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【Historic Bikes/~DUCATI・MULTISTRADA 1260 PIKES PEAK/S~】~拡大された排気量がもたらした速さとゆとり~【R/C インプレッション archives】

「パイクスピーク」と「S」は外観の差は少ないがハンドリングは別モノ

※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。

大幅改良された18年ムルティストラーダは1200から1260へ

2003年にデビューし、空冷1000(992cc)から1100(1078cc/07年)へ、そして水冷1200(1198cc/10年)と排気量の拡大を繰り返し、15年には可変バルブシステム(DVT)を装備。併せて電子制御サスを採用するなど進化してきたドゥカティのアドベンチャーモデルがムルティストラーダだ。

鬼才ピエール・テルブランチによって送り出された初代モデルには、よくも悪くもドゥカティのイメージを覆すスタイリングが与えられ、どちらかと言えば異端的に扱われた。 ところが、そのオールラウンダーとしての利便性や快適性が知られるようになると、同社のラインナップに欠かせないファミリーとして定着。今や、このカテゴリーそのものが世界的なブームになっていることもあり、ドゥカティを支える主力モデルのひとつへ成長している。

そんなムルティストラーダの18年モデルは大幅な改良が施された。日本への導入もすでに始まっているため、そのフィーリングをお届けしたい。 まず車名に付く数字が1200から1260になったことからも察せられる通り、排気量がさらに増したことが大きなトピックだ。 1262ccになった水冷LツインはXディアベルに搭載されているユニットと同系であり、それをより高出力&高トルク化。もちろん、DVTも踏襲されている。 ムルティストラーダ1260をSTDモデルとし、現在その上級グレードに当たる1260S、スポーツ性を高めた1260パイクスピークの3モデルをラインナップ。今回は1260Sと1260パイクスピークに試乗することができた。

ポストスーパーバイクになり得るパイクスピーク

まずエンジンの仕様は両モデル共通となる。158ps/9500rpmの最高出力はXディアベルのそれを6ps上回り、1299パニガーレRファイナルエディションというスペシャルモデルを除けば、現行のLツインエンジン中、もっともパワフルなスペックに到達。そこにDVTがもたらすフレキシビリティも加わるため、さまざまな面で一歩抜きん出た完成度を誇っている。 また、車体のディメンションにも共通に改良が施されている。1200よりもキャスター角は1度寝かされて25度になり、トレール量は5mm増大。スイングアームの設計は全面的に見直され、こちらは1200に対して48mmも延長されるなど、大きな違いがそこにはある。

端的に言えばハンドリングが穏やかな方向に振られたわけだが、まったりとは意味が異なる。特に1260パイクスピークは荒れた路面でも常に車体のスタビリティが保たれ、スロットルを開けることをためらわせない。大らかさがアグレッシブな走りを可能にしているのだ。 きめ細やかなセッティングを可能にするオーリンズ製のサスペンションやマルケジーニ製の鍛造アルミホイール、テルミニョーニ製のカーボンマフラーといった専用パーツもそうしたハンドリングに貢献。1260Sに対して6kg軽くなった車重は、その数値以上に体感しやすく、車体がグラリとリーンするような場面でも、1260パイクスピークならヒラリ。そう表現しても差しつかえないほどの軽やかさがあった。

パイクスピークの魅力は優れたスタビリティがもたらす路面追従性の高さだ。荒れた路面でも挙動の乱れは最小限に抑えられ、スロットルを開け続けられるのは車体の軽さとサスペンションによるところが大きい

キャスター角の変更やロングスイングアームの採用に伴い、ホイールベースは1200よりも56mm広がっている。にもかかわらず、車体はむしろコンパクトに感じられるほど一体感は高く、歴代のモデル同様、車名に偽りはない。 そう、個人的にも過去数度参戦してきたが、パイクスピークとはアメリカで開催されているヒルクライムレースの名から取ったものだ。路面状況も天候も刻々と移り変わるこの競技でムルティストラーダは無類の速さを発揮。過去4度の優勝を誇っているが、そのノウハウがこの新型には余すところなく盛り込まれていることが分かる。 その意味でレーサーレプリカに近い存在であり、パニガーレを筆頭とするスーパーバイクに思いを残しつつもセパレートハンドルは遠慮したい。そんなライダーのニーズにも応えてくれるのが、この1260パイクスピークというモデルだ。 決してリーズナブルとは言えないが、それだけのポテンシャルを秘めていることは間違いない。

