【Historic Bikes】「THE BEAST」が日本上陸! 6代目となるKTM 1290 SUPER DUKE R その進化に迫る
軽く、速く、強くでも優しく KTM 1290 SUPER DUKE R 「THE BEAST」の異名を持つKTMのスポーツネイキッドがさらに進化し、先頃からリリースが始まっている。大きく分ければ第3世代、小さな改良を含めれば6代目となる新型1290スーパーデュークRがどんな走りを見せるのか? 今回はポルトガルでいち早くそれを体感しているライターの伊丹とライダースクラブ編集長を務める河村との対談形式でインプレッションをお届けしよう。
※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。
KTM 1290 SUPER DUKE R 対談インプレッション
写真左:ライター 伊丹孝裕 二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスのライターとして独立。マン島TTやパイクスピーク、鈴鹿8耐などではライダーとしても活動してきた
写真右:本誌編集長 河村聡巳 今号よりライダースクラブ編集長に就任。以前にも2輪専門誌編集長の経験があり、その時に’14年型1290スーパーデュークRの海外試乗会に参加した
伊丹: KTMの新型スポーツネイキッド「1290スーパーデュークR」の国内販売が始まりました。本誌4月号ではポルトガルで開催された試乗会の模様をお届けしていますが、果たして日本で乗るとどんな印象なのか? そのあたりをじっくりと検証していきたいと思います。河村さんは過去のモデルに乗ってらっしゃるんでしたっけ?
河村:14年に排気量がそれまでの999㏄から1301㏄に引き上げられ、世代で言えば第2世代、マイナーチェンジを含めれば4代目へ進化しましたよね。実はその時、スペインのアスカリサーキットと周辺のワインディングで開催された国際試乗会に参加しています。と言っても、かなり前の話になっちゃいますが。
伊丹: 印象はどうでした?
河村: なんと言っても排気量が排気量でしょう? その前のスーパーデュークは999㏄でもかなり手強かった。そこからいきなり300㏄以上もアップしたわけですから正直憂鬱でしたよ。でもいざ走り出すとエンジンも足周りも車体もすごく穏やかにレスポンスし、驚くほど乗りやすかったことを覚えています。実際、購入しようかどうしようか、かなり真剣に悩みましたからね。
伊丹: その頃は各メーカーから、ストリートファイター的なスポーツネイキッドが一気に登場しました。ドゥカティのモンスターを筆頭に、カワサキのZ1000やBMWのS1000Rなど、スーパースポーツ界と同様にスペック争いが激化。そんな中、圧倒的な排気量差で1290スーパーデュークRが迎え撃つという構図が出来上がり、「さすがKTM」と思った反面、かなりのゲテモノ感もありました(笑)。ところが河村さんが言う通り、意外なほど従順で、これ以降KTMのバイクはどんどん洗練されていった印象です。
The History of SUPER DUKE スポーツネイキッドの最高峰を目指して
950アドベンチャー向けのVツインエンジンを999ccまで拡大し、ストリートファイターに仕立てた990スーパーデューク(’05 年)が最初のモデル。’11 年まではSTD仕様とR仕様の2機種をラインナップしていたが、その後はRに一本化された。’14 年になると排気量が1301ccに拡大されて大きく進化し、その後IMUの搭載やエンジンの改良など着実なアップデートが施された
「速さと扱いやすさがバランスした現在最良のスポーツツイン」 ――伊丹
河村: キスカデザインが手掛けたスタイルは文字通りトガッていて、アグレッシブさの極み。17年のマイナーチェンジの時には、フロントマスクが今のものになって一段と強面になった反面、さらにフレンドリーになったと聞いています。今回、この新型に乗ってみてそれに納得。14年の試乗の時から確実に歳を取り(笑)、レーシングスーツを着るのも久ぶりなのに、なんの違和感なく乗れたことに軽く感動しています。
伊丹: 最初の数ラップこそ探っている感じがありましたが、すぐにペースが上がり始めましたもんね。ストレートなんて短いのに(今回の試乗は筑波コース1000で実施)、普通に全開だったでしょ?
