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熱狂バイククロニクル【様々なレースを戦った、柔軟なフォーム|ジョン・コシンスキー】

今月は個人的に隠れた天才ライダーだと思っていた、ジョン・コシンスキーさんを考察します。これまでGPシーンを観てきて、どこかケーシー・ストーナーさんとイメージが重なるのが、コシンスキーさんでした。もちろん、コシンスキーさんの方が先輩となりますが。最高峰クラスのGP500でも、戦う条件と体制が整えさえすれば、きっと世界チャンピオンを獲れていた!と思うライダーなのです。

コシンスキーさんはキング・ケニーの秘蔵っ子とも呼ばれていました。子供の頃から、ケニーさんからその才能を買われていたのでしょう。そんなコシンスキーさんですが、活躍したレースは多岐に渡っています。ヤマハ、スズキ、カジバ、ドゥカティ、ホンダと渡り歩いています。AMA時代はGP250クラスで戦いました。’88〜’89には全日本や鈴鹿8耐にもスポット参戦を繰り返していました。ちょうど、ガードナーさんみたいですね。

当時、全日本で鳴らしたGP帰りの清水雅広さんや本間利彦さん、原田哲也さんでさえも、コシンスキーさんには勝てませんでした。僕たち日本のレースファンもこの頃から、コシンスキーさんの速さに驚いたものでした。

そして’90年、チーム・ケニーから世界GPにフル参戦を開始。参戦1年目のこのシーズンにGP250クラスにおいて、シリーズチャンピオンを獲得してしまいます!

’91年シーズンからは最高峰クラスGP500へステップアップしました。ウェイン・レイニーさんのチームメイトでした。しかし’92年シーズンにおいてもレイニーさんの成績には及ばず、なんと’93年シーズンからはスズキに移籍してしまいました。RGV-Γ250での参戦でした。

そしてこのシーズン、後にチャンピオンを獲得した原田さんと、開幕戦オーストラリアGP、第7戦オランダGPで激しいバトルを展開。両レースとも最終的に競り負けてしまいました。この時、RGV-Γに対する不満が爆発したのか、レース直後にマシンを壊し、3位表彰台にも現れず、そのままスズキから契約破棄される大事件を起こしてしまいました。

ですが、その直後にカジバとの契約が決まり、第11戦チェコGPからGP500クラスへの参戦が決まりました。1シーズン中に2クラスへの参戦となったわけです。

カジバでは’93年シーズン途中から、’94〜’95年シーズンも含めて計2勝を挙げていて、やはりコシンスキーさんの速さは本物である事を証明しました。

さらに凄いのが、’96年シーズンからはドゥカティを駆り、ワールドスーパーバイク(SBK)にフル参戦を開始。翌’97年シーズンにはホンダRVF750に乗り換え、そのままSBKのチャンピオンを獲っています! さらに’98〜’99年シーズンには再び世界GPのGP500クラスに復帰し、NSR500を駆りました。そして’99年をもって世界戦のレースから引退しています。

この奇々怪界とした、激しくうねるようなレースキャリアはコシンスキーさんならではでしょう。個人的にはチーム・ケニーにレイニーさんがいなければ、コシンスキーさんの天下もありえたのでは、とも思ってしまうのですが……。

そんなコシンスキーさんのライディングですが、非常に特徴的で分かりやすいフォームをしていました。漫画イラストで描きましたが、レース中にペース配分をしている時には、頭がマシンのセンターに位置し、上体も自然と立ち気味で、無理を感じさせないリラックスしたフォームで乗っていました。ですが、「本気乗り」と言いますか、タイムを狙いペースを上げ出すとグッと上体が低くなり、頭がイン側に入ります。さらに頭をイン側に傾けるので、ちょうど現在のモトGPで流行りの、上半身がイン側に大きく入る乗り方となり、「流行りの先乗り!」と言える印象になりました。

今イチ本気ではないフォーム(左)
レース中に他車とのペース配分や、タイヤのマネージメントを考えて走っているときは、頭がセンターに残り、上半身は立ち気味になる

ラストスパートなどで本気のフォーム(右)
“本気モード”に入ると上半身が低くなり、イン側に大きく入る。頭はアゴを引き、イン側に入るので、頭の傾き具合が特徴的になる

ライディングフォームの考察はテレビでのレース観戦ではとても役立ちます。各ライダーのフォームの特徴をそれぞれ捉えておくと、ライブの放送を観ながらも、トップを争うライダーが「まだ本気で走っていない!」とか「今日はいつもと違う。調子悪いのかな?」「来たぞ! ラストスパートに入った!」など、レース中に気づけるようになるのです。これが分かるとレースの観方もさらに深くなります。すると自分の予想する結果が実際のリザルトと近くなり、レースの面白さが倍増、いや倍倍増する事になるのです!

ぜひ、レース放送を観ながら好きな選手のライディングフォームの考察をなさって下さい! レース観戦がさらに面白くなりますよ!

【松屋正蔵】1961年・神奈川生まれ。’80年に『釣りキチ三平』の作者・矢口高雄先生の矢口プロに入社。’89年にチーフアシスタントを務めた後退社、独立。バイク雑誌、ロードレース専門誌、F1専門誌を中心に活動。現在、Twitterの@MATSUYA58102306にてオリジナルイラストなどを受注する

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