1. HOME
  2. バイク
  3. 自身もSUZUKI 隼のオーナーである元GPライダー青木宣篤が3世代の隼を比較インプレ

自身もSUZUKI 隼のオーナーである元GPライダー青木宣篤が3世代の隼を比較インプレ

ハヤブサを飼いならす――3世代で変わらないもの そして、変わったもの 新型の3代目ハヤブサは、2代目のフレームを踏襲しているという。エンジン同様、最初はあまり期待が持てなかった。

劇的な変化はないのだろうか、と。しかし、走らせての印象は、やはりエンジンと同じように、かなりの進化が感じられた。 もっとも印象的だったのは、シートの真下あたりに重心が来ていることだ。GSX-R750と似た手法 でマス集中化を果たし、重量物を極力車体中央付近に集めたとのこと。

今までのフロントヘビー傾向に対して、新型はフロント50:リア50の理想的なバランスを実現している。 ハヤブサの押し引きはかなり重いので取り回すのは大変だが、いざ走り出してしまえばウソのように軽快だ。これは地道なマス集中の成果。こういうことをシレッとやってのけるのがスズキらしい。

また、フロントタイヤの接地点にきちんと荷重が乗っているのも非常に好ましい。ブレーキングすると荷重がグーッとフロントにかかるものだが、その荷重がちゃんとタイヤの接地点に掛かるようになっているから、違和感がなく、安心感が高い。

通常だとディメンションを変えなければ得られない効果だが、そのままのフレームでこれを成し遂げるとは、エンジンと同じようにかなり地道な開発が行われたはずだ。 サスペンションはよく動き、これも軽快さをもたらす要素となっている。

初代、2代目、そして今回の3代目と世代が進むにつれてサスの動きもよくなっているのだが、方向性はそれぞれに違う。初代から2代目になった時は、快適性が増した。2代目から3代目になった今回は、運動性能が高まっている。 ブレーキング時のフィードバックも多く、前輪まわりで何が起こっているのかがとても分かりやすい。

ただ柔らかいのとは違い、ハヤブサの領域である超高速域に対応する剛性感は備えつつ、挙動がよく伝わってくるので安心感がある。 初代、2代目ときて、3代目のステップアップ度合いがもっとも大きい。ハヤブサを操るにはハンドル操作が欠かせないが、それに対するリアクションがもっとも迅速で、ヒラヒラと操れる。それでいて、2代目で得た快適性は維持しているのだ。

SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
今回は3世代のHayabusaすべてに試乗してもらった。初代は青木さんが所有し、乗り続けているマシン。2代目はオーナー様のご厚意でお借りした。連続して乗ることで、各世代が目指した方向性や、進化の過程が鮮明に浮き上がってきた
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
1st Generation
’98年のドイツ・インターモトショーで発表されるや唯一無二の存在として注目を集め、’99年の発売とともに世界的人気モデルに。312km/hの最高速が大反響を呼んだが、意外な扱いやすさから息の長いモデルになった
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
2nd Generation
’07年デビュー。エンジン排気量を1340ccとし、最高出力は197psを発揮。大きくパワーアップを果たしながらも、乗り味はマイルド。長く逆輸入車として扱われていたが、’14年には同スペックで日本国内モデルも発売
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
3rd Generation
上質な2代目の基本構成を受け継ぎながら、多彩な電子制御の採用や細部の見直しなどにより完成形に近付いた。素性のよさに磨きをかけてアップグレードし、運動性の高さと快適性のバランスを新しい次元に引き上げている

スズキの意地とプライドを感じる

車体まわりでは、ABSもビッグステップを感じた。

少し前のABSは、ブレーキングをしたまま車体を傾けていくと減圧してしまう傾向が強かった。こちらがブレーキを握っていても勝手にリリースされてしまうのだ。そしてリリースしたかと思ったらまたブレーキがかかる、の繰り返し。ブレーキ圧が10、0、10、0と変動し、ドタバタとした印象があった。

