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【いじればバイクの動きが変わる、ハマるサスペンションセッティング】平嶋夏海がG senseの試乗セットアップを体験!

“サスペンションセッティングは効果大”とは聞くが、その効果を味わった人は少ない。そこで平嶋夏海さんが、G sense舟橋 潤さんによるセッティングを実体験。使用したマシンはホンダCBR600RR。傑作との呼び声の高い完成度に秀でる1台だが、セッティング後の走りは、大変化を遂げていた。

PHOTO/Y.OKUZUMI, K.ASAKURA TEXT/K.ASAKURA

取材協力/本田技研工業 
0120-086-819 https://www.honda.co.jp/motor/
G sense 
TEL045-567-8525 http://gsense.jp/

セッティングの違いは誰でも必ず感じられる

サスペンションセッティングを行うことで、どれだけ走りが変わるのか? その効果を知るには、体験するのが一番だ。ここでは一般ライダー代表として平嶋夏海さんに登場してもらい、サーキットでCBR600RRを使用し、ノーマルセッティングと、平嶋さんに合わせたセッティングの状態を乗り比べてもらい、その違いを体感してもらった。

サスペンションセッティングを行ってくれたのは、サスペンションのスペシャリストG sense代表の舟橋潤さん。同店では「試乗セットアップ」というセッティングサービスを提供しており、ユーザーから好評を博している。試乗セットアップで舟橋さんが手掛けてきた車両の数は、ゆうに1000のオーダーを超えているという。プロの手によるセッティングで、走りがどれだけ変わるのか? これは注目せざるを得ない。

まずは平嶋さんがノーマル状態のCBR600RRに乗り、ベースとなる足まわりの状態を確認。このあとすぐにセッティングに移るのかと思いきや、舟橋さんは平嶋さんにいくつかの質問を始めた。もちろん、ノーマルサスペンションの感想も聞くのだが、それよりもバイクライフ全般に関してのインタビューのようだ。その内容は、年齢や身体的なデータ、これまで乗ってきた車種、どんなスタイルでバイクを楽しんでいるかなど……。この情報は、セッティングに役立つものなのか? そう、舟橋さんに問うてみた。

フロントフォークは、スプリングのプリロード、圧側/伸側の減衰力調整が可能なフルアジャスタブル。プリロードのアジャスターはフォークボトムにあり、圧側/伸側の減衰力アジャスターはトップキャップ上に設けられている。調整には工具が必要だが、作業性はかなり良好なのでセッティング作業はやりやすい
フロントフォークは、スプリングのプリロード、圧側/伸側の減衰力調整が可能なフルアジャスタブル。プリロードのアジャスターはフォークボトムにあり、圧側/伸側の減衰力アジャスターはトップキャップ上に設けられている。調整には工具が必要だが、作業性はかなり良好なのでセッティング作業はやりやすい
リアショックもフルアジャスタブル。プリロードは10段階で調整できる。伸側減衰力アジャスターはショックユニットのエンドアイに設けられ、圧側減衰力アジャスターはボディのリザーバータンクの根本にある。減衰力アジャスターは伸/圧共に無段階調整式
リアショックもフルアジャスタブル。プリロードは10段階で調整できる。伸側減衰力アジャスターはショックユニットのエンドアイに設けられ、圧側減衰力アジャスターはボディのリザーバータンクの根本にある。減衰力アジャスターは伸/圧共に無段階調整式

「試乗セッティングは、必ずオーナーさんからの聞き取りからスタートします。セッティングの方向性に、具体的な要望がある方ばかりではありません。なんとなく〝今より良くなればいい〞という方もいらっしゃいますし、バイクの症状を言語化できない人もいます。そういった皆さんの要望を探り出すには、その人のライディングスキルや、バイクに何を求めているかを知る必要があります。セッティングは、その人のためだけのものですから」

なるほど、これは究極のオーダーメイドサービスだ。平嶋さんからの聞き取りを終えると、いよいよ舟橋さんの試乗がスタート。ただ全開で攻めるわけではなく、さまざまなアクションを加え、ノーマルのセッティングの挙動を確認しているようにも見えた。

G senseの「試乗セットアップ」は、対象となるオーナーへのインタビューから始まる。乗り手を理解することで、その人に合ったセッティングを導き出す。上は、試乗セットアップで使用されるセッティングチャート。仕様や試乗時のデータが書き込まれる。作業終了後にオーナーに手渡され、G senseでもカルテとして保管されている
G senseの「試乗セットアップ」は、対象となるオーナーへのインタビューから始まる。乗り手を理解することで、その人に合ったセッティングを導き出す。上は、試乗セットアップで使用されるセッティングチャート。仕様や試乗時のデータが書き込まれる。作業終了後にオーナーに手渡され、G senseでもカルテとして保管されている

しばらく走り込むと、感触を掴んだようでピットイン。前後ともスプリングのプリロードを強め、併せて減衰力も高めて再度コースイン。周回を重ね再度ピットインした時には、メカニックにフロントフォークの伸側減衰のみを少し強めるように指示。そのセッティング変更後、確認のための走行を終えた舟橋さん。平嶋さんに、セッティングの変更内容を平嶋さんに説明してから、「走らせてみてください」と告げて、平嶋さんをコースへと送り出した。

サスペンションの専門家であるわけだから、作業の手際が良いのは当然だとしても、セッティングの方向性を決めるプロセスに一切の迷いが感じられないことに驚かされる。今回は、純正装着されたサスペンションの調整範囲内で可能なセッティングをお願いしたわけだが、調整の工程はあまりにシンプルで、呆気ないほどだ。CBR600RRは、一体どれだけ変わっているのだろうか?

