【Historic Bikes/MV AGUSTA TURISMO VELOCE 800】軽くてフレンドリーなスポーツツアラー
2013年のミラノショーで発表されたツーリズモ・ヴェローチェ800。このスタンダードモデルにアラン・カスカートが試乗。MVアグスタのツーリングモデルの実力をチェックした。
PHOTO/MIRAGRO TEXT/A.CATHCART TRANSLATION/K.NAKAMURA
ツーリズモ・ヴェローチェの開発について、MVアグスタのCEOであるジョヴァンニ・カスティリオーニは次のように述べています。
「このバイクを作るには、私たちが作り慣れているスポーツバイクと比較して、設計の優先順位を考え直す必要があった。それは居住性、積載能力、エンジンの柔軟性、低燃費、整備間隔の延長など、顧客がツーリング専用モデルに求める要素すべてだ。ムルティストラーダ1200、R1200GS、タイガー・エクスプローラーなどと比較することはできるが、ツーリズモ・ヴェローチェは際立ったパワーウェイトレシオによって、それらと一線を画している。しかも、ビギナーとベテランの両方を対象にしている。これはMVアグスタにとって初めてのことだ。」
もともとF4の4気筒エンジンから開発が始まり、その後3気筒を採用したツーリズモ・ヴェローチェのエンジン(ボア×ストローク:79×54.3mm、排気量:798cc)は、ストラダーレ800やブルターレ800に搭載されているものとは異なり、乗りやすさと低回転トルクに重点を置いて完全に再設計されています。カムシャフトのプロファイルとタイミングが改められ、オーバーラップをほぼ排除。また、ピストンの頭頂部も変更され、半球形に改良されています。
ストラダーレやブルターレでは吸気リフト8.6mm、排気リフト8mmだったカムは、ツーリズモ・ヴェローチェでは吸排気ともに7mmに減少。この変更により、低中回転域のトルクが大幅に改善されました。その結果、最大トルク8.4kg-m(8000rpm)のうち、8.1kg-mが5000rpmで発生し、3000rpmから最大出力が発生する10000rpmまでの間で、その90%を発揮します。
最大出力は、リヴァーレの125hpやストラダーレの115hpより抑えられ、「スポーツ」モードで110hpを発揮。「レイン」モードでは80hp、「ツーリング」モードでは90hp、プログラム可能な「カスタム」モードでは最大110hpを選択できます。
さらに、エンジンのキャラクターに合わせてギアボックスも刷新。各ギア間のレシオが均等化され、燃費の向上を実現しています。オーバードライブの6速により、22リッターの燃料タンクで公称400kmの航続距離が可能です。また、エンジンの柔軟性が高く、トップギアで2000rpmからスナッチ(ガクつき)を起こすことなく全開加速が可能です。
スポーツモードでは、広範囲にわたるトルクカーブが超フラットで、ツイストの多い道を一つのギアでホールドしたまま快適に走行できます。
だが、もっとも利用したいと感じる4,000~9,000rpmが、このエンジンのハッピーゾーンであることは、スポーティーなストラダーレと同様だ。クラッチレスシフトダウンが可能なオートブリッパー付きクイックシフターをフル活用し、この回転域を維持するのがベストだ。
ユーロ4に適合したツーリズモ・ヴェローチェのエキゾーストノートは、以前に比べて明らかに静かになっている。そのため、街中では初採用された油圧式テンショナーによるカムチェーンの音がやや目立つ。しかし、4,000rpmを超えると以前と変わらないサウンドが戻り、イタリア製3気筒エンジンならではの控えめな咆哮を楽しむことができる。
ムルティストラーダなどと比較すると、ツーリズモ・ヴェローチェの動的な魅力は、191kgという軽い乾燥重量と、機敏で疲れにくいステアリングにある。デザイナーのエイドリアン・モートンは、「ツーリングに出かけるために重くて幅広な堂々としたバイクは必要ない」と主張しており、その哲学が設計に反映されている。車体の最大幅は900mmに抑えられており、これはムルティストラーダより80mm、GSより53mmもスリムだ。しかも、この数字はオプションのハードラゲージ(ルッソでは標準装備)込みのもので、バイク単体ではわずか810mmにすぎない。
幸運にも、ストラダーレから引き継がれなかったのは、前寄りでやや奇妙なライディングポジションだ。高い位置に配置され、手前に引かれたハンドルバーは快適なライディングスタンスを実現している。また、パッド付きのシートも快適で、シート高は850mmだが、前端が絞られているため、身長180cmのライダーであれば両足を地面につけることができる。シート上からの見晴らしも良好であり、MVのロゴが入った段差部分が腰のサポートとして優れた機能を果たしている。さらに、ハードラゲージを装着していても、パッセンジャースペースは十分に確保されており、パッセンジャー用グラブレールもデザイン性と機能性を兼ね備えている。
しかし、このバイクの最大の魅力は何と言っても、スムーズでフレキシブルなエンジンだ。ギアや回転数にほとんど左右されることなくコーナーから加速できる。スロットルレスポンスは常にスムーズで予測可能であり、減速時にはエンジンブレーキをしっかり残したスリッパークラッチが、クラッチレスシフトダウンを通じて見事に機能している。
MVアグスタのツーリズモ・ヴェローチェは、その名にふさわしい「速いツアラー」だ。距離を重ねながら経験を積もうとするライダーも含め、多くの人々が、この軽量でライダーフレンドリーな3気筒バイクを自然と受け入れるだろう。