1. HOME
  2. COLUMN
  3. バイク
  4. 今年こそ! サスペンションセッティングに取り組んでみよう!

今年こそ! サスペンションセッティングに取り組んでみよう!

「サスペンションのセッティングが合ってなくてさ……」上手く走れない時、定番の言い訳だ。だが、それは都合の良い言い訳ではないのかもしれない。サスペンションのセッティングが外れていると、思うようには走れない。サスセッティングのスキルを身につけたいと願う人は多い。その、ヒントをレーシングライダー高田速人さんに聞く。

是非とも身に付けたいサスセッティングスキル

 思った通り曲がり、接地感が驚くほど高く感じられ、何の不安もなく走りに没頭できる。そんな経験をしたことはないだろうか? その経験があるのなら、サスペンションセッティングがピタリと決まっていた可能性が高い。 

バイクの走りは、さまざまな要素が互いに影響し合うものだから一概には言えないが、それほどサスペンションセッティングが走りにもたらす影響は大きい。 

だが、必要性は理解できていても、なかなか手を出しにくいのがサスペンションセッティングだ。サスセッティングの難しいところは〝普遍的な絶対値の正解が存在しない〞ところ。高いライディングのスキルを持ち、サスペンションセッティング能力のあるライダーがいたとする。そのライダーが〝これで完璧〞としたセッティングであっても、それが貴方の体格や乗り方にマッチするとは限らない。

「理想のサスセッティングは、乗り手本人だけのものです」 

「サスペンションは難しい。敷居は高いが挑戦して損はない」

そう語るのは高田速人さん。レーシングライダーとしてさまざまなマシンと向き合ってきた高田さん。開発能力も高い評価を得ており、サスペンションセッティングにも長けている。 

ここでは、高田さんを講師に迎え、サスペンションセッティングへの見識を深めていきたい。

「スキルにもよりますが、サスセッティング能力のある人ならば、他者の走りを見て、インプレッションや要望をヒアリングすれば、ある程度そのライダーに合ったセッティングを作ることは可能でしょう。ですが、そのセッティングがライダーにとってベストかどうかを判断するのは最終的には乗り手です。 
違和感を感じたなら、他人が良いと言っていても、乗り手に合ったセッティングではありません。そこは自分の感覚を信じるべきです。逆に、セッティングを変更する前より良い状態になっていると、そこで満足してセッティングを決めてしまいがちなのですが、それも間違いです。もしかしたら、ベストはその先にあるかもしれない。自分がサスセッティングをする時、良いと思えるセッティングが出ても、さらにその方向性で詰めたり、あえて逆方向にセットしたりして、悪影響が出てやりすぎだと判断できるまで試します。 
サーキットだとどうしてもタイムが出るセッティングを優先しがちですが、乗りにくく感じた場合は、やはり他のセッティングも試します。そうして自分のベストを探っていくんです」 

経験豊富な高田さんであっても、サスペンションセッティングは試行錯誤が必要。手間と根気は必要だが、サスセッティングに成功すれば、より楽しく、より安全に走れることは間違いない。

「とりあえず、サスペンションのアジャスト機能を触ってみるところから始めてみてください。ライダーの体格や体重にもよりますが、最近のスーパースポーツならば高荷重が前提のセッティングである場合が多いので、まずは前後のプリロードを抜いてみるところから始めるといいでしょう。 

少しずつでいいんです。そこで変化を感じられなければ、また少し調整量を増やしてみてください。変化を感じ取れるようになれば、サスセッティングの第一歩を踏み出せたと考えていいと思います」 

安易に、敷居が低いとは言えないが、挑戦してみないことには始まらない。とにかく、サスセッティングにトライしてみよう。

改めて知っておきたいサスペンションの基礎知識

サスセッティングは難しい、サスペンションが分からないから余計に難しい。物事を理解するには、原理原則を知ることが早道。セッティングのスキルを身につけるために、これだけは知っておきたいサスペンションのメカニズムを押さえておこう。

