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スーパースポーツ界のオールラウンダー|BMW S1000RR M Package

2009年に初代モデルがデビューし、「4気筒エンジン=日本製」というイメージに真っ向勝負を挑んできたのがBMWのS1000RRである2019年にフルモデルチェンジを受け、もともと高かったフレキシビリティがさらに向上そのパフォーマンスをあらためて検証してみよう

PHOTO/S.MAYUMI, K.OHTANI, BMW TEXT/T.ITAMI
取材協力/BMWジャパン 70120-269-437 
https://www.bmw-motorrad.jp/

※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。

スピードを大幅に引き上げながらフレンドリーさも忘れていない

ちょうど1年前の本誌で、BMWの新型S1000RRの試乗記をお届けしている。小川編集長がポルトガルのエストリルサーキットでそのパワーとハンドリングを体感。生憎の雨模様だったが、そのことが電子制御の進化を際立たせることになった。

ところがその後の導入が思いのほか遅れ、日本の環境下における印象を伝える機会を逸していた。デリバリーがスムーズになり、兄弟モデルのS 1000 XRも新型になった今、あらためてそのインプレッションをお届けしたい。

スーパースポーツのカテゴリーでは特にそうだが、バイクの性能で重要視されるのは「加速」・「減速」・「旋回」の振る舞いだ。この数年の間に体感したモデルの中、スロットルを開け切れないほどのパワーをみせたのがドゥカティのパニガーレV 4Sで、300km/hオーバーからいとも簡単に、しかも驚異的なスタビリティで車速を落としてみせたのがBMWのHP4レースだった。

つまり、加速ナンバー1はパニガーレV4S、減速のそれはHP4レースというのが自分の中のランキングだった。では旋回は? と聞かれるとこれがなかなか難しい。コーナーといっても速度域やレイアウトはさまざまで、RSV4 1100が秀でている場合もあれば、GSX‐R1000Rが上回る部分があるなど、一概には言えないからだ。

そんな中、あらゆるシーンで高い旋回力を披露してくれたのが、この新型S1000RRである。

コーナリングがいいと聞けば、そこにスパルタンなイメージを抱くかもしれないが、S1000RRは終始フレンドリーだ。

まずなによりライディングポジションが優しい。824mmのシート高自体は特別低くないものの、燃料タンクの後端部分は絞られ、足着き性は良好だ。しかもハンドル切れ角も十分確保され、Uターンにも過度なプレッシャーはない。

従来モデルと比較すると燃料タンクやシートまわりはナローになった。とはいえ、スーパースポーツの中ではゆとりがあり、座り心地も良好だ
従来モデルと比較すると燃料タンクやシートまわりはナローになった。とはいえ、スーパースポーツの中ではゆとりがあり、座り心地も良好だ

こうしたユーザビリティの高さは、軽量化と低重心化、そしてしなやかなハンドリングを目的に開発されたフレックスフレームの恩恵による。

真横から見ると「くの字」に曲がり、メイン部材が地面とほとんど平行に配置されているため、見た目には奇をてらった構造に見える。フルブレーキングの応力を受け止められるのかが心配になるほど華奢だ。

もちろん、それはただの杞憂に過ぎない。これまで片側3カ所だったエンジンマウントを4カ所に増やし、エンジン自体を剛性メンバーに加える設計に変更。フレームへの負担が軽減された分、細く軽くすることが可能になり、車体全体のスペース効率が向上したのだ。

そうなると、あとはすべてがプラスに転じる。効率のよさは燃料タンクにもエアクリーナーボックスにも余裕を生み、ニーグリップ部分のスリム化をもたらした他、エンジンの搭載位置を下げることなく、低重心化にも成功している。スーパースポーツに快適性を求めるのはナンセンスであり、ヤセ我慢が美徳。そういう風潮が今も根強くあるが、フレックスフレームがそれらを解決してみせた。BMWらしい技術的なブレークスルーとして、もっと注目されてもいいアイデアだ。

形状&バランスを一新したフレックスフレームを採用

完全新設計のアルミ鋳造フレームは4 つのパーツで構成されている。剛性をよりしなやかなものとし、低重心化と軽量化を実現。特にその重量は1310gも軽減され、スリムな燃料タンク形状にも貢献している

2009
初代モデルはヘッドパイプからスイングアームまでをストレートにつなぐ一般的なアルミツインスパーフレームを採用していた

2019~
フレームのメイン部分が地面に対してフラットに近い角度で配されているのが特徴だ。エンジンマウント箇所は従来モデルより増設された

もちろん、単にフレンドリーだからコーナリングがしやすいと言っているのではない。

BMWの代名詞でもあるフラットツインエンジン搭載モデルやテレレバー装着モデルを体感したことのあるユーザーならよく知っている、あのタイヤが路面に張りつくような接地感と、あっけないほどのリーンの軽さを並列4気筒エンジン&テレスコピックのS1000RRでも再現していることに意義がある。

旋回に必要な入力をしたか、していないかのうちに車体が反応。アッサリと鼻先が曲がりたい方向に向き、だからといっていたずらに俊敏なわけではない、絶妙なリニア感。そこにフレックスフレームがもたらした重心の高さとマスの最適化が色濃く感じられるのだ。

