【Historic Bikes/KTM 690 DUKE/R】電子制御を充実させ中身を刷新。走りを磨いた5代目デューク
量産シングルマシン史上、もっともパワフルなマシン、690DUKEがモデルチェンジスタイリングの変更は少ないものの、エンジンが刷新されさらにパワーアップユーロ4にも対応し、トラクションコントロール、パワーモード等、電子制御も充実走りの実力とともに、安全性、快適性も大幅に高められていた。
PHOTO/KTM TEXT/D.SUZUKI
取材協力/KTMジャパン TEL03-3527-8885 http://www.ktm-japan.co.jp/
※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。
電子制御を充実させ中身を刷新。走りを磨いた5代目デューク
ちょうど良い。あるいはベストバランスなマシンは何か?
もちろん、それは走るシーンやそのライダーの嗜好、技量によって異なってくるものだから、一概に語ることは難しい。
しかし、我が国におけるベストバランス。そして、思いっきりバイクを楽しみたいという気持ちがあるのであれば、690DUKEというチョイスはどうだろう?
その軽量コンパクトな車体は停車状態での取回しから、市街地でのキビキビとした俊敏な動き。そして必要にして十分以上なパワフルさ。また、ツーリングシーンにも対応するなど汎用性が高いながら、サーキットでハードに走らせても音を上げない潜在能力は、それに相応しいマシンといえるのではないだろうか。
しかし、このDUKEがこのような個人的推奨モデルとなったのは、’12年のモデルチェンジからであった。それまでのDUKEはオフロードテイストを強く残したロードモデルであり、ある意味マニアックなマシンだった。それが現行モデルで一般受けするフレンドリーさを身につけた。
その690DUKEがモデルチェンジ。一見すると、従来型と見分けがつかないほどスタイリングの変更は少ないが、中身はそれとはまったく釣り合わないほどの変貌を遂げていた。
まず、KTMが長年愛情を注ぐLC4エンジン。排気量は変わらないが、ボア×ストロークが変更され、それに伴うピストン、シリンダー、コンロッド……だけではなく、クランク、バルブ、クラッチ周りetcと、ほぼすべてを刷新。
また、ビッグボアエンジンに伴う振動の軽減をはかり、バランサーを追加。その結果、量産シングル史上、もっともパワフルなエンジンだったマシンはそのポジションを譲ることなく、さらなる高出力化を実現した。
その印象は、パワフルさはもちろん、スムーズさに磨きがかかった。低回転域はこのエンジンにとって得意なパートではないが、それでも以前のようにガクガクして不快だということがない。そして、そこから一直線に、驚くほど軽快に吹け上がるレスポンスの良さ。
3段階のモード切替えにより、その味わいが変えられるのも面白い。シングルエンジンらしくトラクション性能は高く、トラコンのお世話になるようなシチュエーションはほとんどなかったものの、その精神的な安心感は絶大なものだった。
また、高回転域からのシフトダウン時にはMSRにより、躊躇なく、安全に減速することも可能と、走ることに純粋に夢中になれる。
ハンドリングは実に軽快で、狙った操作にしっかり応えてくれる。軽量、ハイパワーなシングルマシン。とくにモタード系のマシンに感じられた、軽いのだけれど接地感が少ないといったタイヤ頼みな感覚が薄く、安心して旋回性を引き出しやすい。フォークオフセットを減らしたディメンションの変更も功を奏しているのかもしれない。
とくにより軽快でイージーな感覚なのがSTDモデル。低速でのタイトコーナーや切り返しが得意。対するRモデルは、動きのしなやかさはやはり1ランク上ながら、やや荷重設定が高くハンドリングも粘るようなカッチリさが特徴。意外なキャラクターの違いを感じるが、どちらに乗っても感じるのが「軽さは正義だ!」ということ。
重さからくる手応えや味わいが魅力的なマシンも確かにある。しかし、このマシンにはシングルエンジンだからこそ可能となった軽さ、そしてコンパクトさがあり、なんでも出来てしまいそうな自由な走りがあった。背伸びをしすぎない。でも、退屈さは微塵も感じさせない。バランスの良さに磨きがかかった690DUKEである。