【バイクの動きが変わるサスペンションセッティング】セッティングを身近にするコツ
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何から始めれば良いのかわからないという読者のために、サスペンションのスペシャルショップG senseを運営し、多くの一般ライダーのセッティングを手がけている舟橋 潤さんに、セッティングに取り組みやすくなる考え方のコツをうかがった。
PHOTO/Y.OKUZUMI, K.ASAKURA TEXT/K.ASAKURA
ILLUSTLATION/H.TANAKA
セッティングはやはり難しいだが解けない謎ではない
その重要性こそ理解しているものの、多くのライダーが苦手に感じているのがサスペンションセッティングだ。〝セッティングはわからない〞そう皆が口を揃える。わからないから、つい避けて通ってしまう。
だが、それでいいのだろうか?
スポーツバイクにフルアジャスタブルのサスペンションが装備されているのは、商品価値を高めることが理由ではない。自分に合ったセッティングを作り上げれば、走りの世界は大きく変わる。
ここでは、サスペンションのスペシャルショップG sense代表の舟橋 潤さんをアドバイザーに迎え、セッティングに関するヒントや考え方について聞いていく。
まずは挑戦してみようと思うことが大事。難しいとの思いが先に立つ、サスペンションセッティングアレルギーを取り除くことから始めよう。
「大切なのは、自分が気持ちよく走れるかどうかです。最優先すべきは自分の感覚。サスペンションセッティングの好みは、ライダーそれぞれに異なります。他の人が良いと感じるセッティングでも、自分に合っているかはわからない」
耐久レースを例にあげよう。コンビを組んだライダーが、全く異なるセッティングをベストと主張することはよくある。どちらかが間違っているわけではない。
トップクラスのライダー同士であれば、それぞれ自分好みセッティングで走れば、近いタイムを記録する。それほど、セッティングの好みは属人的なのだ。
では、その〝自分好み〞のセッティングを見つけるためのヒントとは? 舟橋さんがセッティングを行う時に最初にすることを聞いてみた。
「まず、ギアを1速に入れた状態で、スロットルを開け閉めします。次にリアブレーキを踏んでみる。こうすることで、前後サスペンションのピッチングバランスを見ます。フロントだけが動くのも、リアだけが動くのも良くありません。理想は前後のサスペンションがバランス良く動く、ピッチングの支点がライダーの真下にあること。その状態であれば、サスペンションが大きく動いてもライダーは安定しているので、安心感が高く自信を持ってマシンを操作できます」
サスペンションの役割のひとつに、走行中の車体姿勢維持がある。車体姿勢が落ち着かなければ、ライダーは不安を覚える。では、不安定な状態であった場合、どう対処するのか?
「例えばですが、ブレーキングでフロントがダイブし過ぎると感じるのなら、フロントフォークのプリロードを高めます。セッティングはリア側から始めるべきと言われてはいますが、最初から気になる部分があるならそこから手をつければいいと思います。それで症状が改善すればよし。良くならないのなら、リアが動かないせいでフロントに影響が出ている可能性があるので、リアのプリロードを緩めます。ダンパーを調整するのは、その後ですね。サスペンションの主役はあくまでスプリング。ダンパーは、その補助だと考えるべきです」
ちなみに、ダンパーを調整する場合は、伸側から先に行うべきとのこと。セッティングを行う際は、車体への影響が大きい部分から手をつけるのがセオリーだからだ。スプリング ↓ 伸側ダンパー ↓ 圧側ダンパーの順が推奨される。
どうだろう? これぐらいなら自分にも出来る。やってみようという気になるのではないか?
これも立派なセッティングの第一歩。舟橋さんは、難しく考えずに、どんどんサスペンションセッティングにトライしてほしいと語る。
「失敗を恐れず、どんどんいじってみてください。悪くなったと感じたら、元の状態に戻せばいいんです。悪くなったと感じた状態から、さらにあれこれ手を加えるのは良くありません。迷路にハマります(笑)。一度、スタート地点に戻ることで、手を加えた内容が、どう作用するかも理解できるようになります。遠回りに感じるかもしれませんが、セッティングは積み重ねです。一足飛びに正解には辿り着きません。そもそも、セッティングには、絶対的な正解はないと考えてください」
バイクは全く変わっていないのに、「前回走らせた時に比べると乗れていない……」
逆に、「今日は絶好調で攻められる!」といった経験は誰にでもあるだろう。バイクを走らせるシチュエーションは、刻々一刻と変化し、二度と同じ瞬間は訪れない。ライダーの調子も常に同じではない。つまり、何時如何なる時にも完璧なセッティングなど実現不可能なのだ。
では、サスペンションセッティングの正解とは何なのだろうか?
「セッティングを行って、前より気持ちよく走れたなら、それが正解でいいと思うんです。他の人に否定されても、自分が良いと感じたなら、それが正しい。セッティングは他の誰のものでもない、自分だけのものですから。何度も言いますが、セッティングする前より悪くなったと感じるのなら、元の状態に戻せばいいだけです。簡単でしょう?」
サスペンションセッティングを難しく捉えることはない。自分なりにで構わない。とにかく挑戦してみよう。トライ&エラーを繰り返すうちに、必ず道筋が見えてくる。やらないより、やった方が絶対にいい。 いや、サスペンションセッティングから遠ざかることは、明確に損でしかないのだから。
前後がアンバランスだとライダーは気持ちよく走ることができない


主役はあくまでスプリング


ダンパーの役割はスプリングの制御

サスペンションならお任せのスペシャルショップ
舟橋さんが代表を務める、サスペンションのメンテナンスやチューニングを手がけるスペシャルショップ。OHLINSサービスセンターとして同社製品を得意とするが、サスペンション全般に対応。セッティングサービスやオリジナルパーツも好評
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