青木宣篤インプレッション|TRIUMPH STREET TRIPLE 765 R/SE
豊富な経験に基づいた鋭敏なライディング感性の持ち主である青木宣篤さんが、人気のスポーツネイキッド、トライアンフ・ストリートトリプル765を徹底テスト。サーキットアタックだからこそ感じ取れる直列3気筒エンジンの真価に言及しながら、スタンダードモデルのR、アップグレードバージョンのRSの違いについて解説する。
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/G.TAKAHASHI 取材協力/トライアンフモーターサイクルズ ジャパン TEL03-6809-5233 http://www.triumphmotorcycles.jp/
直列3気筒エンジンの持ち味を存分に引き出す車体まわり
「映画『ミッション:インポッシブル2』のバイクだ」と思った。
今となっては20年以上前の映画だし、トム・クルーズが走らせていたのはトライアンフ・スピードトリプルT509である。
しかし「トライアンフ=2灯式ヘッドライトのネイキッド」という強い印象は、今もなお鮮やかだ。こうして最新モデルのストリートトリプル765R/RSを前にして、異型2灯式ヘッドライトを見るにつけ、トライアンフらしさを感じる。
アクが強いツラ構えであることは間違いないが、誰が見てもトライアンフと分かるという意味では、同社の個性と独自性をアピールする大きなポイントだ。
トライアンフはネオクラシックからアドベンチャーまで幅広いラインナップを持つイギリスのメーカーだが、’19年からモト2へのエンジン供給を開始して以降、スポーツ色を濃くしている。
その代表格が、モト2マシンと同じ排気量と気筒配列の直列3気筒765㏄エンジンを搭載する、このストリートトリプル765だ。
ストリートトリプル765にはRとRS、そしてモト2エディションの3モデルがラインナップされており、今回私が袖ケ浦フォレスト・レースウェイで試乗したのはRとRS。スタンダードなRに対して、RSは上位装備がおごられたアップグレードバージョンとなっている。
まずは、トライアンフの技術的アイコンとも言える直列3気筒エンジンについて言及しておこう。
私は’02〜’03年にかけて、モトGPでプロトンKR3というV型3気筒マシンを走らせていた。また、量産車ではヤマハMT-09にも少々乗ったことがある。
だが、これは恐らく私がレーシングライダーとして長く過ごしてきたためだと思われるが、私自身はエンジンの気筒配列によるフィーリングの違いにはほとんどこだわりがない。それよりも、「どんな出力特性なのか」「ハンドリングにどう影響を及ぼすか」といった具合に、走りを司る重要なパーツとしての実質的な機能性の方が気になる。
そういう意味では、過去に乗った3気筒エンジンからも、今回走らせたストリートトリプル765からも、特有の軽さを感じる。
排気量は車名通り765㏄を有し、立派なミドルクラスではあるが、同程度の4気筒エンジンと比較しても軽快な旋回性を備えているようだ。
私はスズキ・モトGPマシンの開発ライダーとして990㏄から800㏄への変遷を経験しているが、ほぼ同じエンジンブロック、ほぼ同じクランクまわりながら、大幅にコーナリングスピードが高まったことを鮮やかに記憶している。
ストリートトリプル765の直列3気筒エンジンからは、それと同じような印象を受けた。つまり、これは立派なコーナリングマシンではないか、と感じたのである。
765㏄という排気量によるエンジンまわりの質量の小ささが、旋回性能を高め、楽しい操縦フィーリングをもたらしている。異型2灯式ヘッドライトのアグレッシブなデザインを除けば、オーセンティックなネイキッドと言えるストリートトリプル765だが、私はサーキットで思いっ切りコーナリングしてこそ楽しめるバイクだと思った。
快適性を重視したアップライトなハンドルなので、セパレートハンドルのスーパースポーツに比べると、フロントへの荷重は不足気味だ。
しかしこれはストリートトリプル765の固有の問題ではなく、ネイキッドというポジション故の宿命だ。そしてこの2台には、それを補って余りある旋回の喜びが待っている。
より細かく指摘するなら、ストリートトリプル765はフロントの回頭性が非常に高い。ブレーキングからターンインにかけて、バイクの頭がクッと小気味よくインに入ってくれる。これは直列4気筒にはない、並列3気筒ならではのメリットだ。
もうひとつ特筆しておきたいのは、エンジンブレーキの効き具合だ。4ストロークエンジンはシフトダウン時に強大なエンジンブレーキが発生しやすく、車体の倒し込みに際して邪魔をすることが多々ある。
だがストリートトリプル765の直列3気筒エンジンはエンジンブレーキが実によくしつけられており、ほどよく前後タイヤともにを引っ張るようにしながら路面に押しつけてくれるのだ。
エンジンブレーキが過剰にならないよう配慮しつつも、適度な制動力を意図的に発生させているようで、フィーリングも自然だった。これは「有効なエンブレ」だ。
さて、スタンダードなRとアップグレードバージョンのRSには、30万円の価格差がある。大きな違いは、エンジンの馬力とサスペンションだ。
エンジンはRが120㎰で、RSは130㎰。サスペンションは前後で組み合わせが異なり、RはフロントがSHOWA製SFF-BP(セパレートファンクションフォーク-ビッグピストン)で、リアもSHOWA製。RSはフロントがSHOWA製BPF(ビッグピストンフォーク)で、リアはオーリンズ製だ。
