【Historic Bikes/~YAMAHA・NIKEN~】~スポーツバイクの新しい可能性~【R/C インプレッション】
※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。
ナイケンはバイクなのだろうか?
バイクはバンクして曲がる乗り物だ。それだけにバイクの醍醐味は思い通りに操りコーナリングすること、曲がること。特に本誌読者の皆さんの大半は、そんなコーナリング大好きライダーだと思う。しかし、醍醐味と同時に難しさや不安を感じさせるのも“バンク”だ。
果たして、ヤマハのナイケンはバイクなのだろうか? フロント二輪の迫力と、見る物を圧倒する近年のヤマハらしいアグレッシブなデザインから、乗り味を想像することはできなかった。それは20年以上かけて培ってきた僕のキャリアや先入観が心のどこかで、「認めたくない」「認めてはいけない」と邪魔しているからなのか……。でも、ベテランほどそんな気持ちになるライダーが多いはずだ。
確かに二輪との違いはあるが、違和感ではない
僕はナイケンがバイクなのかを確かめるべく、試乗会が行われる修善寺のサイクルスポーツセンターに向かった。会場にはナイケンがズラリと並び、二輪のバイクにはない圧倒的存在感で迎えてくれた。 ヤマハのLMW(リーニング・マルチ・ホイール)テクノロジーは14年に125cc、17年に155ccのトリシティをリリースし、今回のナイケンは第3弾だ。
MT‐09の845㏄並列3気筒をベースとした専用エンジンを搭載し、バイクらしい醍醐味を追求するため、専用のステアリング機構と電子制御も採用する。 走り出すと三輪の違和感は皆無。確かに二輪との違いはあるが、違和感ではない。前方に二輪と4本のフロントフォークがあり、これは相当の重量物だが、ハンドリングは軽い、というか自然だ。
フォークのストロークは少な目で、ピッチングモーションも少ないが、リーンのタイミングは掴みやすく、ハンドリングは軽いがクイックではなく、アンダー目のロードバイクといったところ。不思議なのはブレーキを強めにかけてリーンしても、旋回中にブレーキをかけても不安定な挙動や重さがでないことだ。
ナイケンに採用された独自のLMWアッカーマン・ジオメトリーにより、リーンでセルフステアする感覚はないものの、その挙動はライダーの操作に忠実で、リーンの重心移動をすると、軽々とバンクする。これも不思議な挙動だが、すぐに身体に馴染むため不安はない。旋回中も安定感が高く、すぐにステップが接地。素早いリーンも得意だし、旋回中にさらに寝かせることもでき、ラインの自由度が高い。ペースを上げると立ち上がりで膨らむ印象だが、制限速度域では安定感だけが際立つ。
走行中は転び方が想像できないほど安定感に「どうやったら転ぶんですか?」
さらにスロットルを大きく開けると後輪がかなりスライドしてからトラクションコントロールが介入してくる。そんな状況でも前輪は勝手に巧みにバランスを取って車体をいなす。進入でもどこまで行けるんだろう……とかなり強めにブレーキを残したまま入ってみたが、限界が見える気がしなかった。
この後、待ってました!? とばかりに大雨に……それでも前輪はピクリともしない。大雨でも前輪の性能を引き出せる感覚はドライ以上に不思議で、ブレーキを思いっきり握ったままリーンできるし、素早く切り返せる。ペースアップすると進入でも立ち上がりでも滑り出すのは後輪からだったが、公道の速度域ならそんな挙動はみせないはずだ。
試乗を終えテストライダーの方に「ナイケンはどうやったら転ぶんですか?」と聞いてみると、「強くブレーキを握りながら進入していくとフロントが切れ込みます。ただしそれは相当深い領域での話です」とのこと。走行中は転び方が想像できないほど安定感が高かった。
ヤマハのLMWの世界は、さまざまなライダーに恩恵をもたらしてくれる。バンクに対する恐怖がないため、多くのライダーがバイクならではのバンクする爽快感を味わえる。またウエット時にかかわらず、苦手なコーナーなどで緊張し身体が力むとそれが疲労に繋がるが、ナイケンなら常にリラックスして操れるため、疲労も軽減してくれるだろう。
雨、風、路面の荒れや砂、雨の日のマンホール……そんなシチュエーションや路面の変化の影響を受けにくい。唯一の不安は、ウエットでこの安定感を経験した後に普通のバイクに戻れるのか……ということだ。 ナイケンがバイクであることはよく分かった。
YAMAHA NIKEN(ヤマハ・ナイケン) ディテール
4本のフロントフォークで、専用の15インチタイヤを支持する
Specifications:YAMAHA NIKEN(ヤマハ・ナイケン)
エンジン | 水冷4ストローク並列3気筒 |
バルブ形式 | DOHC4バルブ |
総排気量 | 845cc |
ボア×ストローク | 78×59mm |
圧縮比 | 11.5対1 |
最高出力 | 116ps/10000rpm |
最大トルク | 8.9kgf-m/8500rpm |
圧縮比 | 11.5対1 |
変速機 | 6速 |
クラッチ | 湿式多板 |
装備重量 | 263kg |
キャスター/トレール | 20°/74mm |
サスペンション | F=倒立 |
R=リンク式モノショック | |
ブレーキ | F=ダブルディスク |
R=シングルディスク | |
タイヤ | F=120/70-15 |
R=190/55-17 | |
全長/全幅/全高 | 2105/885/1250mm |
軸間距離 | 1510mm |
シート高 | 820mm |
ガソリンタンク容量 | 18L |
価格 | 178万2000円 |
※本スペックは『ライダースクラブ 2018年12月号』掲載時のものです。