サスペンションの主役はスプリング

バイクの車体は、スプリングを介してフローティングされた状態で、路面と接している。そのため、走行中の車体姿勢は常に変化し続けている。車体姿勢は運動性や安定性を左右する、重要な要素であるにも関わらずだ。どうにも不安定な乗り物なのだが、その不安定さがバイクの面白さの一因となっている。 

スポーツライディングを考える上で、車体姿勢は極めて重要。そこを機械的に司っているのがスプリングだ。サスペンションは、まずスプリングありき。スプリングをどう使いこなすかが、サスセッティングの肝といえる部分なのだ。

プリロードを強めてもスプリングの反力は変わらない

サスペンションのスプリングは、あらかじめ縮めた状態でセットして使用する。この縮める量を「プリロード」という。スプリングの固さは、標準的な体重と使いかたに合わせて設定されているが、全ての乗り手にベストマッチするわけではない。そこで、プリロードを調整することで、スプリングのどの部分からを使うかを変えて、乗り手や乗り方にアジャストするのだ。プリロードを強める(縮める量を大きくする)と、スプリングが硬くなったように感じるが、上のグラフが示すようにスプリングの硬さは変わらない。動きはじめる場所が変わるのだ。

ダンパーの役割はスプリングの補助サスペンションが動くスピードを制御する

 発明された当初のサスペンションは、スプリングの伸縮する特性だけに頼ったものだった。だがそれでは一度衝撃を受けると、なかなか伸縮が収まらないため、制震装置としてのダンパーが生み出された。 

その後、ダンパーの役割は大幅に高度化した。高田さんの走行写真を見てみよう。コーナー進入に向けた激しいブレーキングで、フロントフォークがフルボトムしている。この状況でダンパーが存在しないなら、ブレーキを弱めた瞬間、フロントフォークは一気に伸び、またその反動で伸縮を繰り返し、コーナリングどころではない。 

現代のサスペンションでは、マシンを支持する主体がスプリングであることに変わりはないが、ダンパーでスプリングの動きを制御し、車体姿勢をコントロールしているのだ。

ダンパーの原理と構造減衰力発生のメカニズム

ダンパーがスプリングを制震する力を「減衰力」と呼ぶ。一般的な構造のダンパーは、減衰力の発生源としてダンパー内に封入したオイルの抵抗に依存する。注射器の出口穴が大きいと中の水を簡単に押し出せるが、小さいと水を押し出す時に強い力が必要になる。減衰力発生のメカニズムは、その応用。フロントフォークやリアショックが伸縮すると、ダンパー内部のオイルが還流。その経路上に、注射器の出口に相当する穴が設けられており、減衰力を生み出している。

左のイラストは、正立フロントフォークの構造を簡素化したもの。ダンパーはカートリッジ式と呼ばれるタイプで、現代の高性能フロントフォークの多くが採用する。減衰力は、ダンパーオイルが圧側/伸側のバルブを通過する時の抵抗で発生する。

サスセッティングでこれだけ走りが変わる!

このページだけで、サスセッティング手順の全て紹介するのは不可能だ。ここではセッティング作業の流れは追わず、調整内容の狙いと理由、効果にフォーカスしていく。サスセッティングのスキルを身につけるための、高田流のアドバイスも紹介する。

サスセッティングでマシンはどう変わるか?

最初に述べておくが、このページはサスセッティングのマニュアルではない。サスセッティングのやり方を、全て紹介するには本誌まるまる1冊分のスペースが必要になる。いや、それでも足りない可能性すらある。それほどサスセッティングは、奥が深いのだ。 

そこで、ここでは本誌・阿部をサンプルとして、高田さんにサスセッティングを施してもらい、その効果がどれほどあるかを紹介したいと思う。もちろん、阿部がただ気持ち良く走れるようになったということでは意味がない。セッティング変更の内容とその理由を公開し、皆さんがサスセッティングを行うときのヒントとして役立ててもらうことを主な目的としている。使用したバイクはヤマハYZF-R1。走ったのは、筑波サーキット・コース1000だ。 