河村: まずエンジンモードをスポーツにしてコースインしました。スロットルがハイスロ気味なこともあって、勝手に右手が開けちゃうんですよ(笑)。加速は当然強烈なんですが、実は出力特性自体はフラットで急激にパワーが立ち上がってくるような狂暴さがない。
これくらい開けたらこれくらい加速するっていう、スロットルとエンジンの関係性が常に一定なので慣れると怖くないんです。これは一番パワフルなトラックモードに切り換えた時も同じでした。
伊丹: 確かにその通りだと思います。新型のエンジンは基本的に従来モデルから踏襲されたものですが、シリンダーヘッドやカムシャフト、クランクケースなどが改良され、燃調もアップデート。パワーもさることながら、トルクの出方がスムーズで低回転域から高回転域までのつながりが格段によくなっています。
1290スーパーデュークRに搭載されているLC8エンジンは1気筒あたり65.5㏄もあって、シリンダー片側でほぼ軽自動車1台分という、あきれるほどのビッグボア。ざっくり言えば、直径がカップヌードルのフタくらいあるピストンが最大1万回転超で上下動しているのと同じ(笑)。
普通に考えると、とてもきれいに燃焼するとは思えないのに、どの回転域でもガサツさがないんですよね。以前、本誌のインプレッションでも書きましたが、まるで800㏄~900㏄前後のミドルツインのようにコロコロと軽やかに回り、ストリートにおけるフレキシビリティは抜群に高いですね。
最高出力は180hpに達しながら、よりフラットな出力特性を得ている。トルクバンドは広く、全域で力強いトラクションを引き出すことができる
「回せばとんでもなく速いものの、よく調教されコントローラブル」――河村
河村: ただ、クランクマスが小さくて軽く回ってしまうからか、トルク「感」の演出はもう一歩といったところ。クラッチをミートした瞬間の回転の落ち込みが思ったよりも大きく、ストップ&ゴーを繰り返す場面では少し慣れが必要でした。
伊丹: それに関連して、クラッチについては僕も気になることがひとつ。この車体にはスリッパークラッチとエンジンブレーキを制御するモータースリップレギュレーション(オプション)が装備されていたのですが、コーナー進入時にエンジンブレーキが長く続くと途中でそれが逃げるというか、スッポ抜けるような症状がありました。調整機構もついているため、単にポン付けするのではなく、しっかりとセッティングする必要があるでしょう。
河村: なるほど。試乗車はおろしたての新車でしたから、そういう影響もあったかもしれません。スタートしてしまえば、後はまったく問題ありませんでした。3000回転も回っていれば十分に力強く、高いギヤでの巡航も楽々。トップギヤ100㎞/h走行時の回転数が3100回転あたりですから、燃費にも期待していいでしょう。
伊丹: 今回、僕はサーキットのみの試乗でしたが街中はどうでした?
河村: エンジンモードはひと通り試しましたが、正直どれを選択しても同じくらい扱いやすくて、同じくらいパワフル。レインでも130hpあるんですよね? サーキットで高回転まで使わなければ、もの足りなさを感じる場面はないはずで、それより印象的だったのはライディングポジションの快適性と足着きのよさ、そしてオートシフターの精度の高さです。
「ビースト」というニックネームとは裏腹になんのプレッシャーもなく、楽しむことができました。あと、意外とウインドプロテクションがよく、ヘッドライトからメーターパネルにかけてうまく整流されていることが分かります。胸に当たる風圧が一般的なネイキッドよりも抑えられていました。ブランクがあるためハンドリングに関しては正確なことが言えないのですが、そのあたりはどうなんでしょう? 個人的にはエンジン同様、とても穏やかな印象を受けました。
スペックだけでなく、利便性にも優れる
スーパースポーツ並のハイスペックが与えられている一方、ストリートでの使い勝手にも配慮されている。ワイヤータイプのヘルメットホルダーがタンデムシート下に収納されている他、USBポートを装備。必要な車載工具もコンパクトにまとめられている
リヤサスペンション本体の改良に加え、スーパーデュークR史上、初めてリンクを採用。路面追従性と乗り心地が飛躍的に向上している
伊丹: 今回のモデルチェンジで特筆すべき点がまさにそこですね。エンジンはアップデートバージョンですが、フレームやサスペンションに従来モデルとの共通点はなく、まったく白紙の状態から設計されたもの。メインフレームはより直線的に、より太くなって、見た目にも剛性が高められているでしょう? 実際ねじり剛性は3倍もアップし、クロモリパイプの取り回しがシンプルになった分、2㎏の軽量化にも成功しているそうです。
河村: その変化をどういう挙動から感じ取ればいいのでしょう?
