元MotoGPライダー中野真矢が乗りたいバイクをインプレ! スーパーネイキッドの評価は?
200psのスーパーチャージドエンジンを搭載し、メカメカしい迫力に満ちたデザインのZ H2ネイキッドバイクの枠組みを超越したモンスターマシン……という印象は、走り出してすぐに消え去った。中野さんは笑顔でZ H2を走らせる。しつけられたモンスターを。
中野真矢の乗りたいバイクに乗ってみた! Kawasaki Z H2
正直言って、ちょっと後悔してました。「なぜ自分は『Z H2に乗ってみたいんですが』とお願いしてしまったのだろう」と。 試乗当日はあいにくの天気で、筑波サーキットコース1000の午前中の路面はウエット。午後になって乾き始めたところでのテストだったんです。
そんなコンディションで乗らせていただくのは、200?を発生するスーパーチャージドエンジンを搭載したモンスターネイキッド……。「モトGPマシンに乗ってたのなら、何でも乗れるでしょう?」なんてよく言われるんですが、とんでもない! 僕なんか怖がりの慎重派ですから、かなりビビリながら走り始めました。
が、そんなビビリは一瞬で消え去りました。とんでもないモンスターだと思っていたZ H2でしたが、走り始めの低中速域から非常に扱いやすかったんです。特に僕がいつも注目しているアクセルの開け始め――スロットル開度で0・15%あたりのパワーの出方が最高にマイルドで、思わずヘルメットの中でニヤリとしてしまいました。
そこからコーナー立ち上がりにかけて少しずつアクセルを開けていった時のリアクションも素晴らしい。乗り手である僕が求めるところで、求めるだけのパワーが得られます。バイクを起こして大きくアクセルを 開けると、スイッチが入ったかのように豪快な加速を見せてくれます。スーパーチャージドエンジンの威発揮ですね。
でも、パワーの出方はとことんしつけてあります。過給器には、四輪でよく使われる表現である「ドッカンターボ」のような印象がありますが、Z H2のエンジンにそういう唐突さはまったくありません。爽快で気持ちいいパワーフィールです。 走り始めはハーフウエットから乾きつつある……という難しいコンディションだったので、下見だけしてすぐピットに戻ろうと思っていました。でも、すっかり楽しくなってしまって、そのまま周回し続けました(笑)。
トルクの谷やギクシャク感など、出力特性に難があったらとてもではありませんがそんな気分にはならない。「なんなんだこのバイクは……」と、ポジティブな意味で裏切られた気持ちでした。 コーナーを立ち上がってストレー トに入ると、これがまた速い! 中回転域からの車速のノリがいいので、体感速度は確実にスーパースポーツモデルより速く感じます。 もっと長いコースでラップタイムを狙うなら、全方位の運動性能が高いスーパースポーツに分があります。
でもZ H2はネイキッド。アップライトなポジションを始め、本来バリ バリ攻めるタイプではありません。でもショートコースなら、スーパー スポーツよりもタイムを出せるんじゃないかな……。 ZH2が優れているのは、エンジンの出力特性だけではないからです。フレームはフレキシブルで、前後サスペンションはよく動く。これが分かりやすさと安心感につながっているんです。
マイ・ベスト3に入る素晴らしいフィーリング
スーパースポーツは剛性感が極めて高くカッチリとしているので、超高速域からのハードブレーキングなど高荷重がかかる走りにも応えられます。その反面、タイヤが温まりしっかり荷重がかけられるようになるまでは感覚がつかみにくい。
今回のようにハーフウエットからの乾き始めなんて、苦手なコンディションと言えるでしょう。 でもZ H2は車体まわりにほどよいルーズさがあるだけに、挙動も路面コンディションも豊富に伝わってきます。物理的な限界はスーパースポーツより低いのですが、扱いやすさは確実に上回っているので、より幅広いシチュエーションでスポーツライディングが楽しめるんです。
「物理的な限界が低い」とは言っても、この日の僕は、思わずフロントタイヤを滑らせてしまうぐらい攻め込んでました(笑)。そういう時でも挙動が掴みやすいので、ちょっとドキッとはしたものの不安はありませんでした。 エンジンと車体のパッケージングが非常に優れているんですね。
ビビリで慎重派の僕としては、異例なぐらい早い段階からヒザを擦る走りができていたことが、Z H2の扱いやすさを示していると思います。 走り始めるまでの不安はどこへやら、「これはマイ・ベスト3に入るフィーリングだぞ」と、ひたすら感 動しつつ、楽しくていつまでも走り続けてしまいました。
ほとんど100点満点だったんですが、あえて難癖をつけるとすれば (その必要があるのか分かりませんが)、ガチで攻めていくと、パワーが出てくるポイントが予想よりも手前になっていくことです。 コーナリング途中、まだ深いバンク角でリアタイヤと相談しながらアクセルを開けてくタイミングで、想定よりも大きなパワーが出てくるので、ちょっとホイールスピンしやすいんです。
スーパーチャージャーのトルクの出方が影響しているのでしょう。でもこれは、相当攻め込んだ領域での話。しかも怖くはないので、逆に自分がつけたブラックマークを楽しめる程度の話です。 今回は試せませんでしたが、ブルートゥースでスマホと連携できる機能は楽しそうですね!
ログが採れるようなので、サーキット走行後にデータを見ながら振り返る、なんていう充実の時を過ごせます。こういうプラスαの喜びは、バイクを所有するうえですごく大事なことじゃないでしょうか。 スーパーチャージャーというエンジン特性に大きく影響する新機軸を投入しながら、バイクとしてのまとまりを高める。それをしっかり成し遂げたのは、川崎重工業が持てる技術を結集したから、でしょう。
特別なバイクとしてメイド・イン・ジャパンの底力を見せてくれているのが頼もしい限りですね。 できれば小排気量にもスーパーチャージャーを、と思うのは、さすがにわがままでしょうか?(笑)
Kawasaki Z H2 DETAILS
IMUを駆使し、トラコン、ABS、ローンチコントロールを総合的に制御するKCMFを搭載。クルーズコントロールも装備する
気に入ったポイント――Kawasaki Z H2 DETAILS
スーパーチャージャー
パワフルで加速力もすごいのですが、過給器ということを意識させない自然なフィーリングこそがすごい! 四輪よりもはるかに繊細なパワーデリバリーを求められる中、よくぞここまで仕上げたものだと感動します
トリスフレーム
エンジンに注目が集まるZ H2ですが、このトレリスフレームも秀逸。 パワーをしっかり受け止めながらしなやかさを発揮しています。前後サスペンションと合わせて、扱いやすく分かりやすい車体になっています
ライディングポジション
大柄に見えますが、ごく一般的なネイキッドのポジションで、ツーリングに出かけても快適そうです。シート高も高く見えますが、168cmの僕でも足着き性は余裕がありました。サーキットで攻めても違和感なし!