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GASGAS SM700【スーパースポーツ顔負けのハイパワーモタード】

来年からMotoGPクラスに参戦することでも話題沸騰中のGASGASから、ビッグシングルエンジンを搭載した過激なスーパーモタードモデルが新登場。ルックスはとにかくアグレッシブだが、その走りはどうなのか?「現役時代にはモタードのトレーニングも少し……」という中野真矢さんが駆る!

水冷ビッグシングルは意外なほどスムーズ

「いやあ、事前にGASGASの試乗と聞いたから、トライアルバイクだったらどうしようかと思いましたよ」 

サーキットに現れた元MotoGPライダーの中野真矢さんが、こう笑う。無理もない。GASGASは、トライアル車のメーカーとして’85年にスペインで創業され、トライアル世界選手権の最高峰クラスではこれまで5度、シリーズチャンピオンを輩出してきた。その後にエンデューロシーンなどでも活躍してきたが、トライアルメーカーのイメージは色濃い。 

そんなGASGASは、’20年からKTMやハスクバーナなどを所有するピエラ・モビリティAGの傘下となり、ロードレース世界選手権のMoto3やMoto2ではアスパー・チームを支援。さらに来年は、現在のテック3・KTMファクトリー・レーシングとタッグを組んで、MotoGPクラスに初参戦することも発表されている。ライダーは、ホンダから移籍するポル・エスパルガロ選手と、25歳のスペインライダー、アウグスト・フェルナンデス選手がMoto2からステップアップすると発表された。 

KTMのグループ企業になったことで、これまで基本的には無縁だったオンロードの世界にも積極的に進出するGASGAS。市販車のほうも、ラインアップの拡充に着手していて、’22年にはビッグシングルエンジンを搭載したスーパーモタードモデルのSM700が新発売された。オフロード仕様のES700と同時発表されたGASGASの700シリーズは、KTMの690シリーズが開発ベースに使われ、外装デザインや車体各部のカラーリングを除けば、KTMの690SMC Rや、同じくこれをベースに開発されたハスクバーナの701スーパーモトとの違いは少ない。

ただしSM700の場合、他の兄弟車がワイヤースポークホイールを採用するのに対し、より軽量な前後キャストホイールを装備。これが個性のひとつとなっている。「レーシーなモタードスタイルと898mmのシート高に、最初は多くのライダーが身構えると思うのですが、じつは素直でいいバイク。こういうバイクの場合、スロットルを開けるとドカンと加速……みたいな演出を取り入れてくるメーカーもありますが、SM700はそういう感じがなく、開けやすい印象です!」 

進入スライドまで披露した試乗を終えて、ピットに戻ってきた中野さんは、開口一番このようにコメントした。SM700に搭載されるエンジンは692.7㏄で、量産型の単気筒エンジンとしては最大級と言ってよい排気量。それでも、「狂暴なイメージは皆無」と言う。

「もっと荒々しいバイクを想像していたのですが、意外とスムーズ。低中回転トルクのある単気筒エンジンですが、ドンっと意図せず前に出てしまうようなことはありません。アグレッシブすぎる仕様よりもこれくらいのほうが、いろいろ試せると思うし、排気音もそれなりに抑えられていて、飽きずに長く乗れるバイクかもしれません」 

エンジンにはフレンドリーな雰囲気もあるようだが、とはいえ車体は大柄なモタードスタイル。オンロードスポーツ車からの乗り替えでは、戸惑うこともありそうだが……。

「シートが高いこともあり、最初から乗りやすさが感じられるわけではないですが、自分なりに座る位置が決まると、そこからはうまく扱えると思います。とはいえ、極端に車体の前側に座るとか、特殊なことをする必要はなし。普通にオンロードバイクと同じようなポジションに座って、ハングオフで操って楽しめます。このとき。僕の身長だとコーナー外側の足がステップに届かず、いわゆる〝マモラ乗り〞になりますが、これは仕方がないところでしょう。高いシートも、走り出してしまえばむしろよくて、着座位置の高さを利用して軽快にバンクさせられます」 

エンジンマップは2種類から選択でき、リアのABSやトラクションコントロールはオフにすることも可能。これらのおかげで、クローズドコースではスライド走法などの派手なライディングも可能だ。もちろん、できるかどうかはライダーの腕次第ではあるが……。

「そこまで過激なライディングをするかどうかは別として、サーキットを走らせるのも楽しいバイクです。パワーはそれなりにあるのですが、高回転域までギンギンに引っ張るよりも、トルクを活かしつつポンポンと早めにシフトアップするのがオススメです。だからコースとしては、今回走らせた筑波サーキット・コース1000くらいの規模が一番マッチしそうです」 

ちなみに前後サスペンションはWP製で、フロントは伸圧減衰力、リアは伸圧減衰力とプリロードをすべて調整可能。スタンダードの状態では、モタードらしくかなり動くが、「とりあえずこのままで問題ない」と中野さんは分析している。

「オンロードバイクと比べたら前後のピッチングはとても多いですが、コーナーの進入などでしっかり落ち着かせれば、そこから先は非常に好バランス。まずはぜひ、そのままの状態で楽しんでもらいたいです」 

中野さんは、450㏄の市販Motoクロッサーをベースとしたスーパーモタードレーサーも所有。このS M700は、「そういうレーサーに近い軽快感とライディングポジション」と話す。

「実際にはレーサーと比べたら重たいし、エンジンはマイルドな性格ですが、公道でレーサーの雰囲気を堪能できるモデル。オフ車をカスタムしてモタードマシンを製作すると、お金もかなりかかるし、チャタリングなどのネガが発生してしまうこともあり、意外と大変なんです。でもこれは純正ですから、もちろん車体のバランスも良好。これまでのオンロードスポーツモデルから、少し違うジャンルに踏み込んでみたい人に、ぜひ知ってもらいたいモデルです。ベースはKTMとはいえ、いまMotoGPで話題のGASGASですしね!」

GASGAS SM700

  • エンジン:水冷4ストローク単気筒 SOHC4バルブ
  • 排気量:692.7cc
  • 最高出力:75ps/8000rpm
  • 最大トルク:73.5Nm/6500rpm
  • シート高:898mm
  • 車両重量:148.5kg(燃料除く)
  • 価格:158万円
「LC4」と呼ばれる、最高出力75psの692.7cc水冷単気筒エンジンを、トレリス構造のクロモリ鋼管製フレームに搭載。上下双方向対応のクイックシフター付き
ポリアミド素材を使用しながら一体成型されたリアサブフレームは、燃料タンクを兼ねていて、これがシリーズの大きな特徴。アップタイプマフラーは左側配置だ
テーパー形状のアルミ製ハンドルを採用。メーターはフルデジタルだが、オフロードレーサー用を移植したかのようなシンプルさ。左手側のマップ用スイッチも同様だ
KTMの690SMC系やこれをベースとしたハスクバーナの701スーパーモトは、いずれもスポークホイールを採用してきたが、SM700は初めてキャストホイールを装備。前後サスペンションはKTMと同じグループに属するWP製で、ABSはリアのみカットできる

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