【おいしい回転数で走る、駆動力コントロール①】多くのライダーはエンジンをコントロールできていない
一般的なバイクのほとんどは、ライダーがギアを選択しながら運転する。とはいえ同じ速度域で使えるギアには、極低速域と最高速付近を除けば幅があり、1~6速のどれを選んでも100km/hで走れる……なんて大排気量車も少なくない。このとき、低いギアならエンジン回転数は高く、高めのギアなら回転数は下がるので、力強さや扱いやすさ、スロットルを閉じたときに効くエンジンブレーキの強さなどは、どのギアを選択しているかによって違いが生まれることになる。そんなことは、サーキットのスポーツライディングを体験したことがない人でも、公道走行での経験、あるいは変速機の仕組みなどから理解できるだろう。そして、ここからが今回の本題。じつは、サーキットのエキスパートライダーたちは、ライディングフォームやライン取りやブレーキングポイントと同じくらい、おいしい回転数を使うこと(=何速で走るか)を意識しているのだ!
低回転は安全という正解のような間違い
そもそも初中級ライダーの多くは、低いエンジン回転数を使用しているほうが〝安全〞だと信じている。
公道における安全運転の鉄則は、まず速度を落とすこと。同じギアを選択している場合、低回転と高回転なら当然ながら前者のほうが速度は下がるので、この部分を切り取るなら「低回転=安全」は成り立つ。
一方でサーキットのスポーツライディングでは、極端な低回転の使用が、むしろ転倒のリスクすら増やしかねないとされる。エンジンブレーキの弱さや、得られるトラクションの少なさ、スロットルワークに対するダルな反応などがその理由だ。
とはいえ、これまで低回転で走るほうが安全と信じてきたライダーが、たまにサーキットを走るときだけ考え方を変えるのは難しい。
その結果、サーキットでもいつものツーリングとほぼ同じ回転域で走行。それでいてブレーキングはハードに、バンク角は深く、加速は鋭く……なんて考えるもんだから、マシンが不安定になり、むしろ怖さが増すという悪循環に陥りやすい。
仮に頭では理解できたとしても、身体はすっかり低回転に慣れ親しんでおり、なかなか脱却は難しい……。とはいえ、まずは頭で理解しないと先には進めない。というわけで今回は、サーキット走行における「おいしい回転数」を考察する。
なぜ多くのビギナーは“おいしい回転数”まで上げられないのか?
速度が速くなりそうで怖い
同じギアで走行している場合、当然ながらエンジン回転数が高いほうが車速は高い。エンジンの性能や特性は気筒数や形式や排気量などによっても異なるが、ある程度の領域までは基本的に、高回転のほうが低回転よりもパワフルになる。これらのことからビギナーは、「高回転まで使って自分がコントロールできる以上の速度になったらどうしよう……」と不安を抱き、“回せない体質”になりやすい。
高回転の音に恐怖を感じる
女性ライダーのほうが、高回転の排気音に恐怖心を感じる傾向にあるが、もちろん男性だって少なくない。低回転と比べて明らかに音量が増し、低回転での優しい音色から、「デュロロロロ!」とか「フォ~~ン!」とやる気いっぱいの甲高いサウンドに変化されると、
自分で操作した結果にもかかわらず、なぜかビックリしてしまう……。もしかしたらこれ、耳栓したら改善するのか!?
メカノイズが大きくなると壊れそうな気がする
排気音と同じく、サーキットビギナーを驚かせるのが、高回転域で発せられるエンジンのメカノイズ。それと同時に振動も大きくなる傾向なので、「大切な愛車のエンジンが壊れてしまうのではないか?」と不安になるライダーは少なくないようだ。しっかり整備された現代のバイクなら、一般ライダーがちょっと高回転を使ったくらいで簡単に壊れるわけないとわかってはいるのだけど……。
スロットルワークに対してエンジンの反応が鋭くなる
エンジンにもよるが、基本的には低回転より高回転のほうが、スロットルワークに対してエンジンの反応は鋭くなる。サーキットビギナーの場合、正しいライディングフォームや操縦ができていないため、鋭すぎる反応は車体の挙動を乱すことに直結しやすく、結果として必要以上に回転数を落として走ることに……。
恐怖心があるため、いい塩梅の回転数まで上げることを試せなくなりがちだ。
ツーリングで使わない領域だから慣れていない
サーキットで本来使用したいエンジン回転数というのは、一般公道で良識ある走りをしているライダーなら、ほとんど使うことがない領域。上に挙げた排気音やメカノイズも含め、ツーリングライダーにとっては“非日常”だ。そのため、同じく“非日常”であるサーキット走行でも、つい慣れている低回転域を使いがちだし、そもそも未体験の高回転数を使うという発想に至らない人も少なくない。
シフトダウンしたらリアが滑るかも?
普段の公道走行でも、濡れた路面や白線の上、砂利が浮いた舗装路などで不用意にシフトダウンして、たいして激しい運転でもなかったのに、リアタイヤが“キュッ”と鳴いたなんて経験があるライダーは少なくないはず。しかも公道では、高回転域で強いエンジンブレーキを発生させる機会はほとんどない。
警戒心と未知への不安は、高回転域を使う積極的なシフトダウンを躊躇させる……。