【Historic Bikes/~SUZUKI カタナ~】SUZUKI カタナ・フラッシュバックインプレ!! 宮城光が試乗会で感じた『伝えたいこと』
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’17年のインターモトでコンセプトモデルが登場し、’18年ケルンショーで正式発表先代GSX1100S KATANAが姿を消して’19年、ついに全貌を表した新型KATANA流行のネオレトロではない、新時代のKATANAと呼べるバイクを模索し続け偉大な先代を引き継ぐ者に、否応なく課せられる重責……「大好きか大嫌いか」。その明確な評価軸で誕生した初代モデルを継承するスズキの大名跡「KATANA」を、早春の京都で宮城 光がライディング!
※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。
本誌スーパーバイザー 宮城 光
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SUZUKI KATANA 懐古主義で語らない21世紀の“刀”のあり方
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誤解を恐れずに言わせてもらえば、新型KATANAの実車を目の前にすると「写真で見るよりはるかにカッコ良い」。もちろんカッコ良い/悪いは個人の好みだが、かつてGSX1100S KATANAを所有し、思い切りカスタムも楽しんできた僕はそう感じた。
バイク好きならご存知の方も多いだろうが、新型KATANAの原型は2017年のミラノショーに向けて、イタリアのバイク誌「モトチクリズモ」が企画したコンセプトバイク「KATANA3.0」だ。モト・グッツィやモトモリーニ、トライアンフ等を手掛けたロドルフォ・フラスコーニがデザインし、製作はボローニャのエンジンズ・エンジニアリングが担当した。
もちろん〝元祖KATANA〞をオマージュしたデザインであり、随所にモチーフとするディティールも見受けられるが、いわゆるスタイルを復刻したネオレトロではないのは一目瞭然。だからこそスズキも、このKATANA3.0を「新時代のKATANA」として誕生させる決断を下したのだろう。
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そして今回発表された新型KATANAは、一見すると〝ショーモデルそのまま〞と思えるが、じつはフラスコーニのデザインを再現しながらも、極端に短かかったシート周りやヘッドライト周りの造形などをオリジナルのGSX1100S KATANAのイメージに近づけるべく、スズキがキッチリ手を入れている。
そして実車と対面すると、想像していたよりもコンパクトで、凝縮された充実感を感じる。スズキ初という樹脂製のカバードタンクからサイドカバー、テールへと連なるエクステリアを現代的なフレーム(元祖KATANAは当時標準的な鋼管のダブルクレードルだが、新型はスーパースポーツ系のアルミツインスパーと大きく異なる)に、非常にうまく合わせて載せているのだ。
この整い具合は見事という他ない。 シートカウルは、真横から見ると若干〝寸詰まり〞な感もあり、個人的にはあと15㎝くらい長ければと思わなくもないが、じつは人が乗ったときのバランスはビジュアル的にきちんと良くできている。……と、まずは所々のカタチがいろいろと気になるのは、KATANAというバイクならではだろう。とはいえ走ってみなければ真価は問えない。
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ボリュームのあるタンク周りは、スズキ初の樹脂製カバードタンク。デザインを優先したため、ガソリン容量は12ℓと大型車としては若干少なめとなる
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GSX-S1000
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込められたスズキの哲学 その走りは、真面目で実直
今回の試乗会は、京都市西部にある〝嵐山-高雄パークウェイ〞で、約10㎞のワインディングを貸し切って行われた。アップダウンはそれほどキツくないがタイトなコーナーが多い、日本では良くあるタイプの〝峠道〞。その高雄側の大型パーキングに新型KATANAがずらりと並べられ、試乗を待っていた。
一見するとスーパースポーツにアップハンドルをつけた〝ジムカーナマシン〞のようなポジションと思いきや、実際に跨ると〝前乗り〞を強制されるワケではなく、ごく自然なライディングポジションを取れる。僕の体格なら足着き性も良好だ。 キーをオンにするとデジタルメーターが起動する際に、SUZUKIのロゴをスパッと切り裂いて〝刀〞のロゴが現れるギミックが楽しい。
