モノを造るヒトの想い|武 治さん【DOREMI COLLECTION】
空冷Z系マシンのリプロダクションパーツで知られ、旧車人気の立役者でもあるドレミコレクション。
だが、同社が近年力を入れているのは、名車のスタイルを模したエクステリアキット。
ドレミコレクション代表を務める武 浩さん。
旧車界の重鎮は今、何を考え外装パーツを造るのか?その想いを聞いた
好きなバイクに乗り続けたいその気持ちに応える
DOREMI COLLECTION 武 浩さん
茨城県水戸市出身。旧車の整備・販売のショップとしてドレミコレクションを開業。レストアやカスタマイズ、リプロダクションパーツの製造など、旧車に関連する業務を広く手がける。現在はメーカーとして、オリジナルパーツとリプロダクションパーツ、コンプリートマシンの製造・販売を行う
取材協力/ドレミコレクション
TEL:086-456-4004
https://www.doremi-co.com/
「幼い頃は、夏休みなど学校が長く休みになる時は、たいがい母方の親戚の家で過ごしていました。そこが陶芸の窯元なもので、自分も土をこねていましたよ。手伝いだったり、遊びだったり……。その時の
経験が、モノ造りに活きている部分があるかもしれませんね。今も、パーツの原型を造る時は、粘土で形を造るところから始めるんです」
そう語るのはドレミコレクション代表の武浩さん。同社は、空冷Z系用リプロダクションパーツで、多くのユーザーから支持を集め、近年は現行モデルを往年の名車の姿に変身させるエクステリアキットで注目を集めている。
エクステリアキットを〝着せ替えパーツ〞と揶揄する声があるが、なんとも嘆かわしいことだ。フレームやエンジンがまったく異なる車体の外装を、キットに置き換えるだけで、本来のものとは違うデザインのバイクとして、違和感なく仕立て上げることは簡単ではない。事実、ドレミコレクションのエクステリアキットは、パーツ単体で比べれば、原型の車両の部品とは形が異なる。取り付け寸法も、車体自体のサイズも異なるのだから当たり前だ。それが、車体に装着したパッケージの状態では、見事にオリジナルのイメージを再現しているのだから凄い。並のセンスでは成し得ない。ちなみに、パーツの原型を粘土で造るのは、インダストリアルデザインの基本工程。CGや3Dプリンタといった技術が発達した現在でも、バイクメーカーではインダストリアルクレイと呼ばれる樹脂粘土を使ってのデザイン作業が行われている。奇しくも、武さんのデザイン作業は、バイクメーカーと同じ工程を経ている。
「仕事のやり方も、陶芸の仕事から影響を受けている部分がありますね。出来の良い皿と悪い皿では、やっぱり出来の良い皿に高値がつくんです。品質って大事だなって、子供心に感じました。だから、ドレミのパーツは純正同等か、それ以上の品質や耐久性を持たせて造っているんです」
例えば樹脂部品。ノーマルの樹脂パーツは、ほとんどがABS樹脂で造られている。強度と耐久性に優れ、大量生産にも向くが、イニシャルコストが膨大。バイクメーカーが、大量生産前提で選択する素材だ。だが、ドレミコレクションでは、純正品がABS樹脂製パーツであれば、基本的に同じ素材で製作している。武さんの、品質へのこだわりを感じる部分だ。〝三つ子の魂百まで〞とは言うが、少年時代に、モノ造りの現場に触れた経験は、今も武さんの中に生きているということのようだ。
ちなみに、クリエイターとしての武さんを育んだのは、現在も銘品を多く造り出している笠間焼の名窯として知られる柏陶園。また、初めてバイクに触れたのも、柏陶園で過ごした日々でのことだった。
「5歳年上の従兄が、バイクに乗せてくれたんです。ヤマハのボビィでしたね。シフトアップする度に、どんどん加速していく。風を感じる感覚が最高に楽しく感じたことを覚えています」
16歳で原付免許を取得すると、ホンダMB-5を入手。この愛車とは、大学生になってカワサキZ 400GPを手にいれるまで付き合った。大学入学当初は、自宅があった水戸市から校舎のあった都心部まで通学に
も使っていたそうだ。片道、およそ3時間。たいしたものだ。 その後、バイクとは無関係の企業に就職し、いくつかの職を経験してドレミコレクションを創業。バイク関連からは縁遠い印象の社名だが、その由来が面白い。
「喫茶店の経営を任されていた時、そのお店の名前がドレミコレクションだったんです。店舗に自分のバイクを置いていたら〝売ってくれ〞というお客さんが来る。そういうことが増えていって、バイクのお店になってしまったんです」