上質さへの演出が光る1260Sは所有する喜びがある

Sのハンドリングはアドベンチャーツアラーらしく、穏やかそのもの。ライディングモードがなんであれ、乗り心地は上質で神経質な挙動は微塵もない

それでは1260Sはどんなモデルかと言えば、こちらは明確に快適性が重視されている。 13年のマイナーモデルチェンジの際に採用された「ドゥカティ・スカイフック・サスペンション」はさらに進化。ライディングモードに応じて減衰力が自動的に変化するセミアクティブ機能がより緻密になり、それをセットアップする時の操作性やグラフィックも劇的に向上するなど、上質さへの演出が光る。

ライディングモードの内訳は、スポーツ/ツーリング/アーバン/エンデューロの4モードが設定され、それを切り換えるごとにエンジンのレスポンスや最高出力、トラクションコントロールなどの介入度が即座に変化。ここまでは1260パイクスピークでも同様だが、既述の通り、1260Sには減衰力の強弱がそこに加わり、アーバンならサスペンションがしなやかに動いて乗り心地が優先され、スポーツなら高荷重にも対応するなど、走行中もその変化を楽しむことが可能だ。

もっとも日本の道路環境や制限速度の中ではアーバン一択でも不満がないほどエンジンには余裕があるが、そうした懐の深さも含めて1260Sには所有する喜びがある。 同じエンジン、同じ車体にもかかわらず、ここまでキャラクターが異なるのは見事だ。スポーツを楽しむか、冒険の旅に出るか。それぞれの目的ははっきりしているため、モデル選びに迷う必要はない。

DUCATI MULTISTRADA 1260 PIKES PEAK/S(ドゥカティ・ムルティストラーダ1260 パイクスピーク/S) ディテール

共通

5インチの大型フルカラーTFT液晶ディスプレイを標準装備(STDモデルはLCD液晶)。情報量は多岐に渡るが優れたグラフィックにより、視認性は高い
快適性や利便性のための装備は多くが共通する。走行中はギヤのアップもダウンもクラッチレバーの操作が不要になるクイックシフト、無段階で高さを調整できる可変式スクリーン、クルーズコントロールなどを標準装備。ボッシュ製のIMUによって制御されるコーナリングライトやコーナリングABSなども同様だ

MULTISTRADA 1260 PIKES PEAK(ムルティストラーダ1260 パイクスピーク)

前後にオーリンズ製のサスペンションを装備。機械調整式にすることによって軽量化とピンポイントなセッティングを可能にしている

スポーツ性を引き上げるための専用装備を持つ。マルケジーニ製の鍛造アルミホイールはSに対して3kgの軽量化を達成。テルミニョーニ製のサイレンサーやフェンダー、スクリーンといったパーツはカーボンに換装されている。中でももっとも大きな違いはオーリンズ製のサスペンションにある

MULTISTRADA 1260 S(ムルティストラーダ1260 S)

フロントにKYB製のφ48mm倒立フォーク、リヤにはザックスのモノショックを装備し、それぞれを電子制御化。入力に応じて減衰力が自動的に変化する

Specifications:DUCATI MULTISTRADA 1260 PIKES PEAK/S(ドゥカティ・ムルティストラーダ1200 パイクスピーク/S)

エンジン水冷4ストロークL型2気筒
バルブ形式DOHC4バルブ
総排気量1262cc
ボア×ストローク106×71.5mm
圧縮比13対1
最高出力158ps/9500rpm
最大トルク13.2kg-m/7500rpm
変速機6段
クラッチ湿式多版
フレームチューブラースチールトレリス
キャスター/トレール25°/111mm
サスペンションF=φ48mm倒立フォーク
R=リンクレスモノショック
ブレーキF=φ330mmダブルディスク
R=φ265mmシングルディスク
タイヤサイズF=120/70ZR17
R=190/55ZR17
全長/全幅/全高NA
軸間距離1585mm
シート高800-820mm
燃料タンク容量20L
装備重量PP=229kg/S=235kg
価格PP=306万9000円/S=262万5000円

※本スペックは『ライダースクラブ 2018年8月号』掲載時のものです。

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