モノクロ反転の液晶表示も必要な情報が的確に配置されて見やすい。 いよいよ走り出すと、まず感じるのが圧倒的な軽快感。そして名機と言われるGSX‐R1000K5をベースとするエンジンの、ロングストロークならではの厚いトルクが頼もしい。しかも国産ネイキッド最大級の約150馬力は、文句なしに速い。スロットル・バイ・ワイヤは採用しないが、スロットルパイプのプーリーの偏心による、アナログだがまったく違和感のない〝開けやすさとレスポンス〞は非常に秀逸だ。
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賛否両論は覚悟の上 根底にあるのはオリジナルへの敬意
前述したようにポジションは自然で、短く見えるシートも着座位置を前後に移動する自由度が十分にある。リヤショックはスプリングのレートが少し高めで、フロントは低いステアリングヘッドに高いハンドルという、元々がストリートファイター指向のセットアップと聞いて納得。
そして近年の大排気量スーパースポーツはステアリングダンパーを装備する車両が多いが、KATANAは非装備。これがリーンで舵が速く入り、ニュートラルで軽快な乗り味を生み出している。もしかするとライダーによっては敏感に感じるかもしれないが、10分も走れば慣れてしまうレベルなので問題ないだろう。
じつはエンジンだけでなく、アルミのツインスパーフレームやスイングアームも、基本レイアウトはGSX‐R1000にあり、当然リヤサスもリンク仕様だし、ブレンボキャリパーのブレーキシステムも含めて足周りも強靭。それだけにコーナリングもブレーキも高いスタビリティを感じる。それもスズキならではの極めてニュートラルなハンドリングの元なので〝スポーツバイクで走って楽しむ〞という遊びの本質を、見事なまでに実現しているのだ。
だから新型KATANAのライディングフィールは、まさに「現代の切れ味」であり、スポーツバイクの評価軸が厳しい〝うるさ型のライダー〞も間違いなく楽しめるだろう。そしてこのバイクに期待感を持つすべてのライダーに、確実にKATANAのフィソロフィーを深く感じられる1台であることを伝えたい。
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開発陣が考える「刀」への敬意
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チーフエンジニア 寺田 覚さん(写真右)
初代カタナは、当時最新だったGSX1100Eがベースになっていて、それをハンス・ムートが斬新なデザインに仕上げ、バイクの新しいカタチを提案したモデル。それが多くの人に認知してもらえて、人気を博しました。今回もGSX-S1000という優秀なベースから新型カタナが生まれました。そんな出自も共通しているので、新型カタナもしっかりと新しい世代の人たちに認知してもらい、ずっと覚えてもらえるバイクにしていきたいです
エンジン実験 小薗江健一さん(写真左)
初代の象徴でもあったセパレートハンドル、そして前傾したライディングポジションこそがカタナだと、私自信も思っていました。しかし新型に乗ってみると、現代のバイクとして、ストリートやツーリングを楽しめるように仕上がっていて、そういうジャンルではトップを狙っていけるバイクになっていると思います。過去にとらわれて古い時代の物に戻るのではなくて、その時代に楽しく乗れるバイク。それがカタナなんじゃないでしょうか
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シャシーデザイン 石川裕次郎さん(写真右)
初代は私が生まれる前のバイクで、最終型でも中学生くらいでしたから、正直に言えばカタナという名前に強い思い入れがある世代ではないんです。でもこのプロジェクトが始まると、カタナという名前のもとにどんどん人が集まり、社内でもいろんな意見を言う人たちがいるのを目の当たりにして、これほどまでに多くの人を引きつける、魅力のあるバイクなんだと実感しました。そういうバイクに関われることは非常に光栄だと感じています
アシスタントチーフエンジニア 佐々木達哉さん(写真左)
初代が登場したのは私が入社する前で、初めて雑誌で見たときには「おお!」とビックリしましたね。そんなふうに新しさを感じさせるデザインというのがカタナだと思います。そこにストリートバイクとして時代の最高レベルの性能が合わさって、眺めて良し、走って良しでないとカタナとは言えない。賛否両論あっても、ちょっとビックリするデザインと、スズキの性能が必須。そういう意味では今回のカタナには自信を持っています
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