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【クラフトマンシップの極意】Bimota KB4を中野真矢がインプレッション

「他と同じものは絶対に造らない」という、健全な意地。時代が変わり、カワサキとのパートナーシップを結ぶようになっても、ビモータの根幹となっているマインドは、決して変わらず、揺るがない。KB4は、イタリアの職人魂と日本のエンジンが織りなす、クラフトマンシップの極致だ。

ユニークなデザインとフレンドリーな特性と

現役MotoGPライダーの頃は、ヨーロッパを中心とした生活だった。そこで触れたのは、個性の大切さだ。自己主張の強い人々の中で、オリジナリティは必須条件。それがなければ瞬く間に埋没してしまう。 

何よりもまず、個性が確立していること。世界で生きていくということは、そういうことなんだと知った。もちろん僕は協調性を重んじる日本人なので(笑)、自己主張ばかりはしていられない。でも、ヨーロッパ発の個性に触れると、うれしくなる。 

ビモータKB4は、まさに個性的だ。フォルムを目にした瞬間から、他にないバイクだということが伝わってくる。ディテールを眺めれば、アルミ削り出しが美しい金属パーツやカーボンパーツ、そして独特なテクノロジーに惹かれ、ビモータにしかできない独自性にそそられる。 

それにしても、本当にユニークだ。僕の中でのイタリアンデザインとは、繊細なエレガントさが基調にあるものだと思っていたが、KB4は随所が厚く、太い。「イタリアンデザインはこう」という既成概念を覆すデザインコンセプトには、圧倒される。「他と同じものは絶対に造らない」という意地のようなものすら感じられて、すがすがしい気分になる。なおかつ、トータルとしては美を感じさせるまとめ方が憎い。

ビモータがライダーに提供するエキサイトメントは、ライディング時だけではなく、ガレージで眺める時にも。独自性のカタマリとも言えるKB4のデザインは、まさに刺激的な存在感

ただ、この重厚感(と、437万8000円という車両価格)は、僕を身構えさせる。またがるまでは、かなりの躊躇とそれなりの緊張があったのは確かだ。 

しかし、懸念はすぐに消し飛んだ。大柄でボリュームのある印象とは裏腹に、非常に軽い。スペックを確認すると、車両重量は194kgとのことで、軽量化の恩恵は大きい。しかもシート高も高すぎることはなく、足着き性も意外と悪くない。 

それよりも、アルミ削り出しのトップブリッジやカーボンカウルが目に飛び込んできて、気分が高揚する。ツボを押さえた造作に、「ああ、モータースポーツを好きな人たちが造ったんだろうな」と、こちらまでうれしくなってくる。

日本人らしく非常に細かい点にも注目してしまうのだが、塗装にマスキングテープを剥がしたようなわずかな跡が見えるのも好ましい。

今どき塗装技術は向上しているし、簡単にデカールで済ませる方法もある。でもビモータは、手作業にこだわる。少数精鋭の職人さんたちが1台1台を丹念に手作りしている様子が想像できて、心が温まる。 

そこかしこに職人の手を感じられるKB4には、先進的でありながらも、味わいを楽しむ余地が残されているのだ。例えとしては少し飛躍するが、まるでビンテージフェラーリのよう。「このバイクを手に入れたら、ガレージで眺めつつクラフトマンシップを楽しめるなぁ……」と妄想してしまう。 

スイングアームもアルミ削り出し。しかもラジエターはシート下に据えられているなど、いろいろと驚かされるポイントは多い。今回の試乗ではそれらのパーツの効能までは分からなかったし、シート下ラジエターは大きなエアダクトが必要な分、全体的にファットな印象を強めてもいる。同じビモータでもテージH2はスリムに見せようとするデザインだったが、KB4はそれと対極的だ。 

しかし、技術的またはデザイン的なメリットやデメリットなど、細かいことだと思わされる。KB4で重要なのは、「他と同じことはしない」という心意気なのだ。 

それは、バイク乗りなら誰しもが持っているマインド。車中心の交通社会にあって、わざわざバイクに乗るのだから、どこかに「他人と同じは嫌だ」という反骨精神があるはず。KB4はその琴線に触れる。 

跨った瞬間に感じた軽さは、走り出すとより大きなメリットとなる。軽量な車体がもたらす軽快なハンドリングは、KB4の美点だ。 

僕は長い間、軽量化を尽くしたレーシングマシンを走らせてきた。そしてつくづく思うのは、「軽さは正義」ということだ。「軽くて悪いことがあるのかな?」と。こと運動性能に関しては、軽さは絶対だ。 