伊丹: まずストリートでは車体をリーンさせる時の軽さが体感しやすいかと。これはフレームのメインパイプ部分を見ても分かる通り、かなり低重心になっています。その分、ヒラヒラと動かせるわけですが、低いだけだとフルバンクや高荷重域の運動性がスポイルされますよね?それを補うためにエンジンの搭載位置を少し上げることでバランス。また、今回エンジンそのものが剛性メンバーに加わり、車体の動きがよりダイレクトになっています。
河村: なるほど。低速域の軽さと高速域の安定性を両立しているというわけですね。サスペンションに関しては、加減速に合わせてよく動いてくれた気がしました。
伊丹: その通りです。主にリヤサスペンションに大きな変更があり、新しくリンクが採用されています。先程、ダイレクトという言葉を使いましたが、KTMはオンロードモデルでもオフロードモデルでもあまりリンクを使わず、路面からのインフォメーションを間引くことなくライダーに伝達できる構造を好んできました。ただ、180hp級のパワーになるとそろそろ次のステップを考える必要が出てきたのかもしれません。KTMはあまりPRしないのですが、リンクと同時にスイングアームも刷新され、乗り心地やライントレース性は明確に向上しています。
河村: 確かに車体の動きがしなやかで、路面の凹凸がほとんど気になりませんね。普通のスーパースポーツなら突き上げを感じるようなギャップも軽くいなしてくれるイメージで、そのあたりの挙動も穏やかな印象に関係しているようです。
伊丹: スーパースポーツのスペックに憧れはあってもとても使いこなせそうにないし、普段はストレスなく街乗りを楽しみたい。そういうライダーは結構多いと思うのですが、新型1290スーパーデュークRはドンピシャで応えてくれるはず。抜群に高いコストパフォーマンスを持つ、オールラウンドスポーツバイクとして注目すべき存在です。
伊丹孝裕のKTM 1290 SUPER DUKE R『〇と×』
乗っている時に好印象なのは、5インチの大型TFTディスプレイだ。表示される各種情報は整理されていて見えやすく、巧みなスイッチの配列のおかげもあって直感的に操作できるところが○。一方、気になるのはエンジンブレーキの逃がし方で、時折唐突に効力が変化。スロットル全閉でコーナーへ進入している時に減速感が抜けるような症状が幾度かあった。
河村聡巳のKTM 1290 SUPER DUKE R『〇と×』
シートは前方が絞り込まれ、角が滑らかに削られている。表皮も好みのグリップ感で〇。足着きは、身長166cm/体重60kgの僕で両足のかかとが少し浮く程度で、親指の付け根までしっかりと接地するので踏ん張れた。気になったのはウインカースイッチの節度の無さ。スペース的に仕方ないのだがスイッチそのものが小さく、操作した感がやや乏しい印象だった。
Column アクセサリーも充実
Tech Pack選択時の使用可能電子デバイス一覧
オプションの「TechPack」(12万8290円)を追加するとライディングモードのメニューが増える他(トラック/パフォーマンス)、クイックシフターなどの電子デバイスが有効になる。