走行を終えての、平嶋さんのコメントはこうだ。

「〝硬くした〞とお聞きしたので、ガチガチの足まわりだったらどうしよう? と、少し不安を抱えて走り出したのですが、全然そんなことはありませんでした。確かに柔らかくはないのですが、しなやかという印象で硬いとは感じません。細かい路面の様子が、明確に伝わってくるようになったので、最初のうちはギャップに乗った時に驚いてしまったくらいです。ですが慣れてくると、路面状況をしっかりと掴める分、自信を持って攻めていけるようになりましたね。あと、リアの旋回性が強まったと感じます。比べると、ノーマルのセッティングの曲がり方は〝グイッ〞。セッティングしてもらった後は〝グイーッ!〞と、強力に向きが変わっていくフィーリングです。ヘアピンカーブで違いが出ましたね。マシンが向きを変える力が大きいので、キツいコーナーがよりスムーズに抜けられるようになりました」

そして、こう続けた。

「安心感が高いというか、マシンの限界はもっと高いところにあるんだから、もっと攻めても大丈夫だって確信が持てる足まわりなんですよ。もっと攻めたい! マシンのパフォーマンスを引き出したいって思っちゃいました!」

舟橋さんは、メカニックに作業を指示しつつ、走行の所感やセッティングのデータを逐次記録。CBR600RRのサスペンション調整に必要な工具だけでなく、エアゲージやスケール、路面温度計も使用。作業を担当してくれたG senseの佐藤道夫さんは、国際ライセンス所有のレーシングライダー

平嶋さんは〝楽しい!〞という言葉を連発。取材が行われたのは、暑かったこの夏きっての猛暑日。体調を心配してピットインを促しても、〝大丈夫〞と手を振って走り続けていた。それほど走ることが楽しくて仕方がなかったようだ。

いったい舟橋さんは、どのようなマジックを使ったのだろうか?

「CBR600RRは非常に良くできたバイクですし、ノーマルのセッティングも高いレベルでまとめられています。ですが、ノーマルのセッティングは、やはりストリート前提に設定されたものなんです。ライダーのスキルにもよりますが、サーキットを攻めるのであればプリロードも減衰力も高めた方が良い結果を得られることが多いでしょう。

自分が走る前に、平嶋さんの走りを見せてもらいましたが、ライディングスキルも、スポーツライディングに対する向上心も高い。攻められるセッティングの方が相応しいと判断して、硬めのセッティングを提案しました。サーキットは路面がキレイで均質ですから、路面からのインフォメーションを増やした方がいい。旋回性が上がったのはリアのプリロードをかけて、リアの車高を高く保つようにしたからです。車体姿勢はもっとリア上がりでも良いかもしれませんが、本来は車高調整機能で行うべきことです。プリロードだけで車高を上げようとすると弊害が出てきますから、ほどほどのところに納めました。狙った通りのコメントをいただけて良かったです(笑)」

さすがの手腕だ。サスペンションセッティングに悩んでいるのなら、プロの手を借りるのは有効な手段だ。G senseにマシンを持ち込めば、基本的にお任せで、自分仕様のセッティングを仕上げてくれるのだから。とはいえ、それだけではつまらないし、舟橋さん自身、自ら仕上げたサスセッティングが、絶対的な正解ではない、と言切っているのだ。
「サスペンションのセッティングは、本当に個々によって異なるものですし、ベストと思われたセッティングであっても、恒常的に最適解であり続けることもありません。極端な話をすれば、朝には快調に走れていたセッティングが、その日の夕方に違和感を感じることだってあります。一日走っていれば、朝と夕方では体力が違いますよね? 体調の変化などの乗り手の状況次第で、サスペンションの働きに求めるものは変わってきます。

今回のようにサーキットであれば、ストリートのように路面の状況がコロコロ変わることはありませんが、天候次第でコンディションはどんどん変わる。当然、ベストなサスセッティングも変わってきます。セッティングは流動的なものなんです」

ならば、ベストなサスペンションセッティングを求める行為は無意味なのかというと、決してそうではない。一度ベースとなるセッティングを決めることができたのなら、状況に合わせた小さな調整だけで、ことが足りることは多いのだ。何より、自分に合った自分だけのベストなセッティングでの走りを経験すれば、それがどれほど素晴らしいことが理解できるはずだ。

確かに、メーカーがテストを重ねて作り上げたセッティングは間違いなくハイレベルだ。だが、それはあくまでも万人に向けられた最大公約数と言える。もしそれがあなたにとって満足いくものだとしても、〝あなただけのベスト〞が他にある可能性はかなり高い。今回使用したCBR600RRは、タイヤも純正の完全なノーマル車両だ。にも関わらず、大きく乗り味が変わり、平嶋さんにとっての〝楽しさ〞をさらに引き出すことができた。

まずはプリロードから始めてみよう。その先には、数段上の走りの世界が広がっているはずなのだから。

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