KB4は、重厚な見た目に反して軽やかに走る。軽いから荷重不足ということもないし、不安定さもない。スーパースポーツのようなクイックさとは異なるが、前後バランスの良さが光る。 

そう、KB4はスーパースポーツではない。これは声を大にして言いたいところだ。フレームはアルミツインスパーではなく、フロント部は鋼管トレリスフレーム、リアは削り出しのスイングアームピボットプレートという変則的なハイブリッド構造だ。ほどよくしなやかで、走り始めてすぐに安心の手応えが得られる。 

スーパースポーツではこうはいかない。タイヤが温まり、自分自身のコンディションも高まり、ペースが上がった時に初めてバチッと決まる。それに比べるとKB4は日常的な走りの領域から気持ちいい反応が得られる。 

個人的な興味としては、このバイクをサーキットに持ち込んで全力のタイムアタックをしたらどんな挙動を示すか試してみたくなる。だが、そんな夢想に囚われるより、今回の試乗のように流すようなペースで、気持ちよくワインディングを駆けている方が幸福なのかもしれない。 

走れば走るほど、安心感が増していく。エンジンは、KAWASAKI Ninja 1000SX用がベース。オールラウンドなスポーツツアラー向けに造られたエンジンだけあって、パワフルではあるが気易く扱える。 

僕はいつも思うのだが、バイクにおいてエンジンの存在はとても大きい。エンジンこそがバイクの基本キャラクターを始めとして、いろいろなことを決めていると言っても過言ではない。 

そういう意味でも、Ninja 1000SX用エンジンを搭載するKB4は、ルックスのユニークなイメージとはガラリと異なる走行特性を見せる。ライダーフレンドリーで、気持ちよく加速できて、日常的なペースの範囲内でスロットルを開けると、その分だけ安定感が増す。 

今回の試乗はあいにくの天気で、途中から雨がぱらつくコンディションだった。それでも緊張することなく、このスペシャルマシンを走らせることができたのは、エンジンの扱いやすさの賜物だ。

一見するとかなりクセがありそうなのに、付き合ってみると実はフレンドリー。この意外な二面性はKB4の大きな魅力となっている。

さて、最後に下世話な話かもしれないが、437万円8000円という価格に触れないわけにはいかない。普通に考えれば「とんでもなく高額」ということになるが、昨今はスーパースポーツモデルの価格も軒並み上昇している。200万円オーバーは当たり前、300万円台も決して珍しくない。

それをベースにKB4を眺めると、他にはない独自性と上質なクラフトマンシップのオンパレードだ。随所からイタリアの職人気質が感じられる。そしてオーリンズ製サスペンション、ブレンボ製キャリパーといった高性能パーツが装着され、きっちりとバランス取りされている。さらにはオールペイントも含めれば、スーパースポーツ+100万円は高額すぎるとは思えない。 

バイクレース好きなイタリアの職人——アルティジャーノたちの手によって、こつこつと組み上げられていくKB4。お金には決して換算できない価値が、そこにはある。

Bimota KB4

  • エンジン:水冷4ストローク直列4気筒 DOHC4バルブ
  • 排気量:1043cc
  • 最高出力:142ps/10000rpm
  • 最大トルク:11.3kgf・m/8000rpm
  • シート高:810mm(±8mm)
  • 車両重量:194kg
  • 価格:437万8000円
カウルはカーボン製
カワサキ純正マフラーが扱いやすい特性に寄与
オーリンズ製リアサスペンションはアッパーマウント部の偏心機構でシート高を変更可能
アルミ削り出しのバックステップはポジション変更が可能だ
テールカウル後端には小物入れも装備
フロントフォークはオーリンズ製、ブレーキシステムはブレンボ製、ホイールはOZ製の鍛造品 
懐の深いNinja 1000SXのエンジンを搭載する
Ninja 1000SXと共通の4.3インチフルデジタルTFTカラー液晶メーター

ユニークでありながら、ファンクショナル。すべてに意味がある

アルミ削り出しのトップブリッジは肉抜きされ、レーシングライクな雰囲気を醸成しながら、軽量化にも貢献している。スイングアームは3ピース構造で、こちらもアルミ削り出しだ。クールな美しさをもたらすとともに、高強度といった機能性も備える。また、極めて独自性の高い機構としてシート下にラジエターを配する。単に奇抜さを追い求めたのではなく、エンジン搭載位置をできるだけ前方にするのが狙い。すべてに意味を持たせている。

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