【タイヤと路面の接点を感じる”感じるグリップ”】総まとめ:グリップはライダーが引き出すもの
グリップ感がないとライディングは楽しめない
少なくともスポーツライディングが好きなライダーの間では、「接地感」や「グリップ感」というのは共通言語として浸透していると思いますが、これを言葉で解説するのはとても難解。ロードレースの世界でもごく普通に使われていますが、「グリップ」そのものではない感覚的なモノなので、何を指しているのか意外と曖昧です。
そんな「接地感」ですが、ロードレースにおいては、〝ある〞ときにはほとんど言及されず、〝無い〞ときにライダーが指摘する傾向です。例えば走行後にマシンの状態をメカニックに伝えるとき、「接地感があるからOK」とはまずならず、「接地感が無いからなんとかして!」なんて感じ。これは、「グリップは、あるならいくらでも欲しい!」というプロレーサー心理も影響しているのかもしれません。
市販車で楽しむサーキット走行では、レースのようにシビアな操縦はしませんが、もちろん接地感は常に探っているし、撮影ではいろんなバイクに乗ることもあり、レースのときよりもさらに段階を細かくしてタイヤグリップを判断しています。
コースインしていきなり全開なんてことは皆無。接地感を探るため、ラップタイムはともかく感覚的には5〜6割のペースでまずは走り、ある程度は大丈夫そうなら少しペースアップして、ブレーキングでの感触、倒し込みからフルバンク手前あたりまでのフィーリングなどで、マシンとタイヤと路面の状態を判断します。そして十分な接地感を得られるようになって初めて、より積極的に操縦するというのが基本です。
そして、これまた言葉の使い分けが難しいのですが、接地感があることでライダーは安心感を得られ、それにより「タイヤのグリップをより引き出せる」ようになります。
グリップを引き出すという感覚は、紙の上で消しゴムを滑らせてみると理解しやすいかも……。
力を加えていない消しゴムは、ほとんど抵抗なく紙の上を移動しますが、上から力を加えればグリップします。
でも、紙を破いたり消しゴムが折れたりすることがない適度に力を加えるためには、バイクで言う「接地感」=「手先の感触」が必須です。
というわけでタイヤは、荷重することでグリップが増えるのですが、最大のパフォーマンスを引き出すためには、十分な接地感がある準備万端な状態にしてあげることが最優先かつ出発点。MotoGPなどで、後輪を激しくスライドさせてコーナーに進入するシーンを見たことがある人もいると思いますが、アレも接地感があるからこそできること。皆さんも、ウェット路面を走って不安に感じたことがあると思いますが、そういう状態ではプロライダーだってほとんど何もできません!
ところで今回の撮影では、路面にブラックマークを残しつつ、派手にスライドさせてカウンターを当てながらコーナーを立ち上がるパフォーマンスを披露しましたが、じつはこのとき、シートへの荷重を減らすとか、パワーバンドを使って立ち上がるなど、敢えて後輪の〝グリップを抜く〞操縦をしています。どのように乗ればタイヤのグリップを最大限に引き出せるか、どこに限界点があるのかを感じられると、こんなことも可能になるのです。まあ、これが速さに繋がるかは疑問ですが……。
さてこれからの季節は、路面温度が低くなってきます。夏はそこまで神経質にならなくても大丈夫だったかもしれませんが、同じ感覚でいると、突然タイヤに裏切られるかもしれません。私たちプロライダーは、そういう失敗を何度も繰り返してきました。だからこそ、どんなときも走り始めは慎重に、まずは接地感を探るのです。十分に気をつけながら、グリップを感じてスポーツ走行を楽しみましょう。
(中野真矢)