そういう車体の素性を、新エンジンと電子デバイスの熟成がさらに一段引き上げている。

エンジンで語るべきは、もちろんフラットツインで実績のあるシフトカムが採用されたことだ。これによって低速域のトルクと高速域のパワーを両立しているわけだが、その作動精度があまりに高く、自然ゆえ、その技術に気づかないのは皮肉と言えば皮肉である。パニガーレV4Sのエンジンはアイドリングから猛々しさを隠さないものの、S1000RRの207hpは常に静寂の中にある。それほどの違いだ。

207hpを発揮する新設計エンジンはシフトカムを採用

クランクを1.8kg軽くし、全幅も12mm 短縮。’18年以前のモデルに対して劇的に軽量コンパクト化が図られた新パワーユニット。ピストンスカートの裏側にオイルを噴射し、冷却性能も強化された
右が新型のカムシャフトで、左が従来のモノ。スモールカムからラージカムへの切り変わりはシンプルで、スプライン上のゲートに沿ったピンがスライドして行われる
2本のカムシャフトを備え、低回転時はバルブのストロークをショートに、高回転時はロングに切り変える新しい機構「シフトカム」を採用。とはいえ、その可変タイミングは意識してもまったく分からないほど自然だ

もちろんそれはライディングモードによるパワーとトルクの制御、適切なトラクションコントロール、シフトアシスタントプロによるギヤチェンジの(ほぼ)オートマチック化、DDC(電子制御式サスペンション)がもたらすスタビリティの向上……といった電子デバイスのフルサポートがあってこそだ。ライダーが車上で集中すべきはスロットル操作のみ。あながちそれが大げさではない世界が近づきつつある。

MパッケージにもスタンダードにもそれぞれDDC(電子制御式サスペンション)を装備したグレードを用意。ライディングモードに応じて減衰力がセミアクティブで変化する他、自分好みにセッティングすることも可能。プリロードは機械式
MパッケージにもスタンダードにもそれぞれDDC(電子制御式サスペンション)を装備したグレードを用意。ライディングモードに応じて減衰力がセミアクティブで変化する他、自分好みにセッティングすることも可能。プリロードは機械式

BMWの凄みは、性能の高さと価格の高さが比例していないところだ。今回試乗したMパッケージ・DDC装着車は特にそうで、カーボンホイールやクルーズコントロールも標準装備しながら280万円を下回る、驚異的なコストパフォーマンスを実現。走りのパフォーマンスのみならず、販売戦略的にも数多くのライバルを前にして優位に立つ。デリバリーの体制が整った今、BMWの大攻勢が始まろうとしている。

イグニッションをONした時に表れるメーターは左上のものだ。左ハンドルに備わるダイヤルによって、他の3パターンに切り換えることが可能。減速度とバンク角がリアルタイムで表示される(右上)など、さまざまな演出が光る。デフォルト設定されるライディングモードには、ロード/ダイナミック/レース/レインの4パターンがあり、それぞれに応じてスロットルレスポンスやABSの介入度が変化。ユニークな項目として、エンジンの音響(バックファイヤーのON/OFF)もある。右画面はナンバープレートとテールライトを外すなど、一定の条件で起動するサーキット専用のモードだ。トラクションコントロールや減衰力の設定をライダーの好みによって、きめ細やかにセッティングすることが可能だ
イグニッションをONした時に表れるメーターは左上のものだ。左ハンドルに備わるダイヤルによって、他の3パターンに切り換えることが可能。減速度とバンク角がリアルタイムで表示される(右上)など、さまざまな演出が光る。デフォルト設定されるライディングモードには、ロード/ダイナミック/レース/レインの4パターンがあり、それぞれに応じてスロットルレスポンスやABSの介入度が変化。ユニークな項目として、エンジンの音響(バックファイヤーのON/OFF)もある。右画面はナンバープレートとテールライトを外すなど、一定の条件で起動するサーキット専用のモードだ。トラクションコントロールや減衰力の設定をライダーの好みによって、きめ細やかにセッティングすることが可能だ

‵20年モデルは、4機種を販売各機種DDC付となしを選べる

モデルラインナップは、まずスタンダードとMパッケージの2 種があり、それぞれにDDC(電子制御式サスペンション)を装着した上位グレードが用意されている

スタンダード:231万3000円~
スタンダード:231万3000円~
Mパッケージ:272万円~
Mパッケージ:272万円~
スタンダードに対し、Mパッケージはカーボンホイール、軽量バッテリー、スポーツシート、車高調整機構、可変ピボットなどが追加される。価格差を考えるとコストパフォーマンスは極めて高い
エンジン水冷4ストローク並列4気筒
バルブ形式DOHC4バルブ・シフトカム
総排気量999cc
ボア×ストローク80mm×49.7mm
圧縮比13.3対1
最高出力207hp/13500rpm
最大トルク11.5kgfm/10500rpm
変速機6段リターン
クラッチ湿式多板
フレームアルミツインスパー
重量196.5kg(200kg)
キャスター/トレール23.1°/ 93.9mm
サスペンションF=テレスコピックφ45mm倒立
R=リンク式モノショック
ブレーキF=φ320mmダブルディスク
R=φ220mmシングルディスク
タイヤサイズF=120/70 ZR17
R=200/55 ZR 17(190/55 ZR17)
全長/全幅2070/740mm
軸間距離1440mm
シート高824mm
燃料タンク容量16.5L
()内はスタンダード

※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。

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