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中野真矢に学ぶ「ステップワーク」バイクを鋭く、軽く操作する

多くのライダーは“無意識”でステップワークをしているという。しかしそれを理論的に理解できないと、上達への道は遠い。中野真矢さんの経験から、「ライダーから見たステップワーク」を解明する。

PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA ILLUSTRATIONS/H.TANAKA
取材協力/カワサキモータースジャパン 0120-400819 https://www.kawasaki-motors.com/mc/

ステップを踏み続けてやじろべえになる!?

僕はこれまでもライディングパーティ(ライパ)や、一般ライダーに対するレクチャーなどで「ステップワークはとても大切ですよ」と教えてきました。その理由は大きくふたつあります。 

ひとつは「正しいライディングフォームを維持するために、ステップを踏みながら身体を支える必要があるから」。そしてもうひとつの理由は、「瞬時の体重移動や意識的な荷重によるリアサスペンションの反力を使うことで、素早い切り返しが可能になるから」です。 

バイクは下半身で操る……という事実は、これまで何度も、さまざまなプロライダーが本誌でも説明してきました。 

例えばハングオフの姿勢を維持するとか、S字の切り返しで右から左に体重移動をするなどの操作をするとき、ハンドルにしがみついて体重を腕で支えてしまうと、ハンドルに不要な入力が加わり、車体の挙動を乱す要因になりかねません。 

だから、体重の多くを下半身で支えながら操作する必要があるわけです。このときライダーは、左右のステップを踏んで微妙な調整を繰り返し、〝やじろべえ〞のようにバランスを取っているのです。 

とは言え、少なくとも現役レーサー時代には、「こういう場合は外側(または内側)のステップを踏む」というような、ステップワークに対する明確な意識はありませんでした。間違いなく、ステップに荷重してマシンを操作していますが、マシンを的確にコントロールするために、どちらかと言えば無意識に、瞬間的にやっていた部分はとても多いと感じています。 

無意識とは言え、かなりのステップワークをしていたというのは、現役時代にステップの〝グリップ〞にかなりこだわっていたことからも明らか。特に好きだったのはヤマハ時代のステップでしたが、それでも使い込んでいくとグリップ力が落ちてくるので、メカニックが定期的にエッジを研いで尖らせてくれていました。また、ブーツのソールは数レースで穴が空いてしまっていました。 

ちなみに、「ステップワーク」と聞くと左右のステップを瞬間的にガンガン踏み込むような操作を思い浮かべる人もいると思いますが、実際は左右のステップには常に少しずつ荷重されていて、その荷重量や左右の配分を微妙に調整していることの方が多いです。 

また、もうひとつ大切な視点があります。それは、ステップワークそのものでバイクの旋回力を引き出しているわけではないこと。ステップワークの結果としてライダーの乗車位置や姿勢が変わり、これによる重心位置の変化でバイクをコントロールしているのです。

(中野真矢)

左→右とステップ荷重すると右へのリーンが軽くなる!

きっかけを掴むための進入ステップワーク

ストレートエンドに待つコーナーに進入する際、マシンを少しアウト側に振ってからイン側にリーンさせると、リズムが掴みやすく、軽やかに旋回できるようになります。何もきっかけがないところから一気にスパッと寝かせるのは、上級者でも意外と難しいものなのです。 

でもこのときに、S字コーナーを走るように全身でアウト側にマシンを振ってから切り返すのではアクションが大き過ぎてロスにつながるし、かといって上半身だけで振ろうと思ってもクイックにはできません。そこで、ステップワークを重視した下半身の動きが大事になります。 

具体的には、まずアウト側ステップに荷重して微妙なリーンアウトの状態をつくり、マシンをわずかに外に振ります。このとき、ステップを踏んだ反力で身体はイン側に荷重移動しやすくなるので、マシンを起こしながら今度はハングオフの姿勢にチェンジ。その勢いのままバンクすれば、一次旋回へのきっかけが掴みやすくなると思います。 

ライパなどの走行会では、あまり極端な動きをすれば蛇行というマナー違反になってしまうし、そもそもファンライドレベルの速度域でMotoGPのように大きく弧を描くライン取りをするのは単なるロスなので、この点は注意してほしいところです。なので、まずはアウト側を踏んで、ステップワークの意識を持つことが大事。コーナーへのアプローチがスムーズになります。

旋回中も左右のステップを踏みバランスを調整している

「世間では『外足荷重だ』とか『いや、内足荷重だ』なんて議論になることもあるようですが、レースの現場でそんなことが話題になることは皆無でした」と中野さん。旋回中、プロは左右ともに踏む量を巧みに調整し続けている
「世間では『外足荷重だ』とか『いや、内足荷重だ』なんて議論になることもあるようですが、現場でそんなことが話題になることはなかったです」と中野さん。プロは左右ともに踏む量を巧みに調整し続けている

高速ストレートからのコーナーではMotoGPでも使う

「MotoGPなどの速度域が高いレースでは、自然と進入でコーナーと逆方向に振る走りになるんです」と中野さん。例えば右コーナーの場合、左にも振りやすくするため“右→左→右”というライン取りになることもあるという
「MotoGPなどの速度域が高いレースでは、自然と進入でコーナーと逆方向に振る走りになるんです」と中野さん。例えば右コーナーの場合、左にも振りやすくするため“右→左→右”というライン取りになることも
【足出しブレーキングではステップワークしていない?】
入スライドをコントロールする上で好影響を与えるとされる、近年のレースでは一般的な足出し走法。このとき、イン側のステップワークは“ゼロ”だが、アウト側のステップワークなどでマシンをしっかり下半身ホールドしながら、スライドやバランスを制御しているようだ
【足出しブレーキングではステップワークしていない?】
入スライドをコントロールする上で好影響を与えるとされる、近年のレースでは一般的な足出し走法。このとき、イン側のステップワークは“ゼロ”だが、アウト側のステップワークなどでマシンをしっかり下半身ホールドしながら、スライドやバランスを制御しているようだ

ステップワークのキモは下半身ホールドにある

下半身ホールドしやすいステップの踏み方がある

ハングオフの際は、外足のヒザに近い内腿あたりで、燃料タンクをホールドすることが大切。土踏まずではなく母趾球あたりでステップバーを踏むことで足首の屈伸が使え、体格やマシンに合わせたホールドが可能になり、瞬発性も増す。

ハングオフの際は、外足のヒザに近い内腿あたりで、燃料タンクをホールドすることが大切。土踏まずではなく母趾球あたりでステップバーを踏むことで足首の屈伸が使え、体格やマシンに合わせたホールドが可能になり、瞬発性も増す。
ハングオフの際は、外足のヒザに近い内腿あたりで、燃料タンクをホールドすることが大切。土踏まずではなく母趾球あたりでステップバーを踏むことで足首の屈伸が使え、体格やマシンに合わせたホールドが可能になり、瞬発性も増す。
コーナリング時の外足側は、ヒールプレートにカカトの内側を密着させるような意識で写真のようにステップを踏むことで、外足でのホールド性がより向上することもある。
【ヒールプレートを活用する場合も】
コーナリング時の外足側は、ヒールプレートにカカトの内側を密着させるような意識で写真のようにステップを踏むことで、外足でのホールド性がより向上することもある。

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