Rに対して10psアップとなる130psを叩き出すRSのエンジン。そのパワーは全域にけるドライバビリティの向上に充てられており、実質的な速さをもたらしている。フロント・ショーワ製、リア・オーリンズ製サスペンションとの相性も抜群だ
まずはエンジンだが、ズバリ、面白かったのはRの方だった。RはRSに対して10㎰少ない分、主に低回転域のパワーが薄く感じるが、逆に高回転域にかけては跳ね上がるような加速フィールがある。「ピーキー」とも言えるかもしれないが、私はエキサイティングな刺激だと感じた。急勾配でパワーが盛り上がるフィーリングは、とても楽しい。
一方のRSは、10㎰の上乗せ分を8000rpm以下の低中回転域に振り分けているようだ。うまく全域でパワーが盛られており、谷もなく、ドライバビリティは優れている。
実質的な速さは確実にRSの方があるから、もしレースで使うなら迷わずRSを選ぶ。ただし、胸のすく加速感はRの方が上。日常的に走りを楽しむなら、Rも十分にアリだ。
このエンジン特性は、2モデルをチョイスする上での大きな分岐点になりそうだ。エキサイティングなフィーリングを求めるならR、実質的な速さを求めるならRS、ということになるだろう。
そしてサスペンションに関しては、RとRSの間にエンジン以上の差が感じられた。正直なところ、Rだけ乗っている分には特に不満を感じることはなかった。Rの前後SHOWA製サスペンションは実によく機能しており、スポーツネイキッドというカテゴリーのバイクとしては、秀逸な出来栄えと言える。しかしRSは、足まわりのグレードがワンランクよりさらに上に感じるのだ。
RSのフロントフォークに採用されているSHOWA製BPFの狙いは、フォークの動きが極低速時でも、きちんと減衰力を発生させることだ。
なお、ここでの「極低速」とは実車速のことではなく、あくまでもフォークの動きのこと。具体的には、旋回時などそれほど極端にフォークが動かないシチュエーションでも適切な減衰力を発生するので、しっとりとしたフィーリングとともに高い接地感と安心感が得られる。
さらに、リアのオーリンズ製STX40との相性も非常にいい。これは単に「オーリンズを付けておけばいいだろう」とポン付けしただけではなく、きちんとセッティングが施されていることを証明している。
これは実はかなり重要なポイントだ。有名ブランドのハイエンドパーツを組み付けていながら、大してセッティングされていないが故に、十分なパフォーマンスが得られていないバイクという残念な例は、しばしば見られるものだ。
だがRSのフロント・SHOWA、リア・オーリンズというサスペンションは、きっちりとセッティングが練り込まれており、前後バランスも良好だ。このサスペンションからは、トライアンフというメーカーの良心を大いに感じ取ることができる。
ちなみにRとRSではフロントブレーキキャリパーにも違いがある。両モデルとも同じブレンボ製の4POTラジアルモノブロックキャリパーだが、RはM4・32、RSは冷却性や軽量性に優れたスタイレルだ。
モビリティリゾートもてぎほどの高速コースになってくると、ブレーキにも高い冷却性が求められるので多少の差が出てくるかもしれないが、今回テストした中低速コースの袖ケ浦フォレスト・レースウェイでは、差は感じられなかった。
ストリートトリプル765R/RSは、サーキットでも十分にスポーツライディングが楽しめるネイキッドに仕上がっていた。このカテゴリーを選ぶ時点で、用途の9割は街乗りだと思う。しかし、残り1割のサーキット走行を妥協なく堪能したい欲張りなライダーにこそ、お勧めしたい出来栄えである。
両モデルのコンセプトに合ったパーツ構成と言えるでしょう
エキサイティングな刺激なら「R」が1歩リードしている
- エンジン:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4 バルブ
- 総排気量:762cc
- ボア×ストローク:78×53.4mm
- 圧縮比:13.25:1
- 最高出力:120ps/11500rpm(130ps/12000rpm)
- 最大トルク:80Nm/9500rpm
- 変速機:6 速
- クラッチ:湿式多板、スリップアシストクラッチ
- フレーム:アルミ製ツインスパー
- キャスター /トレール:23.7(23.2)°/97.8(96.9)mm
- サスペンション:F=SHOWA製φ41mmセパレートファンクション倒立式フォーク/ビッグピストンSFF-BP(SHOWA製41mm倒立式ビッグピストンフォークBPF)
- R=SHOWA製フルアジャスタブルモノショック(オーリンズ製STX40モノショック)
- ブレーキ:F=ブレンボ製M4.32 4ピストンラジアルモノブロックキャリパー+φ310mmダブルディスク(ブレンボ製stylema4ピストンラジアルモノブロックキャリパー+310mmダブルディスク)
- R=ブレンボ製シングルピストンキャリパー+φ220mmシングルディスク
- タイヤサイズ :F=120/70ZR17 R=180/55ZR17
- 全幅×全高:790×1045(1065)mm
- ホイールベース:1400mm
- シート高:826(836)mm
- 車両重量:190(189)kg
- 燃料タンク容量:15ℓ
- 価格:119万5000(149万5000)円
( )内はRS