まずは阿部がコースイン。阿部の持ち味は、若さに任せた勢いの良さ。だが、今ひとつ走りに元気がない。インプレッションを聞くと、マシンは軽快に寝てくれるが、バンク中の安定感が乏しい。リアに不安を感じるので、立ち上がりでスロットルを開けていけないという。 

本人曰く「長年のホンダ乗りなので、ヤマハのハンドリングに慣れない」とのことだが、果たしてそれが理由なのだろうか? 阿部の走りを見て、コメントを聞いた高田さんは、早速セッティング変更に着手した。

阿部の気になるところ

・バンク中の安定感がもっと欲しい

・リアに不安があり、立ち上がりで開けていけない

高田さんのセッティングその真意を紐解いてみる

実際のセッティング内容は、左下の表のフェーズ1を参照して欲しい。フロントはプリロードを強め減衰を弱め、リアは減衰のみ調整している。この仕様で走り出した阿部はブレーキをかけたままコーナーに入っていけるようになり、全体的に安定感が向上したことで積極的にマシンを操れるようになったと大喜び。 

さらには、欲が出てきたのか「もっとフロントの安定感が欲しい」と言い出し、それに対処したのがフェーズ2のセット。安定感は増したそうだが、リアの接地感が掴みにくいかも? 

とコメント。今回のサスセッティングはここまでとしたが、大きな効果が出ているのは、阿部の走行写真をみれば一目瞭然だ。

「不安感はしっかりブレーキング出来ていないところに発していると判断しました。まず、フロントのプリロードを強め、ブレーキングでダイブしないようにしました。それだけだとストロークしにくくなり、ブレーキが効かないように感じるので、圧側減衰を抜いた。伸び側減衰を抜いたのは、ストロークが深い位置でもサスを動かしたかったからです。 
リアもプリロードを強めたかったのですが、作業時間短縮のために圧側の高速減衰をかけて代用したのがフェーズ1のセットです。その結果、リアがフロントを押しているようでしたから、リアのプリロードを弱めて減衰も併せて再調整したのがフェーズ2のセットです。安定感というより、操る時の手応えを出し、乗り手を安心させることを狙いました」

これだけの調整を同時に行い、その理由もしっかりと述べられるのは、高田さんのサスセッティングのスキルが高いから。普通は、こうは行かない。ビギナーがサスセッティングを行う時のポイント的なものはないかと聞いてみた。

「今回はスプリングのプリロードと減衰力を同時に調整しましたが、プリロードから決めていくべきです。プリロードで、動的な車体姿勢を調整することができますから。
例えば、バイクを曲がりやすくしようと、前下がりの姿勢を狙うとします。フロントフォークが伸びないように伸側減衰を強くしがちです。ですが接地感はスプリングの反力、タイヤを路面に押し付ける力のフィードバックで感じられるものですから、伸側減衰を強めるだけでは、フロントの安心感が弱まります。
減衰は調整しやすいので手をつけやすい。ですが、こういった弊害をまねきやすい。まずは動的な車体姿勢を考えつつプリロードを決めるところから始めるましょう」 

また、フロントとリアのどちらからサスセッティングを進めるべきかについて。リアが先との意見が多いが、ビギナーはフロントから始めるのも有効だという。

「リアは多少暴れても制御しやすいですが、フロントが暴れると怖いですよね? フロントが決まれば、安心感が高まるので色々なトライができる。また、フロントだけ、リアだけではサスセッティングは完結しません。相互に作用し合うので、片方に手を加えたら、もう片方も調整する必要があると考えましょう」 

今回紹介したのは、サスセッティングのダイジェストでしかない。実際は簡単ではないが、取り組む価値はある。ぜひ、挑戦して欲しい。

高田さんが作った阿部用サスセッティング

FASE 1※純正値から

F:プリロード………. +2回転

伸減衰……………. -2クリック

圧減衰……………. -1クリック

R:伸減衰……………. +1クリック

圧減衰高速……. +1/2回転

圧減衰低速……. -2クリック

FASE 2※FASE 1から

F : 伸減衰……………. +1クリック

プリロード……….. -1回転

圧減衰高速……. -1/4回転

関連記事