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2ストロークオイルについて知る|もう一度、オイルについて考えてみる

すっかり数を減らした2ストロークエンジン搭載車。だが、オイルを識るためには、その専用エンジンオイルについて学ぶ意義は深い。そこには意外な発見がある。

PHOTO & TEXT/K.ASAKURA
取材協力/ジェイシーディプロダクツ 
http://www.jcd-products.com/

2スト用エンジンオイルの意外な真実

近年、バイクのエンジンといえば4ストロークが当たり前。2ストロークエンジンのバイクを走らせた経験がないという人も多いはず。環境志向の高まりにつれて姿を消していった2ストロークエンジンではあるが、独特の乗り味のファンはいまだに多い。今回は、過去の技術としてではなく、オイルの基礎知識のひとつとして、2ストロークエンジンのオイルについて学んでみたい。講師はもちろん、高性能オイルブランド「A .S .H .」を展開するジェイシーディプロダクツで、代表を務める岸野 修さんだ。

まず、2ストローク用エンジンオイルだが、ガソリンと一緒に燃焼させるものであることは広く知られているところ。4ストローク用エンジンとは使用条件が大きく異なる。やはり特殊なのだろうか?

「実は、4ストローク用のエンジンオイルも、2ストローク用のエンジンオイルも、ベースオイルは基本的に同じものなのです。それぞれ専用のベースオイルが存在しているわけではありません」 と、岸野さん。では、異なる点は何処か?

「配合する添加剤の成分です。4ストローク用エンジンオイルを、2ストロークエンジンに使用し燃焼させた場合、カーボンが大量に発生し、排気ガスも煙ったスモーク状のものになってしまいます。その防止策として、添加剤にポリブデンという成分を加えます。ポリブデンはカーボンの発生を抑え、排気ガスもよりクリアにする効果があります。また、ポリブデンの含有量を増やすと、油膜も強くできます」

2ストローク用エンジンオイルに欠かせないポリブデン。だが、とにかく大量に添加すれば良いというものでもない。ポリブデンにも様々な種類が存在し、A .S .H .では2ストロークエンジンに最適なものを吟味して、最適な配合バランスを追求しているという。

「2ストローク用エンジンオイルの、品質の見分け方の一つの方法として、排気ガスの色で判断するというものがあります。スモークが濃いものは、ポリブデンの含有量が少なく、コストがかけられていないエンジンオイルだと考えていいでしょう」

また、2ストローク用エンジンオイル独特のポイントもあるそうだ。「2ストローク用エンジンオイルは、ガソリンと混ざった状態で使用されるものです。つまり、ガソリンで希釈された状態ですから、当然エンジンオイルだけの状態と比べると粘度が落ちます。競技用の場合、オイルとガソリンの混合比は、1:20から1:50といったところです。なかなか幅が広く難しい面もあるのですが、最も薄く希釈された状態であっても、しっかりと油膜を保てるように、作り込む必要があるのです」

ここで気になったのが、4ストローク用と2ストローク用のエンジンオイルが、基本的には同じものであるということ。仮に、4ストローク用エンジンオイルを、2ストロークエンジンに使用するとしたら、どういうことが起きるのだろう?

「出先で2ストローク用エンジンオイルを使い切ってしまった時などに、緊急対応策として4ストローク用エンジンオイルを使用するのは止むを得ないことでしょう。ですが、長期的にみれば、エンジンに良くありませんし、乗っていても楽しくありません。やはり、専用のエンジンオイルを使用するべきです」

専用品が存在することには意味があるのだ。それにしても、4ストローク用と2ストローク用のエンジンオイルが、基本的に同じものであるとは、知らなかった人も多いだろう。やはり、オイルの世界は奥深い。

役割の異なる2種類のエンジンオイルが使われている

2ストローク用エンジンのオイルは、燃料であるガソリンと混ざった状態で燃焼室内に送り込まれる。一般公道向けの市販車に多い分離給油式は、独立したオイルタンクを備え、吸気経路にエンジンオイルを圧送。レーシングマシンに多い混合給油式は、予めガソリンとエンジンオイルを混合するもの。どちらも、潤滑、密閉、冷却、洗浄といった役割を果たしつつ、ガソリンと一緒に燃焼して消費されていく。構造上、クランクケース内と燃焼室内が密閉されているため、ミッションには別にオイルが必要、これをギアオイルやミッションオイルと呼ぶ。

A.S.H.がリリースする2ストローク用オイル

PSE 2TCSMOTO-SPEC
ベースオイルに鉱物油を使用した2ストロークエンジン専用の部分化学合成油。最適な分子量の高品質なポリブデンを、リッチかつ適正な分量で配合し、燃焼室内のカーボンと排気ガスのスモークの発生を抑えつつ、強力な油膜を形成。エンジン性能と環境性能を両立

PSE GEAR
ベースオイルにエステルと鉱物油を使用した、部分合成油の高性能ギアオイル。コストを低く抑えながら、通常は用いられないレーシンググレードGL6相当の非常に高い極圧性を実現している。75W-90、80W-90、80W-140、250Rの4タイプの粘度がラインナップ

4ストローク用エンジンオイルの交換時期を走行距離での管理以外に適切に管理する方法はないか?

本企画では、エンジンオイルの交換サイクルは、設定した走行距離が経過したら交換する距離管理を推奨してきた。だが”それ以外にオイル交換のタイミングを判断する方法はないか?” との読者からの声が多いため、改めて岸野さんに聞いてみた。「走っている最中、急にシフトフィーリングが変わったと感じたら、それはエンジンオイルの粘度が低下したサインです。ポリマーを使用したエンジンオイルでは、そうした症状が出ることがあります。その場合は、早々に交換すべきでしょう。目立った症状が出ないと、一般の方にはオイルが劣化したかの判断は難しいかもしれません。最も判りやすいのは、実際にオイルに触れてみることです。劣化したオイルは指で擦り合わせただけでも、油性の低下が感じられますが、一番確実なのは距離管理だと思います」

レベルゲージタイプのオイルフィラーキャップは、付着したオイルに触れられるので、コンディションを把握しやすい。また、綺麗なウエス等にオイルを垂らすことで、汚れ具合も目視で確認できる
オイル点検窓からは、エンジン内のオイルを目視できるが、それだけでオイルのコンディションを判断することは難易度が高い。オイル点検窓は、オイル量の確認に用いるものと考えるべきなのだ

A.S.H.製品に関する問い合わせ先

A.S.H.の製品について、もっと深く知りたい。A.S.H.製品はどこで買えるの? といった読者から声が増加中。そうした質問に回答してくれる、問い合わせ窓口のメールアドレスを紹介。

● オイルや添加剤他、製品に関する問い合わせ
ジェイシーディプロダクツ info@jcd-products.com

● A.S.H.製品取り扱い店に関する問い合わせ
ジェイシーディジャパン info@jcd-japan.com

ジェイシーディプロダクツ代表
岸野 修さん

四輪チューニングメーカーで、エンジニアとして活躍。オイル開発を経験し、ジェイシーディプロダクツを創業。ブランド名の「A.S.H.」はフランス語で“高級”という意味を持つ「haute」の頭文字「h」の発音表記。バイク用のオイルを作るためにと、66歳にして普通二輪免許を取得したライダー

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