最良のスポーツツインとは?その解答がココにある|KTM 1290 SUPER DUKE R
「THE BEAST」の異名を誇る1290スーパーデュークRがフルモデルチェンジを受けて誕生。もうすぐ上陸を果たす。そのパワーとハンドリングを本誌テスターの伊丹が体感してきた
PHOTO/KTM TEXT/T.ITAMI
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※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。
スパルタな試乗会の果てに見えてきたもの
2019年のEICMAで発表されたKTMのスポーツネイキッド、新型1290スーパーデュークRに試乗してきた。舞台はW SBも開催されているポルトガルのポルティマオ・サーキット(正式名称はアウトドローモ・インターナショナル・ド・アルガルベ)と、その近郊のワインディングである。
印象的だったのは試乗スタイルで、「四の五の言わずにとにかく走ってこい!」というもの。サーキットでは3時間の中に6本の走行枠が設けられ、ピットインしてもほとんど休む間もなく、追い立てられるように再びコースイン。本誌でもお馴染みのジャーナリスト、鈴木大五郎と参加してきたのだが、「これってなにかの訓練だっけ?」とふたりで顔を見合わせるほど、軍隊的なタイムスケジュールが組まれていた。
ワインディングに場所を移してもそれは同様で、基本的にアベレージスピードが高いヨーロピアンメーカーの試乗会の中でもKTMは群を抜く。しかも、開発スタッフ自らが先導を買って出るのが普通で、抜群に高いスキルを見せつけるようにして走りに走る。そこには「どうだ、これが俺たちのバイクだ!!」という自信が溢れ、こちらのテンションもどんどん上がっていくのだ。
言い方を変えると、スロットルを開けていないとストレスが溜まるバイクだと思うかもしれない。
しかし実際は真逆だ。自由自在に、そしてイージーに操れるからこそ、どこでも右手をひねりたくなる。1290スーパーデュークRは、そういうバイクに仕上がっていた。
スーパーデュークの歴史は、05年に登場した990に端を発する。幾度かのモデルチェンジ経て、14年に車名の数値が1290へアップ。実際の排気量はそれよりもさらに大きい1301㏄まで拡大され、この新型に引き継がれている。
本誌前号の2気筒特集では19年型1290スーパーデュークRに乗り、年次改良によって進んだ扱いやすさを高く評価した。「完璧に躾られているビッグボアの爆発力」と題したショートインプッレションをお届けしたわけだが、この最新型はそれをさらに凌駕。スムーズの極みとも言える、まろやかな過渡特性が与えられていたのだ。
既述の通り、エンジンの基本設計自体はそのままながらシリンダーヘッド、カムシャフト、燃調、クランクケース(そのままと言いながら、ここだけで800g 軽くなっている)といったパーツを見直した上で、エアボックスやエキゾーストといった吸排気系パーツを最適化。最高出力の発生回転数は9750rpmから9500rpmに下がり、最大トルクは7000rpmから8000rpmに上がっている。
スペック上の数値は微増微減といったところではあるが、体感的には大きく違う。とりわけ低回転域では800〜900㏄クラスのVツインのようにコロコロと軽やかに回り、ビッグボアエンジン特有のガツガツとした強烈な爆発トルクがない。これはもちろんポジティブな評価で、そのおかげでコーナーからの立ち上がり加速や街中のストップ&ゴーをストレスなく楽しむことができる。
秀逸なのは、きっちりとパワーも出ているところだ。持っているはずのパフォーマンスを単に抑えつけているのではなく、ライディングモードのレベル(レイン/ストリート/スポーツ/トラックがある)を引き上げ、必要に応じてトラクションコントロールやウイリーコントロールの介入度を下げていけば、5速、あるいは200㎞/ h近い領域からでもフロントタイヤがフワリと路面から離れようとする。
緻密な作り込みが伺えるのは、それを恐怖心なく楽しめることだ。パワーがあっても暴力的に溢れ出てくる特性ではこうはいかない。
さて、新型1290スーパーデュークRの本領はここからだ。エンジンだけを見れば熟成が進んだビッグマイナーチェンジといったところだが、車体はすべて刷新されていることが分かるだろうか。
特にメインフレームの意匠はまったく異なり、クロモリの丸パイプが可能な限りシンプルな構成で組み合わせられている。結果的に、ねじり剛性は従来モデル比で3倍に向上。それでいて2㎏の軽量化も実現し、低重心化も進められた。
長円状だったクロモリパイプのメイン部分はシンプルな円形になり、剛性のアップと軽量化、低重心化に貢献。サブフレームはアルミと強化プラスチックから成り、こちらも大幅に軽くなっている
パイプによるトレリス構造から強化プラスチックの複合材に変更されたサブフレームや、5㎜上がったピボット位置、剛性が15%向上したスイングアーム……といった部分の改良も大きいが、メインフレームに次いで印象的だったのが、リヤサスペンションに設けられたリンクだ。
ダイレクトなフィーリングを好むKTMの開発陣は、オンロードモデルもオフロードモデルもリンクレス構造を採用することが珍しくないものの、スーパーデューク史上、初めてリンクを採用。この効果は高く、接地感の掴みやすさとギャップの収束性に大きく貢献。新型があらゆる場面で見せるスロットルの開けやすさも、このリンクが無関係ではない。
ポジションが選べるハンドル位置や角度調整が可能なディスプレイなど、よりライダーフレンドリーに生まれ変わった一方、チタンのフルエキゾーストやアルミ削り出しのステム、一体感を高めるためのレーシングステップといったパフォーマンスパーツももちろん用意。乗り手の好みによって、いかようにも変貌する懐の深さが魅力だ。
KTMのさらなる躍進がここから始まろうとしている。
エンジン | 水冷4ストロークV型2気筒 |
バルブ形式 | DOHC4バルブ |
総排気量 | 1301cc |
ボア×ストローク | 108×71mm |
圧縮比 | 13.5対1 |
最高出力 | 180ps/9500rpm |
最大トルク | 14.28kg-m/8000rpm |
変速機 | 6速 |
クラッチ | 湿式多板 |
フレーム | クロモリ鋼管製スペースフレーム |
乾燥重量 | 189kg |
装備重量 | 198kg(ガソリンレス) |
キャスター/トレール | 25.2°/106mm |
サスペンション | F : WP製APEX48 R : WP製APEXモノショック |
ブレーキ | F : φ320mmダブルディスク R : φ240mmシングルディスク |
タイヤ | F : 120/70 -17 R : 200/55 -17 |
軸間距離 | 1497±15mm |
シート高 | 835mm |
ガソリンタンク容量 | 16ℓ |
価格 | 217万9000円 |
日本導入時期 | 2020年4月頃 |
※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。