元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座/エンジンオイルを交換する
元HRCのエンジニアで、鈴鹿8耐に出場したライダーでもあるANDYが、これまでの整備やレースの経験で得てきた「本当に役立つ」メンテナンスに関わるアレコレをご紹介していきます!
PHOTO/K.MASUDA TEXT/ANDY
「バイクの血液」とも言われるエンジンオイルを交換する
エンジンオイルの交換はDIY整備の代表格。自分でできるようになればオイルを選ぶ楽しみが増え、廃油を観察することでさまざまな情報を得ることもでき、愛車への想いがより一層高まります。
しかし、一見簡単そうなオイル交換ですが、正しい手順と方法で行わなければエンジンを痛めてしまうリスクもあります。この記事で自信をもって整備できるようになって頂ければ嬉しいです。
さて、「ANDYオススメのエンジンオイルブランドは?」と聞かれることがよくありますが、ずばり「純正の指定オイル!」と答えます。オーナーズマニュアルに記載されている銘柄を選べば間違いありません。
指定オイルがおすすめの理由は2つあります。1つ目はとても厳しいエンジンの耐久試験で使用されており高い信頼性があること。2つ目は価格がリーズナブルなことです。
どのメーカーもすべてのバイクでエンジンの耐久試験を行います。各社で試験方法や条件は異なりますが、指定オイルで耐久試験を実施する事が多いです。そのエンジンを開発しているエンジニアがOKを出したオイルは、世界一高い信頼性を持っていると言っても過言ではありません。
「でも、高価なオイルの方が性能は良いんでしょう?」という疑問を持つ方も多いと思います。もちろん高性能なことは間違いありませんが、どちらかと言えば「ストレートで相手に追いつく」「鋭いエンジンレスポンスを得たい」など、性能を高めたいライダー向けです。
価格に比例して耐久性もアップするわけではありませんから、使い勝手(コストと目的の優先順位)に応じて選んでください。ツーリングメインの方なら、浮いたオイル代で贅沢なランチをした方が満足度は高いかも知れません。
次にツールを準備します。第1回で紹介した基本ツールに加え、フィルターレンチとトルクレンチの2つが必要となります。バイク用のフィルターレンチサイズは64mmが多いですが、5種類ほどあるので注意してください。
ドレンボルトやフィルターなどは何度も緩め&締めを繰り返すため、規定トルクできちんと管理することで、安心してツーリングに出掛けられるようになります。
オイル交換整備でやりがちなミスは3つです。
1:ドレンボルト逆回し
2:フィラーキャップが開かない
3:オイル入れ忘れ
1のドレンボルトは車種によってさまざまな位置と向きで取り付けられており、特に底面から上に向かって取り付けられている場合、緩めているつもりが締め付け方向に回していて、ネジ山を壊してしまう事がよくあるので注意してください。
2のフィラーキャップは、適切な工具を持っていないと開ける事ができない場合があります。オイルを抜いた後にこれに気づくと、新油を入れられず走行不能に。必ずフィラーキャップから緩める事を習慣化してください。
3のオイル入れ忘れは以外に多く、「あとはオイルを入れるだけ」なのにSNSに夢中になったり……。その意味でもジョッキに新油を入れて準備しておくことは、作業を可視化できてミス防止に繋がります。
エンジンオイルの交換サイクルは、例えばホンダとヤマハは1万kmごと、カワサキとスズキは6000km、もしくは1年となっています。この数値を超えない範囲内で交換すればOK。
もしもツーリングなどで交換サイクルの距離を10%程度超えても何ら問題はありません。
一方で「3000kmごとか半年」と、より短いサイクルでの交換をすすめられるのも事実です。もし、指定交換サイクルではちょっと長くて心配だなと思う方は、5月と11月の年2回交換がおすすめ。
灼熱の真夏前、極寒の真冬になる前に新油へ入れ替えることで、一番厳しい条件のときに最も良いコンディションのオイルを使うことができます。
そもそもなぜオイルは汚れる?