ほどなく、バイクの輸入販売をスタート。アメリカを中心に、旧車の買い付けを始める。
「もともと貿易に興味があったんです。ある国で価値が認められていないものが、別の国では高く売れたりすることが面白くて……。現在ほどではありませんが、当時すでに旧車だった空冷Zは国内で需要がありました。そして、アメリカには中古のタマ数が豊富にあった。現地のバイク屋と交渉したり、スワップミートを回ったり、地道に足を使って探し回りましたね」
旧車を仕入れ、修理して販売する。現在のように旧車人気が盛り上がっていたわけではないので地道な商売であったそうだ。そうするうちに、ドレミコレクションの名前を広めることになるリプロダクションパーツの製造に乗り出す。
「阪神淡路大震災を境に、旧車用の純正パーツが一気に枯渇してしまったんです。部品がなければ修理してバイクを売れない。止むに止まれず、自分で造ることにしたんです」
そこに、部品不足に困っていたユーザーが飛びついた。あれも欲しい、これも欲しいという声に応えるうちに、ラインナップは莫大な数に膨れ上がる。オリジナルパーツも徐々に増えてきて、その中に現在のエクステリアパーツに繋がるアイテムが生まれていた。
「ゼファーのZ外装キットです。もともと新車の販促に繋がればいいなと造ったものなんです。カワサキの旧車のおかげで商売ができているようなものでしたし、カワサキの応援がしたかった。残念ながら、Z外装が話題になったのは、ゼファーが販売終了してからでしたけれど(笑)」
その後、ZRXベースのゴディエ・ジュヌー耐久レーサーキットや、CB1100をベースとした、CB1100Rモチーフのコンプリートマシンなどが誕生。ネオクラシックバイクの世界的流行と相まって、大人気を博することになる。旧車の世界で生きてきた武さんが、現行車のパーツを手がけるには理由がある。
「このところの旧車人気は異常です。あまりにも相場が高過ぎますし、盗難被害の話も多くていたたまれません。旧車は性能的には現行車に劣りますが、値段は高い。そうした不満の声が、多く耳に入ってくる。ただ、旧車のスタイルに憧れる人は多い。なら、現代のバイクで旧車のスタイルを再現したらいい。性能はいいし、故障の心配も少ない。より、多くの人に、好きな形のバイクを楽しんでもらえると考えたんです」
この春、東京モーターサイクルショーで発表し、大きな話題となったCB400SFベースのCBX400Fルック車「CB400SFタイプX」は、すでに1000台分を超えるオーダーが入っているという。これは、武さんの
考えに多くの人が賛同していることの証明だろう。
「今後、バイクもEV化が進むことは間違いないでしょう。レシプロエンジンの車両が完全に無くなるとも思えませんが、乗り続けることの難易度は上がっていくでしょう。これからは現代の車両も含めて、バイクが走り続けられるための、機能部品のリプロダクションも進めていくつもりです。手始めはCB400SF用の部品を考えています。生産が終了したバイクは、部品の供給がいつストップするのか分からないわけですから」
バイクをとりまく環境は、明るいとは言えない。だが、武さんは明るく、意気軒昂だ。
「ドレミのパーツは、品質と性能が純正品同等か、それ以上が基本です。少しでも多くの人が、好きなバイクで長く走り続けられるように、そのお手伝いがしたいですね」
Z900RS Z1 Style
Z900RSは同社が得意とするモデルのひとつ。同車デビュー時には、オフィシャルカスタムを手がけた実績もある。オリジナルの4本出しマフラーや、ロングテールカウル、サイドカバーなどでZ感を強調。2本サスに見えるリアサスペンションは、実はマフラーステー。
ZEPHYR FX Style
根強い人気のミドルネイキッド、Z400FXのスタイリングをZEPHYR(400)で再現。希少で高価な人気旧車のイメージを、比較的高年式で手に入れやすい車両で楽しむというコンセプトの先鞭を切った。スタイリングの完成度は極めて高く、大きな支持を得ている
CB400SF TYPE-X
大きな話題となったCBX400Fレプリカ。CB400SF各年式に対応するキットが用意される。燃料タンクは純正同様にスチール製、特徴的なテールランプは新造品だ。ドレミコレクション以外でも、バイク王など、中古バイク大手数社がコンプリート販売を行う