コーナーは速いライダーは5速全開で飛び込む。昨年のモトGPで勝ったカル・クラッチローの決勝中の平均速度は176・5㎞/hという特殊なコースだ。もちろん僕は初めてのコース。午前中はノーマルタイヤのブリヂストン製RS10で、午後はハイグリップのR10を履いてテストは行われる。
開発陣はレース経験者も多い職人集団
スタッフの皆さんと記念撮影。チーフエンジニアの佐原伸一さん(左から2人目)は、’07~’11年までMotoGP のプロジェクトマネージャーを務めた。試乗会にはケビン・シュワンツさんも参加。一緒に食事をしたり、コースの攻略法を教えてくれたり、さらには一緒に走って引っ張ってくれたりと大サービス。「苦手なコーナーは?」と聞かれ「全部」と答えたら、丁寧に1コーナーから順に走り方を教えてくれた
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MotoGPマシン GSX-RRの走りを継承する
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ディメンションを大幅に変更し、コントローラブルな車体に
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跨った印象はとても小さく、引き起こしも軽い。その大きさは1000㏄とは思えない。そして、走り出すとそのコンパクトさはさらに際立つ。並列4気筒エンジンを搭載しているとは思えないほどスリムだし、荷重移動した際のレスポンスが軽い。さらにミッションのタッチ、操作系の素直さ、スロットルの手応え、それに反応するエンジン、フレームとサスペンションのしなやかさなど、走り出した瞬間にすべてが新しい世代に突入していることを感じさせる。
初めてのコースでハイスピードコーナーに飛び込んでいくのは勇気がいるが、NewGSX-Rのリーンの正確さ、そして旋回中の自由度の高さに助けられた。最初の数周は軽すぎて曲がりすぎてイン側のゼブラに乗ってしまいそうになるほどで、コースを覚え、スピードが上がっていくことで釣り合っていく。曲がり過ぎる……今までのリッタースーパースポーツでそんな風に感じたことがあっただろうか。まるで600……いや、走り出した時の軽さはそれ以上かもしれない。とはいえ、他のスーパースポーツのように高いところからいきなりフラッとまるでバランスを崩して素早くリーンする感覚ではないから馴染むのも早い。これは歴代GSX-Rが守り続ける“らしさ”のひとつだ。
素晴らしいのは車体のどこにも硬さがないことだ。だから走り出したときの手強さは少ないし、これがハンドリングの軽さにも繋がっている。ヘアピンで軽く、それでいて高速コーナーで振られない車体とサスペンションのセットアップは秀逸だ。1本目の走行はコースを覚えるのに必死だったが、心にスイッチが入ってしまうのを抑えるのにも必死だった。旋回中の自由度の高さを活かし、初めてのコースでさまざまなライン、リーンのタイミングを試すほどに、早くその先の素性を見てみたい衝動に駆られる。この手のバイクは少しずつペースを上げていかないと……と思いつつも、僕は瞬く間にNewGSX-Rの虜になった。
大馬力のエンジンはいきなり高回転を使うことはできないが、中速域でのスロットルを開け始めた時の反応もよく、さらには扱いやすいトルク特性が大馬力の警戒心を徐々に解いていってくれる。中速から大きくスロットルを開けて待っていると、分かりやすくトラクションが大きくなり、旋回力が増していく。もしかして開けやすいのかも……40㎜も長くなったスイングアームが確実に路面に後輪を押し付け、後輪が確実に路面を掴んでいる手応えがある。
上位機種のRスペックを用意
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上位機種のGSX-R1000R とスタンダードモデルとなるGSX-R1000 の違いは前後サスペンション。さらにクイックシフトシステムやローンチコントロールの有無なども異なる
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コンパクトなポジションで積極的に身体を動かせる車体設計。タンク上面が前モデルよりも21 ㎜下げられたこともこれに貢献。小柄な僕には、腰をズラした時に少しだけステップが低く感じるが、それはリプレイスで簡単に解消できる
202ps/13200rpm 12kg-m/10800rpmを発揮するエンジンは前モデルから前後長を22.2mm短く全幅は6.6mmも狭くした超コンパクト設計
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すべての回転域で理想的なバルブタイミングを可能とするVVT( Variable Valve Timing system)を採用