オイルが黒く変色する原因はカーボン(煤)です。燃焼に伴って発生したカーボンはシリンダー壁に付着します。
エンジンオイルが壁面を潤滑しながら汚れを取り込むことで、徐々に黒く変色していくのです。ディーゼルエンジンはカーボンの量が多いため、交換後でもすぐに真っ黒に変色します。
逆にタクシーなどに使われるLPガスはカーボンの発生がないので、ほとんど汚れません。またバイクの場合はクラッチの摩耗粉も混ざります。
オイル交換の手順:ANDYの愛車CBR1000RR-R(’20)の場合
00:トルクレンチは用意しておきたい
ドレンボルトの締付不良は、エンジン焼き付きなどの重大事故に繋がるので、トルクレンチで確実に締めたいです。メンテナンススタンドがあると作業性が高まるので便利です。
01:フィラーキャップが外れるか最初に確認
オイルを抜いた後に外れない事に気づくと最悪です。コインで回すタイプは外しにくくナメる可能性が高いので注意。
フィラーキャップを開けておくとオイルが抜けやすいです。
02:ドレンボルトを外すと勢いよく出るので注意
外す瞬間は慎重に。廃油はオイルパンに受けて異物の有無やオイルの色、状態を観察。廃油パックへ直接入れるのはおすすめしません。
異常を見つけたらすぐにバイクショップへ。
03:フィルターは回転方向を間違えないように!
下から装着されていると緩めと締めの方向を勘違いしやすいので注意。着座から遠ざかる&「の」の字の反対回転が緩め方向です。
ドレンボルトも底面にあると間違えやすいです。
04:フィルターを外したら異物がないか確認する
フィルター座面には砂やホコリなどの異物が堆積している事があるので、向きによってはエンジン内に入ってしまう可能性大。
取り外したあとはすぐに異物をキレイに除去します。
05:新しいフィルターにオイルを入れてパッキンに塗る
オイルを満たす理由は空気量を減少させ油圧を早く上げられるからです。パッキンに新油を塗りまる。
滑りを安定せることでOリングのヨレを防ぎ、面と密閉させて確実性を高めます。
06:金属ガスケットは表裏を確認して入れる
角が丸く面取りされた側をエンジンに向けることで、エンジン側にキズが付きにくくなります。
こうしたちょっとした気遣いで、愛車を長く、きれいな状態に保つことができます。
07:フィルターとドレンボルトは締めすぎに注意!
何度も緩め&締めを繰り返すので、正しい締め付けトルクを数値管理することが大切です。
また締め付け後にマーキングして目視チェックできるようにしておけばプロ級です。
08:エキパイに付いたオイルは可能な限り拭き取る
拭き取り切れていないと想像以上に白煙が出てきます。端から見ると火事と勘違いされる場合も。
焼けシミになってしまうので牛乳パック等を使って掛からない工夫も大切です。
09:ジョッキを使うと入れやすく量も管理しやすい
オイルを排出している時間にジョッキへ新油を注ぎます。量を計れるだけでなく、実は少なくない「入れ忘れ防止」に役立ちます。
ジョッキ容量は3~4L程度が使いやすいです。
10:暖機してオイルを回さないと正しい油面は計れない
水温を80℃まで上げてエンジン停止。3分後にオイル量をチェックします。特にフィルターを交換した場合は必須です。
フィルター内のエアが抜けて量が変化するので注意して下さい。
11:ディップスティックはねじ込まずに油面を確認
スティックはレベル確認面を垂直にして挿入。車体は垂直か、サイドスタンドで立てるのかは愛車の取説を確認してください。
オイルの拭き取りは繊維が付着しないウエスで。
スティックを抜いてオイルの量を確認する
オイルが付着したラインとスティックの中心の交点が実際のオイルレベルになります。MinとMaxの間にあればOK。多少多いのは大丈夫ですが、Min以下でオイルが付着しない場合は危険!