新型ハヤブサのABSに、そのような挙動はまったく見られない。6軸センサーが投入されたことによって車体姿勢を検知しているから、ブレーキ圧コントロールの精度が飛躍的に高まっている。

ハードブレーキングで前のめりになりすぎると、ABSが介入する。だが、一気に全リリースするような振る舞いは見せない。10だったブレーキ圧を7にする、といった印象だ。そして再び10に戻す。まだ前のめりだな、と判断すると7にする。これを短時間で繰り返す。そして車体の傾きに応じて7が6になり、5になり……といった具合で、制御は非常にきめ細やかだ。

ほどよい過渡が用意されているから、ここにも気がかりな点はない。「どうやったら転べるんだろう」と、不埒なことを考えてしまうほどだ。

トラクションコントロールもABSと同様に、徹底して安心感を重視した設定になっている。効きやすい傾向で、極力滑らせない。ほどよく滑らせて前進させようとする最近のスーパースポーツ系トラコンとはかなり狙いが異なる。ハヤブサの個性に合わせたセッティングと言える。

さて、初代、2代目を交えながら、新型ハヤブサを総括してみよう。

初代ハヤブサのエンジンには、今になって思えばムダな燃料噴射があり、それが味わいとなっていた。燃焼のムダとムラが、血の通ったエンジンという印象を与えていたのだ。

2代目は、ジェントルになった。排気量が40㏄アップしたことで得た余裕をトルクに回し、初代にあった谷を丹念に埋めたのだ。

そして3代目、新型ハヤブサは、この形態での究極体になった。ストリートから300㎞/hまで不安なくこなせるというハヤブサらしさを維持したまま、今まで以上に高級感のある走りを備えている。

見えてくるのは、スズキの意地だ。「内燃機関を搭載する乗り物は、こうあるべきだ」という、スズキからの回答である。

SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
KYB製φ43mm倒立フロントフォークはインナーチューブにダイヤモンドライクカーボンコーティングが施され、高い路面追従性を発揮
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
リアサスペンションもKYB製フルアジャスタブル
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
軽量で接地感向上にも貢献している7本スポークホイールには専用開発のブリヂストン製S22をセット。マフラーは左右2本出しだ
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
高精度なクイックシフターはシフトアップ/ダウンの双方向が可能。シフトフィールも選択できる
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
流麗なカウルはハヤブサの象徴。ヘッドライトのロービームは上部のLED、ハイビームは下部のプロジェクターだ
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
メーターは、センターにフルカラー液晶ディスプレイを配し、多彩な情報を表示する
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
アップライトなハンドルポジションは健在。ハヤブサに快適性をもたらしている
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
厚いクッションのシートは大型グラブバーも装備。タンデムシート下にはETC2.0車載器を標準装備する
SUZUKI|HAYABUSA|ハヤブサ|スズキ
SPECIFICATIONS
●エンジン:水冷4ストローク、並列4気筒DOHC4 バルブ●総排気量:1340cc●ボア×ストローク:81.0×65.0mm●圧縮比:12.5:1●最高出力:188ps/9700rpm●最大トルク:15.2kgf・m/7000rpm●変速機:6段リターン●クラッチ:湿式多板●フレーム:アルミツインスパー●キャスター/トレール:23°00′/90mm●サスペンション:F=KYB 製テレスコピック倒立フォーク、R=KYB 製リンク式モノショック●Fブレーキ:φ320mmダブルディスク+ブレンボ製Stylema、モノブロック4ピストンキャリパー●Rブレーキ:φ260mmシングルディスク+ニッシン製1ピストンキャリパー●Fタイヤサイズ:ブリヂストン製バトラックスS22、120/70ZR17M/C 58W●Rタイヤサイズ:ブリヂストン製バトラックスS22、190/50ZR17M/C 73W●全長×全幅×全高:2180×735×1165mm●ホイールベース:1480mm●シート高:800mm●車両重量:264kg●燃料タンク容量:20ℓ●価格:215万6000~216万7000円

関連記事