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各バルブにロッカーアームを装備するFinger follower valve trainを採用
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タイプだったが、コンパクトな設計を可能とし、高回転域のフリクションを軽減するため、各バルブに小さなロッカーアームを配置。これが正確なバルブ作動を約束する。エキゾーストバルブはスチール製からチタン製に変更された
2本目はフロントフォークの圧縮側とリヤショックの伸び側と圧縮側減衰力を少し強めたスズキ推奨のセットアップでコースイン。すると車体はさらにバランスを向上させ、コースに慣れたこともあり、ペースが自然と上がる。
しかし、このコースで市販車のローンチを開催するのは相当の自信がないとできないことだろう。ブラインドコーナー、アップ&ダウンも多く、なによりも見たことがないほどの高速コーナーの連続は、当然バイクへの要求がシビアになる。しかし、NewGSX-Rは走る度にコースとのバランスを向上させていくから驚く。
202psを発揮するエンジンは、これまでのGSX-Rと比較すると異例のショートストロークだ。いままでのようにロングストローク&クランクの重さが生む低回転域の粘りはないが、だからといって物足りなさも皆無。ミッションのストロークは短く、クイックシフトを使って一気に6速まで入れても十分走る。中速域から高速域の繋がりのよさは特筆で、可変バルブタイミング機構であるVVTは1万回転を超えると切り替わるが、その作動はシームレス。ショートストローク化したことで理屈上失われるはずの低中速域をVVTが補っているのだろうし、高回転の伸びとパワー感は素晴らしい。5速/290㎞/hを超えても加速していきそうな余裕がある。
抜群に速いエンジンだが、その感性はライダーに寄り添っている。ライド・バイ・ワイヤを採用したスロットルは軽すぎず重すぎずの丁度いい味付けで、エンジンが予想に反してレスポンスすることがない。さらにエンジンには余裕があり、高回転域でも無理やりパワーを出しているような感覚はなく、安心感に溢れているのだ。並列4気筒特有の高周波や音が発するライダーを畏怖させるそういったプレッシャーがなく、さらにスロットル開け始めの過渡特性がよくつくり込まれており、202psなのに開けていけるし、開ける気持ちにさせてくれるのである。
その開けやすさに大きく貢献しているのがアップ&ダウン対応のクイックシフターで、ライダーは発進と停止時以外、クラッチレバーに指をかける必要はない。その恩恵はすべてのコーナーで受けられるといって良い。何よりも旋回中に躊躇なくシフトアップできるため、常に使いたい回転を使うことができ、トラクションが途切れない。これは僕自身のシフト操作では不可能と思える高いレベルの作動性だ。ストレートでも202psのエンジンをクラッチ操作でシフトアップしていくと、クラッチを切った瞬間にわずかだが駆動が途切れ、ハンドルが振られたりする原因になるが、当然そんな心配も無用だ。
そしてダウン側は一度経験したら手放せない。超高速からの減速はシビアだが、ブレーキング操作に集中できるし、例えば5速でバンクしながら加速してバンクしたまま1速落とすようなシーン、下りコーナーで4速から2速に落とすシーン、そういった過酷なコーナーでとても心強く、オートブリッパーとABSが巧みな連動を見せ、後輪がロックしたり、浮きそうになるシーンはなかった。だから曲がるきっかけを見失いにくい。
進入時に失敗するとその後のアプローチの何もかもがうまくいかないが、そういった状況になりにくいのだ。ちなみに強いブレーキング時もしなやかなフレームとサスが健在なこともつけ加えておきたい。だからライダーはこれまでのバイクで感じたことがないほどリーンに集中できるのだ。
サスペンションの作動性は素晴らしく、前後タイヤの接地感を強く感じさせてくれる味付けで、減衰力を変化させた際のインフォメーションも豊富で、その変化を楽しみやすかった。
理想の走りを細かく追求できる最新の電子制御
ライド・バイ・ワイヤや慣性測定装置を採用することで、最先端の電子制御を搭載。ドライブモードは3種類でトラクションコントロールは10 段階で調整可能。クラッチ操作なしでギヤチェンジのアップ&ダウンができるクイックシフトシステムやローンチコントロール、サーキットでも使えるモーショントラックブレーキシステムというABS も装備する
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