元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座/Pert01:必須工具の選び方
元HRCのエンジニアで、鈴鹿8耐に出場するライダーでもあるANDYがこれまでの整備やレースの経験で得てきた「本当に役立つ」メンテナンスに関わるアレコレをご紹介する新連載がスタート!
PHOTO/K.MASUDA TEXT/ANDY
優先順位の高い工具から揃えるのがオススメ
もし、まだ何も工具を持っていないなら、アマゾンなどで売っている1万5000円程度のツールボックスに入った工具セットがオススメです。安いのに工具の種類が豊富で、収納しやすく、十分な耐久性があります。
バラで集めるより安くなるので、賢い買い物と言えます。一方、バラで揃える場合は、以下の「優先順位」を参考にしてください。
優先度が高い工具は4種類。メガネレンチ、両口スパナ、ドライバー、ヘックス(六角棒)レンチです。これらがあれば、初心者の方が消耗品を交換するならば十分と言えます。
メガネレンチは「緩める」作業を確実にこなす事ができるので必須です。開口部がある片口スパナで緩めようとすると失敗する可能性が一気に高まってしまいます。
次に優先度が高いのがソケットレンチ、ソケット、T字レンチです。ソケットは工具とスペースが節約でき、さまざまなハンドツールに対応できます。「ソケットの数×ハンドツールの数=整備の幅」と言えます。
ソケットレンチは最初に買うなら安価な物でいいので、差込角3/8インチの首振りタイプがいいです。
ソケットのサイズは8〜17mmに加え、アクスルシャフトに使われているサイズがあればOK。使用頻度が高い8、10、12mmはディープソケットもあるといいですね。
ソケット選びの注意点ですが、8〜19mmまでは3/8インチ、21mm以上は1/2で揃えたいところ。なので、差込角のサイズ変換アダプタ3/8→1/2インチがあると便利。
T字レンチはバイクに最適な「特殊工具」と言えます。クルマの場合はレンチを振るスペースがほとんどありませんが、バイクは使える箇所が多いです。サイズは8、10mmがあればOK。ソケットを差し替えられるタイプもあれば最強です。
使用頻度は低いですが、トルクレンチとスピーダーもあると便利。以上を揃えておけば、パッド交換やホイール脱着もできます。
「頻度は低い」と言いましたが、トルクレンチはブレーキ系、ハンドル系、液体関係、足まわりを整備するのであれば必須です。ボルト・ナットの締め付けが弱ければ緩み、強すぎれば破壊の恐れがあります。
トルクレンチはできれば2種類用意したいです。10〜40N・mを計測できる3/8サイズを1本、アクスルシャフトなどを締め付ける40〜140N・mを計測できる1/2サイズです。オススメは東日製で、「カチン!」と伝わるクリック感と音の質感が世界一心地いいです。
またメーカーに校正(正確に指定値で締められるかを計測)に出せるし、緩める作業にも使用できます。整備を頻繁に行う人ほどトルクレンチの精度は高めておきたいですね!
そして工具ではないですがエアゲージは必須です。安価な製品で精度に不安があるなら、信頼できるエアゲージ(バイクショップが所有する物など)と同じタイヤを計測し、その差を把握して自分で補正しましょう。
また、ツーリングなどの帰りに、最寄りのガソリンスタンドで指定空気圧よりも20kPa程度追加しておくと、次回出発する時に抜いて調整できるので、自宅に空気入れが無い方にオススメの方法です。