KAWASAKI Z900RS SEを中野真矢が初ライド!
大人気モデルZ900RSの上級仕様バージョン。オーリンズのリアサスペンションに加え、往年のオレンジボールカラーを纏った、このレトロスポーツモデルを、中野真矢がじっくり吟味。はたして、そのファーストインプレッションや如何に!
【中野真矢】
ロードレース世界選手権では’00年にGP250クラスでランキング2位を獲得。MotoGPではカワサキのワークスライダーとして、’04~’06 年の3シーズンを戦い、表彰台に上がった実績を持つ
好バランスのまま、攻めた走りも許容する
最初に強調しておきたいのは、スタンダードのZ900RSは非常に出来がいい、ということだ。公道で一般的なライディングをしている限りでは、何の不満もない。
跨がるとずっしりと重さが伝わってくるし、タンクも大きく、全体的に大柄な印象がある。だが、ひとたび走り出せば、その印象は吹き飛んでしまう。
クセのないハンドリング、素直にレスポンスしてくれるエンジンと、適度なパワー感。見た目のボリューム感とは裏腹に、手の内に収まるようなキュッと引き締まったコンパクトさを感じる。運動性能が優れているバイクの特徴だ。「売れているバイクには、きちんと理由があるものだな」と思う。今の世の中、見た目だけでモノが売れるなんてあり得ない。ネイキッドとして、非常によく仕上げられているからこそ、Z900RSはオールドカワサキファンと現代カワサキファン、その両方に受け入れられているのだろう。
……と、改めて語りたくなってしまうほど出来がいいZ900RSに、オーリンズ製リアサスペンションとブレンボ製フロントキャリパー&ディスク&パッドを装備した、スペシャルエディションモデルとなる「SE」グレードがラインナップされた。
オーリンズとブレンボといえば、まず間違いなく高性能パーツのトップブランドだ。だが、ただこれらを組み込めばいいバイクになるかと言えば、そんなに簡単なものではないことも知っている。
最近のバイクはスタンダードのままでも優れたバランスを備えている。Z900RSは特に出来がいいだけに、いかに高性能パーツと言えども、持ち前の優れたバランスを崩してしまう可能性もある。内心、若干の不安を抱きながらサーキットを走り始めた。
公道では何の不満もないZ900RSだが、サーキットでそれなりにペースを上げていくと、バイクが悲鳴を上げ始める。「これ以上は無理」というサインを感じ、それより先の領域に攻め込むことができない。限界に挑戦するのではなく、その一歩手前で楽しむ、という乗り方だ。
だがSEは、そこからもうワンランク上の走りを目指せる。想像以上に大きな差だ。
最初に感じたのは、ブレーキまわりの素晴らしさだった。ブレーキレバーを握った時、そしてリリースした時のレスポンスが的確で、メリハリの効いたブレーキングが可能だ。
ブレーキをかけた時の効力自体は、スタンダードでもまったく問題がない。だが、ブレーキをリリースした時のフィーリングはSEの方がよい。
この「よい」は、少し説明が必要だ。スタンダードのパッド離れには、ほどよい間というか、タメがある。ほんの少しだけ余韻を残しながらパッドが離れる。唐突さがなく、とても扱いやすいブレーキだと思う。
一方SEのブレンボは、もっとスポーティで、パッドがパッと離れる印象だ。メリハリが付けやすく、僕にはコントローラブルと感じる。より本格的なスポーツバイクを走らせている時のブレーキリリースフィーリングに近い。
また、ブレーキをかけた時のしっかり感も、SEの方が上だ。キャリパー自体の剛性感も高いし、セッティングが変更されているフロントサスペンションがガッチリと制動力を受け止めてくれることもあって、より安心して握り込むことができる。
スタンダードとSEで、ブレーキの違いは明確だった。では、オーリンズ製リアサスペンションはどうだったかと言えば、もちろん明らかな差はあるものの、それはかなり高い領域まで持ち込んだ時にようやく感じ取れるものだった。
具体的には、かなり攻め込んでスロットルを大きく開け、シフトアップしながらコーナーを立ち上がるような場面だ。スタンダードではパワーに耐えきれず、「ウワン、ウワン、ウワン」とリアが大きめに動いてしまう。一方、SEのオーリンズ製リアサスペンションは減衰力が高く、パワーをしっかり受け止める。だから余計な挙動が少なく、安定してコーナーを立ち上がることができる。
減衰力の高さは、フロントサスペンションからも感じられる。減速Gはフロントが、加速Gはリアが、といった具合に前後サスペンションともに常にしっかりとGを受け止めてくれるので、安心してペースを上げることができる。
……とは言っても、これらはサーキットをかなり攻め立てた時の話だ。公道ペースでは、僕には大きな違いは感じられなかった。劇的、と言えるような変化はなく、僕としてはスタンダードもSEも両方オススメすることができる。そしてそこが、SEの素晴らしい価値だと思った。
フロントブレーキシステムにブレンボ、リアサスペンションにオーリンズという高性能パーツを組み込みながら、SEからは違和感というものが感じられないのだ。最初に長々と説明したように、僕はスタンダードZ900RSのバランスは極めて優れたものだと思っているが、それがまったく崩されていないまま、パフォーマンスは引き上げられている。
これは本当に難しいことだ。バイクは、どこかが少しでも突出すればバランスが崩れ、ライダーは違和感を覚える。高性能パーツが組み込まれながらも違和感がないということは、それに合わせて全体の見直しが図られたということ。さすがはメーカーカスタムである。
こういう徹底した作り込みが、Z900RS人気を支えているのだと改めて思う。懐かしさを感じさせてくれる見た目だけでは、こんなに愛されるはずがない。
(中野真矢)
SEはワンランク上の足まわりをセット
エンジン | 水冷4ストローク直列4気筒 DOHC4 バルブ |
総排気量 | 948cc |
ボア×ストローク | 73.4×56.0mm |
圧縮比 | 10.8:1 |
最高出力 | 111ps/8500rpm |
最大トルク | 10.0kgf・m/6500rpm |
変速機 | 6 段リターン |
クラッチ | 湿式多板 |
フレーム | ダイヤモンド |
キャスター/トレール | 25.0°/98mm |
サスペンション | F=Φ41mm倒立フォーク R=オーリンズ製S46/モノショック・ホリゾンタルバックリンク(モノショック・ホリゾンタルバックリンク) |
ブレーキ | F=ブレンボ製4ポッドキャリパー+φ300mmダブルディスク(4ポッドキャリパー+φ300mmダブルディスク) R=ニッシン製キャリパー+φ250mmシングルディスク |
タイヤサイズ | F=120/70ZR17 R=180/55ZR17 |
ホイールベース | 1470mm |
全長×全幅×全高 | 2100×865×1150mm |
シート高 | 810(800)mm |
車両重量 | 215(217)kg |
タンク容量 | 17L |
価格 | 160万6000(149万6000)円 |